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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第9章
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第15話 俺はクロエさんの不正を疑う

 庭で遊び続けるカエデとサクラと一緒に、暫く体を動かした。


 2人から球を投げ付けられたり、逃げ回る2人に向かって球を投げたり。


 無心で遊び続けていたらあっという間に昼食の時間となってしまった。


 いやー、時間ってほんとあっという間に無くなるわ。


 昼食時、母さんは特に何も聞いて来なかった。姉さん達が帰って来るまでは黙ってるって事か。


 元気に走り回った2人は昼食をもりもり食べながら、パタンと電池が切れたように眠りに落ちた。


 2人ともフォークを握り締めたままなのが可愛らしい。まだまだ食べる気満々だったようだ。


 何も悩む事なく自由に日々を過ごす2人がちょっとだけ羨ましい。


 揺すっても起きない2人をマリーと一緒に寝室へと運ぶ。カエデを背負うとずっしりと重い。いつまで背負っていられるのかな。ご近所の筋肉自慢おじさんに言われた通り、もうちょっと筋トレを頑張るべきかもしれない。


 2人をベッドに寝かせ、いつも一緒に寝ている猫のぬいぐるみをそれぞれの隣に置いてやる。


 安らかな寝顔を見ながら不思議に思う。よく2人は雷撃が姉さんに掠ったところを見えたよな。ただ単に俺より視力が良いからなのか、それとも何か別の要因があるのか。ただあの落雷の持つ閃光のせいで、眼には頼り辛いと思うが。


 ところで、マリーも見えてたんだっけ?


「いえ、私も見えませんでした。最初に当たっていたと言葉にしたのはリリー様です。私はその言葉に賛同出来ませんでしたが、カエデ様とサクラ様はやっぱりという顔で納得されていましたね」


 母さんが見えていたのはなんとなく納得出来るけど、2人とも凄いよね。


「そうですね。リリー様の才能をしっかりと受け継いでいる証拠でしょうか。いずれはアリー様を超える魔導師になるかも知れませんね」


 才能ねぇ。何か魔法の流れを見極めるコツが有るのかな。


「さあどうなんでしょうか。あまりこの部屋で長話していると2人が起きてしまいますので、出ましょうか」





 そういえば、クロエさんは見えていたんじゃないか的な事を言ったよね。あれはどういう意味?


 カエデ達の寝室を出たところで、思い出した疑問をマリーにぶつける。


「別に深い意味は無くて、その言葉通りの意味ですよ。クロエさんに確認する暇は有りませんでしたが」


 見えてたのなら、クロエさんにも母さんと同じような才能があるって話?


「見えていたとしたら、クロエさんは単純に視力の良さじゃないですかね。獣人属の感覚器官は人属のものより優れていると聞きますし。それに」


 それに?


「クロエさんは1度不正を行ってゲオルグ様を勝たせていますからね。また不正を行う可能性は有ると思います」


 あんまりそういう疑いをかけたくは無いけど、有りえる話だな。


「なので審判のクロエさんをあまり信じ過ぎるのもどうかと。もし私が審判だったらアリー様が花壇に落下したところで止めて様子を確認しますが、クロエさんはそれもしませんでしたし」


 落下で止めなかったのは姉さんの防御力を知っているからだと思ってたけど。


「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。私はクロエさんじゃないので憶測でしか話せません。これ以上聞かれてもなんとも」


 そりゃそうだ。


 でも良い考えをもらった。クロエさんが帰って来たら話を聞いてみよう。もしクロエさんが不正を認めたら、姉さんも納得して負けを認めるかもしれない。




「たっだいまー」


 夕方、学校から帰って来た姉さんは登校前の様子とは打って変わって、笑顔だった。


 何か学校で良い事があって機嫌が治ったんだろうか。


 左腕には朝と変わらず包帯が巻かれている。多少は汚れているようだが巻かれたままだ。エステルさんに火傷を治してもらわなかったらしい。文句を言いつつもニコルさんの言う事を聞いている姉さんに、少しだけ感心してしまった。


「ゲオルグ聞いてよ。学校ですれ違う人みんな私の左腕を見てびっくりしちゃってさ」


 左腕をぶんぶんと振り回しながら、姉さんがどこか自慢げに話を切り出す。


 そうか、皆から注目を浴びたのが嬉しかったんだな。姉さんが怪我をする事なんて滅多にないから、さぞかし興味を引いた事だろう。


「それでね、包帯を見たバカ王子が揶揄って来てね。あ、この場合のバカ王子は同学年の第二王子の方ね。何度も何度も五月蝿いから左腕でぶん殴ってやったら、眼をこんなにまん丸にして驚いていたの」


 姉さんが自分の目をぐわっと開いてその時の様子を再現する。


「騙したのか卑怯者っ、だってさ。ぷぷぷ。何度思い出しても笑える。左腕は使えないなんて言ってないし、揶揄って来る方が悪いのにね」


 腹を抱えてケタケタと笑い始める。笑顔の原因はこれか。


 第二王子を殴るのはどうかと思うが、完全に自業自得だな。怪我人なら反撃されないとでも思ったのかな。相変わらず第二王子は性格が悪い。


「ゲオルグ様、ちょっといいですか?」


 笑いが止まらない姉さんを放置して、一緒に帰って来たクロエさんに声をかけられる。


「アリー様には既に話しているのですが、今朝は私が判断を間違えました。激しい閃光の中で、ゲオルグ様の攻撃が当たったと自信を持って判断する事が出来ませんでした。申し訳ありません」


 頭を下げるクロエさんの横に、笑顔の姉さんが現れる。


「だからゲオルグ。もう一回勝負しよう。次は有無を言わせないから!」


 再戦を挑まれた俺は姉さんの気迫に押されて、即答は出来なかった。

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