第22話 俺は父の提案に興奮する
ジークさんがキュステに着いた日の夜、マチューさんに出会えたと連絡が来た。
その報告を受けて覚悟を決めた父さんは商隊の人たちとキュステに旅立って行った。
なんとジークさんがマチューさんと出会った翌日には王都を出発する早さ。
母さんの根回しが凄すぎる。
これでようやく前に進めるね。
父さんが頭を下げたら東方伯も嫌とは言わないだろうと母さんも太鼓判を押している。
姉さんにはマチューさんからしっかり魔法を習ってきてもらおう。
お土産はいつも通り美味しい物でよろしく。
約半月後、父さんはニコニコ顔で帰って来た。
出発前はあんなに暗い顔をしていたのに、憑き物が取れたようだ。
「ギルド経由で伝えた通り、マチューさんを貸してもらえる事になった。それも無料でだぞ。浮いた依頼料を使ってみんなで旅行しよう」
「みんなで旅行?」
なんで急にそんな話に?
旅行と聞いて姉さんの目がキラキラしている。姉さんはいろんなところに行ってるじゃない。今更でしょ。
「みんなってみんな?母様もゲオルグも一緒?」
そうか、いつもアンナさんと2人だもんね。家族みんなでってところが嬉しいのか。
「そうだぞ、家族みんなでの初旅行だ。ゲオルグは王都から出るのも初だよな。楽しみだろう」
ぐりぐりっと頭を撫でられる。父さんのこれは痛いんだよな。
そうか、俺もついに王都から出るのか。頭は痛いのに顔がにやけてしまう。楽しみ過ぎる。
「アンナも一緒?」
「おお、いいぞ。いつもアリーと一緒だもんな。まだまだ浮いたお金に余裕があるからな、アンナも連れて行こう」
なるほど他の人も誘っていいのか。
「マリーも誘っていい?」
俺も1人追加をお願いする。
「いいぞいいぞ。マリーもゲオルグの家族だもんな」
産まれてからずっと一緒だからね、一緒に王都以外の景色を見たいと思って。
「じゃあ私はクロエを連れて来るね」
「え?誰?」
姉さんの急な発言に父さんが困惑している。父さんはクロエさんの話を聞いた事が無かったのかな。姉さんにとって大切な友達なんだけど。
「マリーだけじゃ寂しがるかもしれないから、マルテ家族も呼びましょう」
「ちょ、ちょっと。そんなに増えると予算が」
一気に参加者を増やそうとした母さんを父さんが必死に止めている。
「なんでよ。マルテ達も私達の大事な家族でしょ。普段どれだけ頼ってると思ってるのよ」
確かに。マルテは俺の乳母だしね。マリーも初めての遠出だから親が付いて行った方が安心するよね。
「ええっと。滞在費と旅費を計算すると何人まで大丈夫なんだ?」
「もう、お金のことはいいじゃない。キュステまでの移動はまた護衛依頼を受けましょう」
「子連れの護衛なんて聞いたことないぞ」
「あなたと私とジークが居ればどんな盗賊が出てもお釣りが来るでしょ。アンナやマルテだって自分と子供達くらい守れるわよ」
大きな街道は魔物より盗賊が出没するらしいね。母さんの自信は頼もしく感じる。
「飛んで行かないの?」
「せっかくの旅行ですもの、馬車でゆっくり行きましょう。どうせマチューも直ぐには休めないんだから、ゆっくり行っても同じよ」
そうか、今日明日に出発するんじゃないのか。
「一応10日後にキュステでマチューさんと合流する手筈になってる」
父さんが手帳を取り出して確認する。手帳を持つなんて意外とマメなところがあるんだね。
「じゃあ3日後に出発しましょう。アリーはそれまでにクロエちゃんを連れて来てね。出来る?」
「うん、出来るよ。クロエをおぶって飛んで来るから。でも私、キュステに入りたくない」
母さんの問いに元気よく答えるが、キュステの事を考えてトーンダウンする。
「アリーはアンナやマルテと一緒にキュステ近くの町で待っていればいいわ。ゲオルグはどうする?一緒にキュステに行く?」
「姉さんと一緒に待ってるよ」
キュステには興味があるけど、どうせ観光とかしている時間無いよね。親達と俺1人っていうのもつまらないし。
「じゃあそういう事にしましょう。キュステから領地までは更に4日かかるから、合計で11日の移動になるわ。毎日街で宿を取るから野宿するなんてことは無いけど、しっかり準備しましょうね」
「おー」「おー」
姉さんの勢いにつられて俺も声を上げてしまった。
それから姉さんはアンナさんを引き連れてヴルツェルに飛び立った。
クロエさんを背負って飛ぶって自信満々だったけど大丈夫かね。もし馬車の出発に遅れても、姉さん達なら直ぐに追いつけるんだから焦らずに飛んで欲しい。
マルテの家族というとマリーの2人の兄も含まれるんだが、彼らはジークさんと違って簡単に仕事を休めなかった。久し振りに会えるのを楽しみにしていたのに残念だ。
とういう事で今回の家族旅行のメンバーは俺、姉、父、母、アンナ、マルテ、マリー、ジーク、クロエの9人となった。結構な大所帯だ。
父さんは少しでも負担を減らそうと、冒険者ギルドに駆け込んだ。
ヴルツェルの爺さんに頭を下げ、クロエさんの分の旅費をもぎ取ったらしい。
以前の父さんなら父親を頼るなんてしなかっただろうに、義父に頭を下げたことで少し考えが変わったのかもしれないね。




