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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第9章
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第14話 俺は妹達の遊びを見学する

 朝食を食べながら考えたが、母さんの質問に対する良い答えは浮かばなかった。


 悩んでいる姉さんに対してゲオルグはどうしたい?と聞かれても困る。


 掠ったとはいえ攻撃が当たったんだからと勝利宣言をしようが、審判のクロエさんが気付かなかったんだからと勝ちを譲ろうが、姉さんは納得しないような気がする。


 姉さんが自分自身の気持ちに整理をつけないと、どうしようもないんじゃないだろうか。


 2人が帰って来るまでには答えを見つけておいてねと母さんに言われたが、どうやら父さんと姉さんの喧嘩の仲裁も俺にやらせるつもりらしい。


 そんなに俺に期待されても肩の荷が重すぎる。


 その役目は母さんにやって欲しいんだけど、母さんは口出しする気がないみたい。その理由は分からないが、笑っているから何か企んでいるのかもしれない。単純に喧嘩を楽しんで見ているだけって事はないだろう。


 はぁ。姉さんよりも父さんよりも、母さんが1番たちが悪いと思う。




 食堂を出て、屋敷内をプラプラと歩きながら考える。


 昨日で誕生祭が終わり、父さんは仕事に、姉さんは学校に行っている。父さんは仕事が長引いて遅くなる事があるが、姉さんは夕食前には帰って来る。プラプラしてたらあっという間に夕食の時間になりそうだけど、じっと座っていても何も思い付きそうにないからな。


「わはは、きかないきかない。そのていどのまほうでは、わたしのぼうぎょはつらぬけないよ」


 遠くから楽しそうな声が耳に届く。


 声に導かれるように足を動かすと、庭で遊んでいるカエデとサクラが目に入った。


「きんこう、きんこう、きんこう」


「わはは、そんなよわっちいこうげきは、きかぬきかぬー」


 サクラがカエデに向かって小さく丸めた何かを投げつけている。布の切れ端を丸めて縛っているようだ。サクラの隣にいるマリーがリュックから球を取り出し、投げ終わったサクラに球を手渡している。


 サクラの攻撃を受けるカエデの両手には手袋が嵌められて、カエデは楽しそうに、飛んで来る球を両手で弾き落としていた。


 今朝の俺と姉さんの戦いを再現して遊んでいるんだろうか。折角考えて作った金杭を弱っちいって言われるのは悲しいが、2人が楽しんでいるのなら文句は言うまい。


「むー。それじゃあこれでもくらえー。らくらい、らくらい、らくらーい」


 マリーから少し大きな球を3つ受け取ったサクラが、それを空中に向かって一斉に放り投げる。


「ぐわー、や、やられたー」


 放物線を描いて地面に落下した3つの球は全くカエデに当たらなかったが、カエデは左腕を押さえて苦しがり、パタリと地面に倒れた。


「はい、サクラ様の勝利です」


「うん、さすが兄様のまどうぐ」


 勝利宣言を受けたサクラの小さくガッツポーズをする仕草が可愛らしい。なぜか試合結果は改竄されていたが、可愛いサクラに魔導具を褒められるのは単純に嬉しい。


「あっ、兄様」


 地面に寝転がっていたカエデが俺の姿を確認して飛び起きた。


「兄様も姉様もかっこよかったよ」


 近寄って来たカエデが今朝の試合の感想を述べる。今朝は試合後から父さんに説教されて、カエデと話す機会は無かったからな。ありがとうと答えて頭を撫でてやると、カエデは猫のように目を細めて喜んでいた。


「ゲオルグ様、リリー様からのお話は終わりましたか?」


 地面に転がった球を拾い集めながら近寄って来たマリーに問いかけられる。


 終わったというか終わってないというか。どうしたらいいのか迷ってる感じ?


「そうですか。まあどういう話なのかは知らないんですけどね。そっちに転がっている球を取ってもらえますか?」


「あっ、カエデがとるよ」


 マリーに応答したカエデの頭から手を離す。カエデは元気良く走って行って、球を拾って戻って来た。左手で掴んだ少し大きめな球を、マリーに差し出している。


「あれ?カエデ様。左腕は怪我をなさっているのでは?」


「あっ、そうだった。あいたたた。サクラ、なおしてー」


 カエデが急に左腕を押さえて痛がり、拾って来た球を取り落とした。


 助けを求められたサクラは、その右手を痛がるカエデの左腕に当てて、


「いたいのいたいのとんでいけー」


 大きな声で呪文を唱えた。いつのまにか色々な事を覚えているんだなと少し感心。


「うん、なおった。ありがとー」


 俺にされたように、今度はカエデがサクラの頭を撫でている。2人とも似たような背丈だから、サクラが少し頭を下げていた。2人が可愛らし過ぎて、悩みなんて吹き飛んでしまいそうだ。


「ゲオルグ様、表情がニヤケ過ぎてて怖いですよ。屋敷の外ではそんな顔をしないでくださいね」


 おっと、危ない。でもこんな可愛い2人を見たら誰だってこうなるさ。ならないマリーの方が異常なんだよ。


「はいはい。屋敷の外でやらなければ異常でも何でもいいです」


 肩を竦めて聞き流しやがった。父さんがこの場にいたら俺と一緒にマリーを糾弾してくれた筈なのに、悔しい。


 ところで、何で落雷でカエデが負ける話なの?


 朝の試合の再現なら違うよね。


「さあ。話の流れはお2人で話し合って決めていましたから、私には分かりません。でも、ゲオルグ様の落雷がアリー様の左腕に掠ったのは見えていたようですよ」


「うん、みえてた」「カエデも!」


 え?そうなの?


「でも兄様のまけ」「うん、まけはまけ」


 そんなに負け負け連呼しなくても分かってるよ。


 でもあれが見えたなんてカエデもサクラも凄いね。クロエさんも俺も分からなかったのに。


 2人の頭を優しく撫でたら、2人とも嬉しそうに笑っていた。


「クロエさんに見えていなかったっていうのはどうでしょうね」


 ぼそっと口にしたマリーが、2人よりも良い笑顔で笑っている。

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