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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第9章
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第9話 俺は姉への恐怖心を笑い飛ばす

「えっ?今から魔導具を作り替えるんですか?もう22時を回ってるんですけど」


 すっかりと遅くなってしまった夕食を終えた後、俺はマリーに頭を下げた。


 帰宅が遅くなった事、姉さんと話し込んでいて更に夕食が遅くなった事、それと、食べずに待っていてくれた事。謝罪と感謝を伝え、今晩少しだけ作業に付き合って欲しいと願い出た。


「誕生祭初日に大敗した時に、暫くはアリー様と戦わずに新しい魔導具作りに専念するって言ってましたよね。なんでまた急に」


 ちょっと色々と有りまして。こんな夜遅くから申し訳ないとは思いますが、力を貸してください。


「手伝ったとして勝つ見込みは有るんですか?」


 いや、無い。無いけど、男にはやらなければならない時があるんだ。


「はあ」


 呆れた様子でマリーが溜息を吐く。


 俺は申し訳ない、よろしくお願いしますと繰り返す事しか出来なかった。


「まあ協力はしますが、せめてどう改良するのか考えてからにしてくださいよ。どうせまだ何も考えてないんですよね?」


 ははは、正解。出来れば一緒に考えて欲しいんだけど。外から俺達の戦い方を見ていたマリーの意見を頂けると嬉しいかな、なんて。


「今まで私の意見なんて聞く耳持たなかったのに。長時間教会に居て、心が清められたんですか?」


 1人だと姉さんには勝てそうに無いと思ってね。側で見ていて、何か気付いた事は有るかな。


「そうですねぇ。まずは攻撃力が足りませんね。土属性と金属性を巧みに使うアリー様の防御を突破するのは、生半可な火力では不可能です」


 そうだね。何度か新しい金属魔法の魔導具を作ったけどダメだった。金属魔法同士では分が悪いか。


「次に防御力ですね。ゲオルグ様はアリー様のバカみたいに強力な近接攻撃を防ぐ事が出来ていません。新しく作り続けた盾は全て破壊され、鎧も粉砕。壁として用意した全ての物を壊しながら突進して来るアリー様は、恐怖ですよね」


 確かにあれは怖い。姉さんはいつも寸止めをしてくれているが、あの破壊力がそのまま体に当たったらと思うと、すぐに治るとはいえ恐怖で足が竦む。


「そして最も足りない物が機動力。アリー様の動きに翻弄されているゲオルグ様の姿は見ていられません。ゲオルグ様の攻撃は当たらず、アリー様の攻撃は避けられない。これでは勝てません」


 辛辣だけど正論過ぎて反論出来ない。姉さんは風魔法か重力魔法を自身に使って身軽になっているはずだ。こちらもそれらを使って姉さんの動きを邪魔しようとした事があるが全く効かなかった。おそらく、こちらが使った魔法以上の魔法で相殺もしくは上書きをしているんだろう。


「まったく、器用過ぎて嫌になりますね」


 マリーが姉さんと戦ったら、勝てる?


「勝てるわけないでしょ。力も知恵も技術も、多くの点でアリー様の方が上なんですから。私が勝っているのは若さくらいですよ」


 じゃあ、俺が姉さんより勝っている部分は有る?


「若さと、癪ですけどドワーフ言語に対する知識は上でしょうね。まあその知識を巧く使えていない訳ですけど」


 うぐぐ。ニヤニヤと楽しそうに笑いやがって。


「ふふふ。楽しいですよ。2人であの天才をやっつける計画を練っているんですから」


 マリーは気楽で良いよね。実際に戦う俺は今から緊張して縮こまってるってのに。


「嫌なら止めたらいいでしょ。今からそんな気持ちでは絶対に負けますよ」


 別に嫌って話じゃ。


「アリー様はいつでもどこでもどんな時でも楽しんでますよ。多分緊張した経験なんて無いんですよ。ゲオルグ様は戦う前から精神面で負けてるんです。はい、笑って笑って」


 それから暫く、俺はなぜかマリーの指導によって笑う練習を行い、貴重な時間を無駄にしてしまった。




「ゲオルグ様、ゲオルグ様。もう朝ですよ、起きてください。ラジオ体操に遅れますよ」


 う、う〜ん。


「朝ですよ。ほら起きて、早く着替えて」


 ゆさゆさと体を揺さぶられ、俺は自室のベッドの上で目覚めた。ベッドの脇に立っているマリーがちょっと笑ってる。


 あれ?徹夜するつもりだったのに、俺っていつから眠ってた?


「3時くらいですかね。私がちょっと席を外している間に、机に突っ伏して眠ってましたよ。作業の途中だったみたいですが、そのまま起こさずに浮遊魔法でベッドへ運びました。さあアリー様が待ってますよ」


 えええっ、なんで起こしてくれないんだよ。まだまだ魔導具を改良する予定だったのにっ。


「寝ながら作業したって間違えるだけですよ。何個かは出来たんですからそれでいいじゃないですか。さっ、笑顔笑顔。練習通り、楽しんで行きましょう」


 笑顔はもう分かったから、とりあえず着替えるんで、出て行ってくれる?




 マリーに引っ張られ、時間通りに庭へ到着した俺の元へ、姉さんが元気に駆け寄って来た。


「おはようゲオルグ。いい笑顔だね。さては今日は自信満々か。うんうん、私も負けないぞ」


 姉さんに指摘されるまで気が付かなかったが、どうやら俺は今笑っているらしい。


 なんでだろう。マリーの謎の特訓で時間を取られ、魔導具の改良途中で寝ちゃって、思った通りの準備が出来なかったのに。


「さあ、しっかり準備運動をして、笑ってアリー様をやっつけましょう」


 隣でマリーが笑ってる。完全に他人事で、楽しんでいる笑いだ。


 分かったよ、笑うよ。笑って姉さんへの恐怖心を吹き飛ばしてやる。

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