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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第9章
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第6話 俺は神様の願い事を聞く

「桃馬さん。この串団子、醤油ダレに砂糖を加えて甘くするとか、香辛料を加えてスパイシーにするとか、とろみを付けるとか、もっと工夫した方が良いですよ。流石に焼けた醤油の香ばしさだけでは飽きてしまいます。団子の方に味を付けるのも良いですね」


 その手に持ってるのは5本目を食べ終えた後の串だろ。他の神達より多く食べといて、酷い言い草だな。それに、その串団子は俺が作った物じゃないからな。俺ならもっと美味く作る自信は有るけど、今は醤油が簡単に手に入らないから作れないんだ。


「そうですか。それなら来年に期待ですね」


 き、きもにぃ、めいぃじてぇ、おきまふぅ。ってアホっぽい真似でバカにしてきたから、もうアマちゃんの分は用意しないよ。


「はぁ。桃馬さんは分かってないですね。あれはマギーを笑わせて場の空気を和らげようと、わ、ざ、と、やったんですよ。態とです。あれが無かったら桃馬さんは今頃大変なことになってましたよ。なので来年もお願いします」


 明らかに嘘を言っていると思うんだが、小さな胸を張って自信満々なアマちゃんの態度を見ると本当にそうなのかなと錯覚してしまう。


 アマちゃんのその厚顔無恥な性格、羨ましいね。俺も見習いたい。


「そうですか、ありがとうございます。私は桃馬さんの頼まれたら断れない性格も好きですけどね。来年もお願いします」


「アマちゃんに皮肉を言っても効果は無いんだよ」


「そうだ。なかなか手に入らないと言うのなら地球の醤油を持って帰りますか?私が一声掛ければ醤油が樽で手に入りますよ」


「アマちゃん、それはダメだぞ。物質の直接的な移動は規則違反だからな」


 へぇ、そんなルールが。まあ樽入りの醤油を貰っても持ち運べないし、どこから手に入れたかを家族に説明するのも面倒だから貰わないけどな。アマちゃんに借りを作るのも癪に触るし。


「桃馬。いつもありがとう。そろそろ桃馬の所は日が暮れるから帰った方がいい。桃馬の姉の件、よろしくな」


 はい。もしかしたら姉さんは勝負に勝つまで答えないと言うかもしれませんが、必ず聞きます。ちょっとだけ待っててください。


 あっ、それと、もう暫くしたら我が国で初めて収穫した米が食べられるようになるので、何か調理して持って来ますね。


「蟹あんかけチャーハンをお願いします」


「私は天津飯という物を食べてみたいんだよ」


 何でアマちゃんとマキナ様が率先して注文するんだよ。食堂じゃないんだぞ。しかも2人してとろみを付けるなんて面倒な物を。2人にはおにぎりで十分だろ。


「それなら具は牛しぐれ煮で」


「私はおかかの混ぜ御飯で焼きおにぎりを作って欲しいんだよ」


 また2人とも面倒な注文を。しかもどちらも醤油が必要なんだけど。醤油が手に入らないって話をしたばかりだろ。


「あっ、良い方法を思い付きました。地球の具材や調味料をマギーの部屋まで持って来るので、桃馬さんに調理して貰いましょう。調理道具も揃えておくので、桃馬さんは収穫したお米だけ持って来てください。日本の最高級炊飯器も手に入れて来ますから、生米のままで大丈夫ですよ。流石私、天才です」


「それは楽しみなんだよ。収穫祭は是非やるべきなんだよ」


 そこまで用意出来るのなら俺が米を持って来る必要は無いだろ。米もアマちゃんが持って来たら良いんだ。そもそも調理するのも俺じゃなくていい。


「何言ってるんですか桃馬さん。貴方が転生した国で初めてお米が収穫出来た事を祝う収穫祭なのに、その米が別世界の米だと意味が無いでしょ。桃馬さんって意外と頭の回転が悪いですよね」


「そういうのを本末転倒って言うんだよ」


 なぜか収穫祭をする事になっちゃってるし。悔しいから米を持って来るの止めてやろうかな。


「そういえば小豆の収穫もそろそろじゃないか?俺は甘い物はあまり食べないけど、皆は好きだから」


 なっ、何で今そんな燃料を投下するんですかシュバルト様っ。


「やっほーいっ、餡子祭りだーーっ」


「そうなったらお餅も欲しくなるんだよ。アマちゃん、お餅も持って来て欲しいんだよ」


「餡子かぁ。他の大陸の人間が偶に供えてくれるけど、これからは桃馬の大陸からも来るんだな。それは楽しみだ」


 甘党の3人が餡子をどうやって食べるのがベストか口々に語り合う。俺は帰るに帰れず、女神様達がはしゃぐ様子を見つめていた。


 ああ、餅米も欲しくなるなぁ。




「すっかり遅くなっちゃったね。俺も疲れたよ」


 俺を連れて自分の領域に戻って来たシュバルト様がため息を吐く。


 シュバルト様が小豆の事を黙っていたら、もうちょっと早く帰れたんですけどね。


「ははは。もうちょっとマギーの笑顔が見たくなってね。米も小豆も、楽しみにしてるよ」


 小豆は男爵家が育てている訳じゃないので、祭りが出来る程多くは手に入らないと思いますが。


「少しでも無いよりは良いよ。その気持ちで皆が喜ぶ。そうだ、供物のお礼に、何か俺に手助け出来る事は無いかな?例えば、君のお姉さんとの戦いに手を貸すとか、強力な魔導具を用意するとか」


 シュバルト様の力を借りたらマギー様に軽蔑されると思うので、止めておきます。


「うん、君のその言葉が聞けて良かった。じゃあ、地上に返すよ。もう完全に日が沈んでるから気を付けてね」


 にこやかに手を振って来たシュバルト様の姿が一瞬ぼやけたかと思ったら、その姿は大きな立像へと姿を変えた。




「今日も熱心にお祈りされてましたね。家族の方が心配して様子を見に来てましたよ。お祈りしている姿を見て帰って行きましたが」


 教会の出入口付近で職員のお姉さんに声を掛けられた。


 マリーかな。そりゃ何時間も教会内に篭ってたら心配するか。後で謝っとかないとな。


 教えて頂いてありがとうございます、長い間お邪魔しました、とお姉さんに返答して外に出る。


 目の前にはマギー様の教会。


 そういえばマギー様に直接会ったけど、色々有り過ぎて皆の健康を祈っている暇が無かったな。


 どうしようかなと少し迷ったが、毎年誕生祭の時に通っているのを今年で止めるのも気持ち悪く、教会の出入口を閉じようとしている職員の方に無理を言って、俺はマギー様にあまり似てない大きな像の前で跪いた。

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