表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第9章
567/907

第2話 俺は子供達の成長に感じ入る

 カエデとサクラが元気に明るく過ごしているのも嬉しいが、今年の村での誕生祭も感動した。


 何せ今回は、傭兵団の人達が村に入植した後に、最初に生まれた子供達が対象だ。


 その内の1人は難産で、ニコルさんの回復魔法の補助が無ければ母子共に危なかった。


 その子も元気に成長し、3ヶ月後の12月で3歳。誕生祭の贈り物には薬草学の本が送られた。


 本当は医学書が第一希望だった。ニコルさんに命を助けられたから、将来は医者になって欲しいというのが両親の願い。


 しかし、そう簡単には医学書なんて手に入らない。行きつけの古本屋では売ってなかったし、図書館にも無かったから写本も出来ない。


 古本屋の店員さんが言うには、ちゃんとした医学書が売られることなんて100年に1度有るか無いか、だそうだ。学校で医学の授業を受けた子が医学の道に進まなかった時に、授業中に書いた冊子を売りに来る事は良くあるそうだが、それも持ち込まれてすぐに買い取られるらしい。在校生が買っていくのかなと思ったら、現役の医者も再勉強の為に買っていくんだとか。春先には医者がそれの入荷を調べに来るのが恒例らしい。


 まあ無いのなら仕方ない。無ければ、作れば良い。


 そう思ってニコルさんに相談した8月。しかしニコルさんには、


「そんな物作ってる暇が私に有るわけないでしょ。先ずは薬草学か人体構造学の本でも読んで勉強させなさい。その子が大きくなる頃には、私の元で働いている誰かがその知識を本にしてくれてるかもね」


 と、拒絶されてしまった。まあ、それは仕方ない。その日もニコルさんの診察を待つ人で受付は人がいっぱいだったからな。


 それで結局、村の仕事も手伝えるようにと薬草学の本を贈った。その子はとても良い表情で本を受け取り、


「がんばってべんきょうします。ありがとうございました」


 と、気持ちの良い返事をしてくれた。


 サクラとカエデも日々成長しているが、村の子供達も立派に育っている。この村の将来を担う子供達の成長を見られた事が嬉しくて、俺は少しうるっと来ていた。




 カエデとサクラには父さんの希望で簪が贈られた。簪には2人の名前の元になった植物を象った飾りが付けられている。


 真っ赤な楓の葉っぱがヒラヒラと舞い落ちるかのように、小さな葉っぱが連なった飾り。カエデの結った髪に簪を差し込むと、首筋辺りに達する程に飾りが長く垂れ下がる。


 桃色の桜の花が満開に咲き誇っているかのように、小さな花が折り重なった飾り。サクラの側頭部を覆い隠す程にその飾りは大きく広がっている。


 それを国王から受け取って屋敷に帰り、初めて付けた2人の感想は、


「重い」


 だった。後日俺もそれを手に取ってみたが、ずっしりと重みを感じた程だ。耐久性を考慮して金属製にしたのがダメだったんだろうな。見た目は凄く可愛いんだけど、一仕事を終えて王都に帰って来た俺と父さんの前で付けて見せて以来、2人は簪を付けたがらない。箪笥の奥底に仕舞われてしまった簪とそれを作らせた父さんには同情するが、あんな重い物を無理矢理付けさせるのも可愛そうだからな。




 姉さんは誕生祭中、例年通りに男爵家グループの屋台を手伝っていた。しかしいつもと違うところがあって、それは姉さんが企画した屋台が出店された事。


 その屋台は、帽子を売る屋台。


 あれからまだ頭髪が元通りになっていない姉さんは、どんな時でも帽子を着用していて、俺が贈った物以外にも自分で色々と探して試している。


 その経験と、帽子を買い集めた時に作った人脈を生かして考えた帽子屋を、父さんに提案して認められた。


 販売する帽子は、これから気温が下がる冬に向けて、耐寒性の有るニット帽と革製の帽子。


 王都周辺は帽子が必要になる程気温は落ちないが、寒い冬でも北国に行く事がある商人や冒険者が買って行ったようだ。


 完売はしなかったようだが利益は充分出たみたいで、姉さんは御満悦だった。




 俺は村での誕生祭に参加した日以外は、王都の誕生祭をフラフラと見て回った。今年は子供が多い年だったようで、王都の誕生祭は合計6日に渡って行われる。


 今年の誕生祭の目玉は、俺もその日まで知らなかったが、東方伯が1年がかりで準備した醤油と味噌を使った料理の屋台だった。


 それは別の大陸から持ち帰った技術で、王家が認め、東方伯家が独占している技術。


 父さんを含めて他家は独占に対して不満を口にしているみたいだが、俺としては東方伯が量産して販売してくれるのなら不満は無い。まだ食えてないけど、米の栽培を許可して貰えただけで充分さ。米料理を提供する屋台は無かったから、東方伯家もおそらくまだ稲刈りしたばかりなんだろう。


 味噌は味噌汁にして、醤油は小麦の団子に付けて焼いたり肉に付けて焼いたりして販売していたが、醤油が焦げる匂いに惹かれて民衆が屋台に群がっていた。


 勿論俺も購入。味はまあまあ。俺ならもっと上手く調理出来るから醤油と味噌を直接売ってくれと屋台の人に頭を下げたが無理だった。他の客が見ている前で、流石にそれは無理か。売ってもらえるように後で母さん経由で東方伯にお願いしよう。


 味はまあまあだったが、懐かしの味。神様にも贈ろうと多めに購入し、俺は毎年恒例の挨拶をする為に教会へ向かった。


 相変わらず人気のあるマギー様の教会を後回しに、年々人は増えているがまだまだ人気薄のシュバルト様の教会へ。


 大きなシュバルト様の像の前で、目を瞑ってお祈り。


 カエデとサクラ、村の子供達。それから姉さんの事を今年もよろしくお願いします。


「ちょっとその事で話がある」


 1年ぶりに聞いたその声に反応して目を開けると、先程まで目の前にあった大きな像とはあまり似てない神様が目の前に立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ