表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第8章
564/907

第48話 俺は王子の人気に嫉妬する

「なるほど。あの日からずっと戦い続けてゲオルグ君は負け続けているのか。流石アリーだね」


「うん、姉様はすごいのっ」


 第一王子の言葉に、応接室のソファーに並んで座っているカエデが賛同した。


 ここ数日の姉さんの様子を一生懸命王子に説明するカエデに、王子は優しく微笑みかけている。


 しかし、テーブルを挟んで対面にあるソファーに座って2人の会話を聞いている俺は顔を顰めた。


 姉さんと戦い始めて10日以上経過しているが、俺はまだ姉さんに一撃も加えられていない。


 負け続けているのは本当の事だが、対戦相手の事ばかり褒められるといい気はしない。


「でも兄様もすごい。毎日色々作ってる。すごい」


 ありがとう、サクラ。褒めてくれて、お兄ちゃんはとっても嬉しいよ。


 俺は隣に座るサクラに抱きつき、可愛い頭を撫で回した。


 少し迷惑そうな顔をしてるけど、撫でる俺の手を払ったり逃げ出したりしない。そんなサクラがお兄ちゃんは大好きだぞ。


「あんまりやり過ぎると嫌われますよ」


 いつのまにか応接室に入って来ていたマリーが、サクラを構い続ける俺に苦言を呈す。


 何言ってんだよマリー。そんな事ないよな、サクラ。


「うん、だいじょうぶ。がまんできる」


 が、我慢か。そうか、なんかごめんな。


「はいはい。がっかりと肩を落としてないで、夕食の準備が出来たので食堂に行きますよ。カエデ様もサクラ様も、勿論王子も御一緒に」


「わーい。きーふぁー、いこー」


 カエデがソファーから飛び降り、王子の手を引っ張りながら応接室を出て行った。


 王子は今日、再び我が家の夕食会に参加する。2度目の参加を提案したのは母さんだ。クロエさん経由でお誘いしたらしい。この前の夕食会での父さんの非礼を詫びる為というのが誘った理由だ。


 母さんの希望を聞いた姉さんと父さんは2人揃ってぶーぶー言っていたが、カエデはまた王子に会えると喜んでいた。


 通っている学校の授業を終えて姉さん達と一緒に我が家にやって来た王子は、しっかりと昼寝をして力を蓄えたカエデに捕まり、応接室で遊んで過ごした。相変わらず姉さんは王子の相手をしない。まあ今日は姉さんが呼んだわけじゃないからん。


 カエデは随分と王子の事を気に入っている。王子と一緒にいる時はずっと王子と話してばかり。それに俺は少しだけ嫉妬している。こっちにも笑顔を振りまいて欲しいなと、話しかけたりおもちゃを用意したりしても、王子の魅力には負けてしまったのだ。


 ま、まあカエデが楽しいのならそれでいいんだけどな。うん。


 サクラも前回とは違って俺の影に隠れるような事はせず、時々自ら王子に話しかけていた。サクラの成長を垣間見れて嬉しいんだが。


「もう、さっきからずっと辛気臭い顔して何なんですか。食事中もそんな顔をしていたらリリー様に怒られますよ」


 サクラの手を引いて廊下を歩きながら2人の事を考えていたら、マリーに怒られた。


 いやちょっと、王子の人気に嫉妬してね。


「はぁ?毎日顔を合わせるゲオルグ様と偶にしか会わない王子を比較してどうするんですか。カエデ様とサクラ様はゲオルグ様の事が大好きですよ。それでいいじゃないですか。どうせ勝負するのなら男爵と張り合ってください」


 少しだけ本音を吐露したら、本気で呆れられたようだ。


 でもマリーは末っ子だから俺の気持ちは分からないんだよ。兄は妹にずっと好かれていたいんだよ。


「だから、お2人はまだゲオルグ様の事が好きなんだから、嫌われるような事をするなって言ってるんですよ。まだですよ、まだ」


 そんなにまだまだと強調しなくても。


「私は兄が2人います。昔は私も兄達が好きでしたが、今は嫌いです。特に長兄は大っ嫌いです。ゲオルグ様も気をつけないと長兄みたいに嫌われちゃいますよ」


 そういえば、お兄さんの結婚話はどうなったの?


「知りません。興味も有りません。私の知らないところで結婚して幸せに暮らしているんじゃないですか?」


「マリー、こわい」


 マリーの表情を見たサクラが恐怖を訴える。繋いでいる俺の手を軽く圧迫する程に力を込めているから、長兄に嫌悪感を示すマリーの表情がよっぽど怖かったんだろうな。


「あ、ごめんなさいサクラ様。これから楽しい夕食会ですから笑顔じゃないといけませんね。今日も沢山の料理が出て来ると思いますが、サクラ様はどの料理が1番好きですか?」


「んー、ハンバーグ」


「ハンバーグ美味しいですよね。今日も作ってくれているといいですね」


「うん、まいにちハンバーグでいい。でもカエデはトンカツがいいっていってた」


 お兄ちゃんは唐揚げがいいぞ。


「そうですか。じゃあ後で料理長に、ハンバーグとトンカツの頻度を増やしてとお願いしましょうね」


「うん」


「サクラっ。きょうはハンバーグがいっぱいあるよっ。はやくはやく」


 先に王子と共に食堂に入っていたカエデが、もう一度廊下に出て来てサクラを呼び付けた。


 それを聞いたサクラは力強く俺を引っ張って歩き始める。


 好きなものがあるって良いよね。人でも物でも、それが自分の力になる。まだ小さいカエデとサクラですらそれによって力を発揮出来るんだから、大人だってそうだ。俺も、姉さんも、勿論王子も。


 王子はあれから姉さんに直接気持ちを伝えたりしたのかな。姉さんの態度が変わってないからまだだろうけど。


 マリーが言うように人の気持ちは変わるから数年後の気持ちは保証出来ないけど、俺は、いずれは姉さんと王子がそういう関係になればいいな思っている。


 カエデが王子に取られないようにとか、そういう打算があるわけじゃないんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ