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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第20話 俺は街に入らないよう思案する

「ねえマルテ。そのエルフはどうして王都に来ないの?」


 折角見つかったエルフ族だ。なんとかして姉さんと会ってもらわないと。


「彼は仕事が好きですから、仕事を休んで王都に来ることはないでしょう。そのエルフはマチューと言う名なんですが、キュステでどういう仕事をしているか聞いてますか?」


「いや、聞いてない」


 そういえばマチューさんの詳しい情報は全く聞かなかったな。二人とも直ぐに飛び出して来ちゃったから。


「マチューの仕事は、作物を研究して新しい特産物を作ることです。ゲオルグ様やアリー様が生まれるずっと前から東方伯に雇われて研究しています。王都に来て随分と会っていませんが、仕事が好きだった彼はキュステにまだ居ると思います」


「植物の品種改良をしているってこと?」


「そうですね。例えばフライドポテトの使われた芋。あれは私が子供の頃は毒があって食べられないと言われていましたが、マチューによって毒を作らないよう改良されて国中に広まりました」


 へぇ、あの芋ってジャガイモだよな。緑になっている部分や芽を取り除くだけでいいと思うんだけど。まあ完全無毒なら調理しやすくていいか。


「丈夫な木材になる木とか、薄い繊維が取れる麻とか、食べ物以外の研究も行っているようです。氷結魔法のおかげでヴルツェル産の作物が出回っている状況なので、今は作物の収穫量が増える研究をしているかもしれませんね」


「よく知ってるね。しばらく会っていないのに今の研究もわかるの?」


「私がアリー様ぐらいの歳から、マチューとは知り合いですからね。ただこの予想は東方伯の性格を考えての予想です。東方伯はヴルツェルのフリーグ家に対抗しようとするはずですから」


 娘の旦那の実家が気になるということかな。

 東方伯の名前を聞くだけで、姉さんが嫌そうな顔になっていく。


「仕事が好きで休まない人なのはわかった。じゃあどうしようか。なんとかしてキュステから出て来てもらわないと」


「黙って連れてきちゃえば?」


 過激。姉さんが過激だ。

 何かを企んでいる顔をしてるね。東方伯に嫌がらせをしようと考えている顔だな。


「キュステは東の要所で、数年前まで他国と戦争をしていた街です。その名残で街の出入管理は厳重ですよ。誘拐するなら戦争を仕掛けるつもりで行かないと」


 こっちも過激だ。もうマルテ、真面目に考えてよ。


「戦争は良くないね」


 うん、姉さんの言う通り。戦争は良くない。別の方法を考えようね。


「じゃあ罠を仕掛けて捕獲しよう」


「それもダメだろ」


 は、勢いでツッコんでしまった。姉さんがニヤッとしている。

 なんなの?ボケるのが楽しいの?

 もう、真面目に考えてよ。

 ツッコまれて満足したのか1人でぶつぶつと何か言っている。また何か悪戯を考えているのかな。




 誰もいい案が思いつかず小一時間が過ぎた。

 姉さんもずっと黙っている。少し不気味だ。

 飛び出していったまま帰って来ない俺達を心配してアンナさんがやって来たが、アンナさんも良い考えは無いようだ。


「ちょっといい?」


 しばらく黙っていた姉さんが手を挙げて発言の許可を求めた。

 悪戯を閃いた時によく見る顔をしてるぞ、大丈夫か?


 マルテもアンナさんも、姉さんの発言を許可したようだ。

 俺も悪戯に引っかからないよう気を付けて、どうぞと告げる。


「仕事をお願いして、マチューさんを貸し出してもらう」


 え、貸し出し?


「仕事でキュステから出るのなら問題無いよね」


 そうかも知れないけど、図書館の本じゃないんだからね。貸し借りって出来るの?


「マチューに仕事を依頼するのはいい案だと思います。東方伯が引き受けてくれるかは別問題ですが」


 マルテは大方姉さんの案に賛成のようだけど、どうやって東方伯に了承してもらうかという新たな問題提起をした。


「そうですね。マチューは大事な人材ですから、マチューの安全が確保されなければキュステから出さないと思います。依頼料も高額になるでしょう。王都に呼ぶつもりでしたら、それこそ王家からの命令でも無ければ無理でしょうね」


 アンナさんも東方伯が外に出さないとの見方だ。なるほど、そんなに大切な人なのか。


「王都まで呼ぶ必要はないよ。他の領主が貸してくださいってお願いするんだよ」


「それこそ無理でしょう。他の領地を発展させるくらいならまずは自領をと考えるでしょうね」


「そもそも東方伯に頭を下げる領主は居ないと思いますよ。領主という人種は自尊心で出来ていますからね」


 俺が発言する間も無く、マルテとアンナさんが次々に反論を述べる。

 それでも姉さんは自信有り気だ。何を思いついたんだ?


「居るでしょ、領地経営に関しては自尊心の無い領主が。最近お芋を沢山売ろうとして断念した領主が」


「あ」「ああ」「なるほど」


 3人がようやく姉さんの考えに気付いた。

 姉さんがちゃんと考えていたなんて思わなかった。


 その人はフライドポテトを食べて芋の美味さに気づき、芋を育てようと計画したけど諦めたんだ。

 芋は割とどこでも育つ。

 品種改良に成功した東方伯の主力製品だし、ヴルツェルでも栽培している。麦よりも土地を選ばず育つから、不作に備えてどこの領主も作っているらしい。

 だから基本的に供給過多。いまから生産量を増やしても売る場所が無い。

 自分の領地でも作ってたしね。父さんが知らなかっただけで。


「そう、ダメダメ領主の父様からお願いしてもらおう」


 顔と辛辣な言葉が合ってないぞ。

 父さんは今、フライドポテトを売る屋台を作ろうと頑張ってるから、応援してあげて。

 油の購入と処理に苦労してるみたいだけどね。

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