第19話 俺は悪戯に引っかかる
別行動するなら私はキュステに行って知り合いのエルフに会って来ます、と言って姉さんを煽るアンナさん。
珍しくアンナさんが姉さんに意地悪なことをしている。
俺が居ない間に何かあったのか、それとも日頃の鬱憤が溜まってる?
「嘘でしょ」
姉さんがそう断じる。
嘘だと判断するのは早いんじゃないか?
初めて得たエルフ族の情報だよ、もうちょっと慎重に取り扱おうよ。
「私がキュステの東方伯邸で働いていた時に知り合ったエルフです。その人はキュステの街が気に入っていましたから、まだ居るでしょう。移動していたとしても闇雲に探すよりは効率が良いと思います。リリー様やマルテ、ジークもそのエルフとは知り合いですので、嘘だと思うなら確認して頂いても良いですよ」
これは本当にエルフ族の知り合いがいるな。話し方から自信が漲っている。
姉さんは頭を抱えて悩み始めた。そんなに爺さんと会うのが嫌だろうか。俺はそこまで嫌いじゃないけど。
悩んでいる姿が可愛かったので頭を撫でて慰める。なんか前世の妹を思い出すな。
「アンナさんは大人げないね」
少しだけ姉さんに助け舟を出す。これだけ嫌がっているんだから、もう充分でしょ。
「ではこうしましょう。居るとは思いますが、キュステにそのエルフが居ないかもしれません。まずは誰かにキュステまで行って頂いて、存在を確認して来てもらいましょう」
アンナさんの提案を受けて、姉さんが目に見えて元気を取り戻した。
俺もいい案だと思うよ。
「では誰がキュステに行くか。私が行っても良いのですが、そうなるとアリー様に付いて行ける人が居なくなります。アリー様は私が居ない間、王都で大人しく出来ますか?」
「出来る」
姉さんは間髪容れずに即答した。
「無理でしょ」
姉さんの返答速度に驚いて、俺も思わずツッコんでしまった。
例え2、3日でもじっとして居られないはずだ。姉さんの飛行魔法について行ける人は、アンナさんの他に母さんしかいないんじゃないか?父さんの実力はよくわからない。
えー、できるよ、と姉さんは言うけど、姉さんを知っている人なら誰も信じないと思うよ。
「私も無理だと思います。なのでここはジークかマルテに頼みましょう。ただジークは飛行魔法が得意ではありませんから、安全を考えて馬車移動。片道7日ですかね。マルテは飛行できますが私達よりは速く長く飛べないので、片道3日、頑張って2日と言ったところでしょうか。エルフの捜索に時間が掛かるかも知れませんが。さて、どちらにお願いしましょう」
「マルテ」「マルテ」
今度は2人で即答した。
姉さんと目が合ってお互い頷く。早く結果を知りたいもんね。
「ではマルテに。そうなるとマルテの代わりに、ジークがゲオルグ様と関わる時間が増えますね。ゲオルグ様、剣術の稽古、頑張って下さい」
げ、そうなっちゃう?
姉さん、やっぱりジークさんに。
姉さんはもうそこに居なかった。部屋の扉に向かって走り出している。
「ちょっと待った」
くっそ、行動が早い。部屋を出て行った姉さんを追いかける。
きっとマルテにお願いしに行ったんだ。
その行動力があるから、姉さんがじっとしているなんて誰も信じないんだよ。
マルテは多分俺の部屋だ。姉さんもそれは分かっているだろう。
出遅れたのが痛い。マルテが姉さんと約束する前に追いつけるといいけど。
「なるほど、キュステで私達が知っているエルフを探せばいいんですね?」
俺が部屋に着いた時には、姉さんがマルテに話し終わっていた。
ちょっと待った。俺の話も聞いて。
「では今夜、旦那に話してみますね。直ぐに休みが取れるといいんですが」
え?
どういうこと?
「えへへ、びっくりした?」
姉さんがニヤッと笑った。
まさか最初からジークさんにお願いするつもりだった?
これがドッキリ大成功ってやつか。
「ゲオルグが私にキュステへ行けって言わないように、私もゲオルグが嫌がることはしないよ」
ニコニコ顔の姉さんに頭を優しく撫でられた。
さっき俺が姉さんの頭を撫でたことに対するお礼か?仕返しか?
人に見られて頭を撫でられるのって思ったより恥ずかしいな。
「あ、ありがとう」
なんとか言葉を絞り出す。言わないとずっと撫でられていそうだった。
「どういたしまして」
どうしてそんなに胸を張れるんだ。姉さんがドッキリを仕掛けなければこんなことになってないのに。
アンナさんが喋っていたあの短時間で、よくまあ頭が回るものだよ。
「旦那に話をするのはいいんですが、そのエルフが見つかったらどうするんですか?おそらく仕事を優先すると思うので、王都までは来てくれませんよ」
「え、そうなの?」
マルテの言葉を聞いてようやく姉さんが撫でるのを止めてくれた。
そうか、王都には来てくれないのか。じゃあどうするか考えないとな。




