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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第8章
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第25話 俺は電撃兎と対峙する

『サンダーバニーが生み出す電力は大した事無いぞ。雌1匹なら、その攻撃をまともに喰らっても気を失う事は無いだろう。しかし奴らは群れる。群れて動かず電力を蓄える。群れれば群れるだけその威力も増し、思いもよらない反撃を受ける事がある。そこは注意すべきだぞ』


 事前に聞いたアミーラの助言通り、目の前のウサギ達は5匹で押し競饅頭のように固まっている。


『サンダーバニーが全身の毛を逆立ててバチバチと音と光を発している時、それは奴らの警戒心が高まっている証拠だ。いつでも雷撃で攻撃出来るぞと言う意思表示だぞ』


 なるほど。同じ雷撃魔法を扱う魔物同士、よく知っているな。


 タワシかモップか、団子になったウサギ達は掃除道具のように長いその毛を逆立てている。もし警戒を解いて逆立った毛が元に戻ったら、毛が顔全体を覆ってしまって視界や食事の邪魔になるだろうな。


『それから、これが1番大事な事なんだが、奴らの肉は旨い。そういえば最近食ってないな。もし肉が手に入るのなら、情報提供料としてそれも所望するぞ』


 ウサギ肉、俺は食べた事ないかなぁ。国内には別種のウサギが居るから知らないうちに口にしている可能性は有るけど、牛豚鶏羊と比べて流通量は少ない筈だ。


 西方伯が西の国から輸入し、飼育を始めたというサンダーバニー。国内ではあまり知られていないそのウサギの知名度を高める為に、西方伯は謝罪に来た父さんを利用する事を考え付いたらしい。父さんが冒険者ギルドとの間に立って生まれた結果が今回の余興、『可愛いウサギを捕まえて、賞金とお肉と毛織物を手に入れよう大作戦』だ。誰が考えたのか知らないが、酷いセンスの名付け親も居たもんだ。


 今回の為に西の国から仕入れて来たサンダーバニーの肉やその被毛を使った毛織物が優勝賞品だが、観客達も買えるように競技場外の屋台でも売っている。余興が終わったら食べに行ってみようかな。


 因みに余興の景品は男爵家からの出資。屋台の準備等も男爵家がお手伝いしている。勿論見返りは無く無償援助だ。西方伯夫人らに手を上げた事に対する男爵家への懲罰がその程度で済んだのは暁光なんだろうな。


 この余興、姉さんは完全に自主参加だが、俺の参加は最初から決定事項で拒否権は無かった。他の参加者は老若男女問わず募集したが、就学前の子供は俺達だけだった。相手が雷撃魔法を使う魔物だからな。奴らの力は大した事無いとアミーラは言うが、そんな事を知らない親は子供の参加を許可しないよね。他の出場者も冒険者風情の人達が多かった。


 余興のルールは簡単で、制限時間内により早く5匹のサンダーバニーを捕まえた組が優勝、しかしウサギ達を傷付けては失格という内容だ。西方伯はこの余興からウサギ達を効率的に扱う方法を学ぼうとしているのかもしれない。


 しかしクルトさんの開始合図から行動せずに少し待ってみたが、サンダーバニー達は丸まって動こうとはしない。ずっと警戒態勢を維持したままか。流石に何度も追いかけ回されたらこうなるよな。他の参加者がどうやってこの子達を捕まえたのか気になるが、こちらは事前の予定通りにやって行こう。


 マリー、手筈通り土魔法でゆっくりと壁を作って、群れを分断して欲しいんだけど。


「すみませんゲオルグ様。出来ません」


 じゃあ金属、は電気を溜め込むからやめた方がいいか。草木魔法でもいいよ。


「すみません」


 曇天の空のような表情でマリーが謝罪の言葉を述べる。それしか言えない機械人形のように繰り返す。控え室で姉さんから受けた叱咤激励も、今のマリーには効果が無かったようだ。


「すみません」


 マリーがどうしてこうなったのかはなんとなく想像出来る。マリーの援護が無ければ何も出来ない俺を観客に見せて、恥をかかせてやろうとかそういう魂胆なんだろう。手が届く範囲に居るマリーに手出しをさせないっていうところも性格が悪くて虫唾が走る。


「すみません」


 はいはい、わかったわかった。わかったから涙は流すなよ。泣いたら向こうの思う壺だからな。姉さんに言われたように、前を向いて笑いなさい。


 大丈夫。


 こうなる事も想定内だ。マリーが居なくても大丈夫なように色々と準備して来た。1ヶ月以上もこちらに対策を練る時間を与えた事を後悔させてやる。向こうはマリーに怒ってるのかもしれないが、それ以上に俺は、怒ってるんだからな。


 俺は背負っていたリュックから瓶を取り出し、ウサギ達に向かってパラパラと中身を放り投げた。




「開始の合図からまったく動かなかったゲオルグ・マルグリット組ですが、ようやく動き出しましたね。私の声が聞こえていないんじゃ無いかと不安になりましたよ」


「サンダーバニー達の様子を観察していたんでしょうね。ウサギ達が動くか動かないか観て、自分がどう動くべきか判断したんでしょう」


「なるほど。ところでゲオルグ君が背中のリュックから取り出した物は何でしょうか。目の前に落ちたそれをウサギ達は警戒しながらも、匂いを嗅いで興味を示していますが」


「あれは餌ですね。牧草を主成分に、乾燥大豆を擦り潰してつなぎにし、他の乾燥させた野菜や果物なんかも少量加えて団子状に纏めた物です。ゲオルグが試行錯誤して作り出した物ですが、国内に居る別種のウサギは良く食べました。サンダーバニーも多分食べると思いますよ」


「それは、有りなんですか?」


「有りでしょうね。餌を与えないでくださいとは言われていませんからね」


「はあ、盲点ですね。しかしそれだけであのウサギ達が大人しくなるかどうか」


「大人しくなるかどうかは解りませんが、ほら、匂いに釣られた1匹が団子状の群れから離れましたよ」




 よし掛かった。


 まだ電撃ビリビリ警戒態勢だが、他のウサギ達も餌を食べようとバラバラに動き出した。他の参加者から逃げ回ってお腹が空いただろう。ゆっくり食べろよ。


 俺はその間に、次の一手を打たせてもらおう。

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