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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第8章
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第18話 俺は父親の判断に納得する

 サクラと夜遅くまで夜空を見上げていた父さんは翌朝、西方伯邸へ先触れとして出向いたルトガーさんの帰宅を待ち、ルトガーさんと共に屋敷を出て行った。


 今晩もサクラと星を見る約束を取り付けたからか、屋敷を出て行く父さんはとても機嫌良さそうだった。


 そんなに毎日見上げても夜空に大きな変化はないと思うが、サクラと一緒というのが嬉しいんだろうな。


 かくいう俺はというと。


「にいさま、むしさがしにいこ」


 朝から元気潑剌のカエデに手を引っ張られ、庭にやって来ている。昨日は花壇の土の中で眠っていたミミズしか見つからなかったからな。リベンジとばかりにカエデはやる気を見せている。


 本当は今日は魚類の本を持って村に行き、魚を飼育する為の魔導具をロミルダに作って貰う予定だった。でも西方伯家との話し合いが終わるまでは王都内にいるようにと父さんに指示されているから、予定が無くなってしまった。父さんが帰って来るまではまだ時間が有るから、それまではカエデと目一杯遊んであげるぞ。


「何が、時間が有るから、ですか。暇なら歴史書を読んで勉強したらどうなんですか?」


 いや、まあ。偶にはカエデと身体を動かす事も大切だろ?


「それなら、カエデ様がお昼寝されている間は、勉強の時間と考えていいんですよね?」


 そういう風に強要されると余計にやりたく無くなるんだけど。


「にいさま、むしいたっ」


 お、どこだどこだ。しっかり見張ってろよカエデ。捕まえるのはお兄ちゃんに任せなさい。


 俺はジト目で睨んでくるマリーを見ないようにして、昼食が出来たから手を洗って来なさいと母さんが呼びに来るまで、俺はカエデと遊び続けた。




 昼食後、カエデは電池が切れたようにバタリと意識を失った。


 元気いっぱいのカエデが体力を使い切る程遊んだんだから、当然俺も疲れている。俺も一緒に昼寝したい。


 カエデを寝室のベットに運んで寝かせたところでチラッとマリーに視線を向けると、満面の笑みで2冊の本を抱えていた。


 さあ、どちらか選べ、という事だろうが、出来ればどちらも選びたくない。サクラは、サクラは今何をしているんだ?


「サクラ様を利用して逃げようとしてもダメですよ。サクラ様もお昼寝の時間ですから。さあ、観念しなさい」


「ゲオルグ様、マリー。男爵様が漸く戻られたので、男爵様の執務室へ向かってください」


 寝室にサクラを連れてやって来た女神様が俺を苦痛から救ってくれた。ありがとうアンナさん。すぐに行きます。


「もういいです。読まないのなら後で返して来ますから」


 寝室を足早に抜け出した俺の背中に、マリーの非難の声が迫って来ていた。




「西方伯は領地に滞在中で不在だった為、奥方や西方伯の部下らと意見交換した結果、こちらから謝罪の言葉を伝えて矛を収める事になった。向こうは冒険者ギルドで問題を起こした4人の青少年を謹慎処分とするそうだ。マリー、これから一緒に謝罪しに行くから、身なりを整えて来なさい」


「かしこまりました」


 先程まで俺に向けていた怒りの表情を押し殺して父さんに返答したマリーは、着替えをする為に執務室を退室した。


 マリーが先に手を出したんだから謝罪するのは当然だと思う。でも、向こうも関係者を謹慎させるんだな。意外と身内に厳しくしっかりと対応するんだね。


「謹慎と言っても、1日なのか1ヶ月なのか1年なのか特に謹慎期間は明言しなかったからな。厳しく対応っていうのは違う。まああんまり厳しく処罰されてこちらに逆恨みされても困るから、こういう時は中途半端な対応で良いんだよ」


 そうなの?よくわからないな。


「こちらが厳しい処罰を求めたら、向こうもマリーの謝罪だけでは済まさなかっただろう。金銭を要求されるか物品か、どちらにしても俺は西方伯には何も渡すつもりはなかった。リリーの言うように全面対立するつもりもなかったがな。マリーには悪いが、ちょっと頭を下げてもらってパッと帰って来るよ」


 何も渡すつもりはないと言った時の父さんの声には力が籠もっていた。態度や表情は普段通り飄々とした印象だったが、父さんも多少は怒ってるんだろうか。


「じゃあ行って来る」


 父さんに続いてルトガーさんとマリーが男爵邸を出て行った。


 珍しくスカートを履いて長い髪を一つに束ね、可愛らしい格好をしているマリーを揶揄ってやろうかと思ったが、そんな俺に視線を合わせる事なくマリーは出発した。揺れるポニーテールを見送りながら、可愛く仕上がったでしょとアンナさんが自慢げに言って来たから、多分マリーとしては不本意な格好だったんだろう。


 まあ偶にはああいう格好も良いんじゃないかな。


 さて、俺は鬼の居ぬ間に、昼寝をしよう。


 マリーが本をどこに置いたか分からないからとそれっぽい理由を付けて、俺は昼寝の準備に取り掛かった。

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