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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第8章
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第15話 俺は妹と読書する

 図書館で本を借り、鷹揚亭で一休みした俺達は、マリーに引っ張られるようにして男爵邸に戻って来た。エマさんに会えなかったのは残念だが、徐々に機嫌が悪くなるマリーを抑える為には仕方なかった。まあ俺が本を読もうとしなかったのが悪かったんだけど。


「マリー、ちょっと」


 屋敷に戻った俺達を出迎えてくれた母さんが、おかえりの言葉に続いてマリーを呼び付ける。


 今日の午前中も全く同じ遣り取りを見たが、今回も俺には内緒なんだろうな。


「ゲオルグ様。監視の目が無くても、本に目を通しておいてくださいね」


 勉強しなさいよと俺に釘を刺して来たマリーは数冊の本を抱えて、自室へと向かう母さんを追いかけて行った。


 俺は手元にある2冊の本に目を落として、大きな溜息を吐く。


 マリーが選んだ2冊の本は薄いんだけど、ずっしりとした重みが感じられる。


 自分で選んだ魚類の本はマリーに取り上げられていた。この2冊の本どちらかを読まない限り、魚類の本は読めないのだ。どちらもマリーは読了していて内容も記憶しているらしいから、読んだと嘯く事も出来ない。

 このマリーの仕打ちに対して、早く読んでしまった方が楽になるぞと訴えてくる俺と共に、もう魚類の本を読めなくても良いじゃないかと反発している俺が居る。今後のマリーとの関係を冷静に考えたらどっちの俺が勝てば良いかは明白なんだが、俺の頭の中では反対勢力が根強くゲリラ戦を展開していた。


 はぁ。


「にいさま、そのほん、たのしい?」


 2度目の溜息が漏れ出ると同時に、いつの間にか近寄って来ていたサクラが指摘する。俺が持っている本に興味があるらしいが、残念ながらこれはサクラが読んでも楽しめないと思うぞ。


「サクラ様。サクラ様の為に借りて来た本はこちらにありますので、今から夕食まで一緒に本を読みましょう」


 ルトガーさんが3冊の本をサクラに見せて気を引こうとしている。


「にいさまも、いっしょ」


 頭の中で勃発した内乱に第3勢力が割り込んで来て、強引に停戦条約を締結させていった。


 可愛いサクラにそう言われちゃあ仕方ない。結果何かしらの本に目を通す事になるんだから、マリーだってきっと許してくれるだろう。




 サクラの為に借りて来た本は3冊。1冊は児童書だが、他の2冊は別の棚から借りて来た。


「ねこさん、いっぱい」


 魚類の本が収まっていた棚に有った本の見開きの頁に、ソファーに座る俺の膝の上で、サクラは夢中になっている。


 そうだね、猫さんいっぱい居るね。でも他にも動物が沢山載ってるんだよ?


「だめ、ねこさんがいい」


 この本は、所謂動物図鑑だ。魔物を含む動物が、恐らくこの本の作者の主観によって系統分類され、文字による解説の頁と見開きで挿絵を載せている頁とで構成されている本だ。


 今開いているのは猫種の絵ばかりが描かれた頁。作者曰く、描かれている動物の体長体高は実寸比に合わせているらしいが、こっちが家猫サイズだとすると、これがライオンか虎のサイズ、しかしそれより更にデカい猫も描かれている。上顎から長く伸びた2本の犬歯が特徴の猫種の魔物らしいが、多分カバかサイぐらいの大きさだな。本当に実在したら人間なんて瞬時に刈られてしまいそうだ。


 因みに、同じ猫種の魔物であるアミーラの種族は描かれていなかった。作者がその存在を知らなかったんだろうか。


「いっぱいいるね」


 なんでカエデもサクラもここまで猫好きになったんだろうと首を傾げながら、サクラの表情を維持する為に、俺は同じ頁を開き続けた。




「ゲオルグ様、なんでサクラ様と遊んでるんですか?」


 母さんとの話が終わったマリーに、俺はジト目で睨まれる。


 時計を見るとサクラと遊び始めて割と時間が経っていたが、俺は未だに膝の上にサクラを乗せて、動物図鑑の同じ頁を眺めていた。サクラを俺に盗られたルトガーさんはこの部屋から居なくなっている。どこかでカエデと体を動かしているのかもしれない。


「マリねえ、このほん、たのしい」


 マリーのきつい視線を跳ね除けるような特大の笑顔でサクラが俺を守ってくれる。サクラのこの表情を見たらマリーも止めろとは言えますまい。サクラガードは鉄壁なのだ。


「むう。サクラ様はどの辺りがお気に入りですか?」


 痛っ。


 俺達が座るソファーに腰掛けながら、マリーは俺の左脇腹を軽く小突いて来た。しかし先程までのジトっとした視線を消して、表情を笑みに作り替えている。まあこの軽い1発で全て許してくれるというのなら黙って喰らっておこう。


「ねこさん、いっぱい」


 開いている本を隣から覗いて来たマリーに、本の挿絵を指差しながらサクラが感想を述べる。猫の頁以外は殆ど見ていないんだよと俺はマリーに小声で告げた。


「そうですか。良い本を借りて来てもらって良かったですね」


「うん。にいさま、ありがとう」


 いや、選んだのはルトガーさんだから。後でルトガーさんにもお礼を言おうね。


「うんっ」


 うんうん、サクラは素直で良い子だね。マリーも少しは見習って欲しいものだ。


 俺の視線から悪意を感じ取ったのか、マリーの拳がもう1度俺の左脇腹を襲って来た。サクラガードは正面からの攻撃に対しては鉄壁なんだが、死角が多いところが弱点なのだ。

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