第13話 俺は青少年達を見返そうと提案される
「ゲオルグ様、こうなったらしっかり勉強して学年首席で学校を卒業して、馬鹿にして来た奴らを見返してやりましょう」
警備隊のダミアンさん達と別れて再び図書館へ向かう道すがら、未だに怒りを抑えられないマリーが無茶な事を言ってくる。
「周りで見ていた野次馬達の中にもゲオルグ様を嘲笑っている人達が居ました。許せませんよね?」
いや、俺は。
「そうですよね。絶対に許せませんよね。なので一緒に勉強頑張りましょう」
全く聞いちゃいねぇな。だからじゃじゃ馬と言われ、はい、すみません。
悪口にはしっかりと反応するんだな。
しかし、俺に対する誹謗中傷に怒ってくれるのは嬉しいんだが、ちょっと興奮し過ぎじゃないかな。だいたい同学年にはマリーの他にローズさんやプフラオメ王子も居るんだぞ。首席なんて夢のまた夢だよ。
「それならば次席を目指しましょう」
それは一体誰に負ける前提なんだ?
それに、聞いた話じゃ学年が上がる毎に選択制の授業が増えるみたいじゃないか。最終的には全て選択制になって、同学年皆バラバラの授業を受けるんだろ?それでどうやって成績を比較するんだよ。
「全部の授業を受けて全部の試験で高得点を取れば良いんですよ」
そんな無茶な。だいたい態々選択制にしてるって事は授業を行う時間帯が被ってるんだろ?試験で良い点数を取れるかどうかの前に、全部の試験を受けるなんて不可能だよ。
「そうでもないですよ。第一王子はその学年で受けられる全ての試験を受けたんだと、この前アリー様が仰っていました」
ルトガーさんが実例を出してマリーの無茶振りを後押しする。
「へぇ、将来国を治めようという立場の人は流石に違いますね。ゲオルグ様も見習いましょう」
くそっ、なんであの王子はそんな無茶をするんだ。いや分かってる。絶対姉さんに良く思われたいからだ。凄いねって言って欲しいからだ。全ての試験を受けたというのも、王子自身が態々姉さんに話したんだろうよ。
でもそういう前例を作るから後の学生に被害が。今度会う事があったら絶対に文句を言ってやる。
「そういえば、全ての授業を受ける、じゃなくて、全ての試験を受ける、なんですね。授業は受けなくても試験を受ける事が出来るって意味ですか?」
ルトガーさんの言葉に引っ掛かったマリーが疑問を口にする。
「教師の中には、ある程度授業に出席していないと試験を受けさせない教師や、1度でも授業に出席していたら試験を受ける権利があるという教師が居ますからね。私達が学生の頃も、旦那様が良く後者の教師の授業を欠席して別の事をやっていました。第一王子はそういった教師の特徴を考慮しながら、時には教師に頭を下げて、精密な受講計画を作ったんでしょう」
なるほど。休んだ授業の内容は後で誰かから教えて貰えば良いもんな。王子なら手を貸してくれる人材を豊富に持っているだろうし。
「まあ首席で卒業する為に全ての試験を受ける必要は無いんですけどね。苦手な分野で低い点を取るとそれが足を引っ張る事にもなりますし。学校が決めた授業数を選んで休まず出席し、試験で高得点を取る事が首席への近道ですよ」
つまり必要以上に授業を受けるのは蛇足って事か。こりゃ授業を全部受けるのは諦めた方が良さそうだね。
「むぅ。仕方ないですね。ゲオルグ様が目立てる良い機会だと思ったんですが、ゲオルグ様が得意な分野だけで勝負しますか」
解ってくれてありがとうマリー。でも俺は別に目立たなくても良いんだからな。
「首席卒業を狙うのなら1年次から優秀な成績を収め、教師陣に良い印象を与えておく必要が有ります。最終学年次だけ成績が良くても、それまでの間ずっと素行不良でした、では首席には選ばれませんよ」
つまりは自分の得意分野だけでは駄目だという事か。1年次は歴史とか文学とか俺の苦手な授業があるみたいだからな。まあ俺は首席を狙わないから平均点よりちょっと良いくらいでいいんだけど。
というか、ルトガーさん詳しいですね。もしかして学生の時、首席を狙ってました?それとも首席だったとか?
「まあ色々と有りまして、その辺りは坊っちゃまにも内緒です」
凄く気になるんだけど、もう図書館に着いてしまったからしつこく聞くのは止めとこう。
「では今日はゲオルグ様がうたた寝せずに勉強出来るような本を探しましょう。出来ればゲオルグ様の苦手な歴史書か文学書が良いんですけど」
いやいや、今日図書館に来たのは魚類の生態が載ってる本が無いか探しに来たんだからね。あとはサクラが楽しめる児童書を。道中で色々有ったけど、目的はそれだから。
「では別々に行動しましょう。私はゲオルグ様の本を探して来ます。受付の時計で1時間後に再集合で。では」
受付を済ませたマリーはあっという間に本棚の向こう側に消えてしまった。ここ最近マリーはどんどん姉さんに似て強引になっている気がする。それとももっと前からこんな感じだっけ?
「アリー様なら図書館内の本を全て借りて帰ろうくらいの無茶は言うでしょうね。さて、立ち止まっている時間も無いので我々も早速行きましょう。最近私もサクラ様に本を読み聞かせているんですよ。だから私にも本を選ばせてくださいね」
それはいいんですけど、まずは魚類の本ですからね。
「では受付の方に目的の本の場所を教えてもらいましょう」
なんとなくウキウキしている様子のルトガーさんに背中を押され、先程受付手続きを担当してくれたお姉さんに俺はもう1度声を掛けた。




