第8話 俺はロミルダの訓練を見学する
あれから毎日、ロミルダはマリーの指導を受けて金属魔法の訓練を行った。
「立って。立つのよロミルダ。貴女ならまだ出来るわ。もっと自分を信じなさい」
「はいっ、マリーさんっ」
朝食後から夕食前まで、2人はスポ根漫画の選手とコーチのように練習を続けた。
「もっと脇を締めて。足は肩幅と同じくらいに開いて」
「はいっ、マリーさんっ」
「違う。返事は、いえすまむ、よ」
「いえっす、まぁむ」
スポ根を通り過ぎて軍隊式に変化していったが、昔ふざけて姉さんに教えたやつを広めるのは止めて欲しい。敬礼まで教えなくていいから。意外とノリが良いロミルダにも俺は驚いている。
「こら、お前達。もっと相手の動きを見て、全員で息を合わせるんだ。戦場での連携不足は仲間の死を意味するぞ」
「「「「「「いえっす、まぁむ」」」」」」
「ではもう1度最初からだ。いいか、この訓練はお前達を虐めて楽しんでいる訳では無い。お前達を戦場で死なせに為の訓練だ。自らの、そして仲間の命を守る為に、死に物狂いで動けっ」
「「「「「「いえっす、まむっ」」」」」」
マリー上官の言葉に、6名の新兵が声を揃えて返事をする。
どうして人数が増えているんだ。村の子供達に変な言葉を広めるんじゃない。マリーは戦場に立った事はないだろうが。ガラスを作る訓練じゃなかったのか。
日に日に増えて行くツッコミポイントを的確に処理しながら、俺は皆の特訓を見守っている。
4日目の特訓を終えようとした頃、マリーが最終試験だと称してロミルダにガラスを作らせた。
俺はロミルダと一緒に訓練を受けていた5人の子供達、ロミルダの1歳下で魔力検査の時に5人で協力して五行の連なりを披露した子供達、と並んで見学している。
何度も深呼吸をして調子を整えたロミルダがガラスを作り出す為に金属魔法を発動した直後、隣で見学している女の子から話しかけられた。
「ゲオルグ様は、ロミルダ姉の事をどう思ってるんですか?」
え?どうって?
前方のロミルダの動きを視界に収めながら、横目で女の子の様子を確認する。女の子はこちらではなく、真っ直ぐロミルダの方を向いていた。
「好きですか?」
ちょ、直球な質問だね。
しかし女の子は会話のキャッチボールをする気はないのか、こちらを一切見ずにロミルダの動きを注視している。ただなんとなく、投げ付けてくる球には棘が付いているような気がした。
「私達は皆ロミルダ姉の事が好きです。特に傭兵団出身の子達は皆、ここに来るずっと前からロミルダ姉に助けられて生きて来たんです」
そういえば、ロミルダは傭兵団の子供達の纏め役みたいな立ち位置だったと聞いた事があるな。まだ魔力検査を受ける前の年齢の子がまとめ役と言うのも、結構な負担だったと思うが。
「北の国で暮らしていた時と、今も変わっていません。この村に来て産まれた子供達も、まだ幼いですがロミルダ姉の事を慕っています。だから」
だから?
一旦言葉を切った女の子は、ふぅっと大きく息を息を吐いて身体をこちらに向け、豪速球を投げ付けて来る。
「いくら領主の息子といえど、ロミルダ姉を泣かせたら村の子供達全員を敵に回しますよ」
眉を寄せて睨んで来る女の子の向こう側から、そうだそうだと男の子が野次を飛ばしている。他の3人は黙っているが、こちらに向けているその表情は同意を示していた。その3人のうち2人はロミルダの魔力検査を見て村に引っ越して来た子達だ。その子達にとっても憧れのお姉さんなんだろうな。
大丈夫大丈夫。俺もロミルダの事は好きだから、悲しませたりなんかしないよ。
「よしっ、合格」
俺が返事を伝えようとした丁度その時、マリーの声が耳に届く。どうやら話している間にロミルダがガラスを作り終え、マリーの検品を無事通過したようだ。
「これでもう私が教える事は無い。後は現場で経験を重ね、自分の得意な所を伸ばし、苦手な箇所を見つけては何度も反復練習するんだ。勉強に終わりは無く、一生行なって行くものだと知れ」
「はい、ありがとうございます。これからもマリーさんの言葉を忘れずに、勉強を続けます」
「うむ。励めよ」
「いえす、まむ」
ロミルダはビシッとキレのある敬礼をした後、作り掛けの魔導具に少し手を加えてガラスを設置した。
「ゲオルグ様、魔導具が完成しました。早速水を入れて、動かしてみましょう」
魔導具の完成を満面の笑みで喜びながらこちらに手を振るロミルダに呼ばれて近寄ろうとすると、隣から小さな舌打ちが聞こえた気がした。




