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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第8章
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第3話 俺は魔導具の改良を考える

 お昼前に王都から帰って来たマリーの力を借りて、俺1人では持ち上げるのに苦労する程の割と大きな直方体の水槽を作った。中が確認出来るように、長い方の壁の1面をガラス張りにしている。ガラスはマリーのお手製。ロミルダはここまで透き通った薄いガラスをまだ作れないらしい。


 他3面の壁は薄い金属で作った。ロミルダにも1面を担当してもらっている。軽さや熱の伝わり辛さから木製も考えたが、長期間水に浸かる事とその後の手入れのし辛さから却下とした。船材に使われる木材なら腐り辛いとは思うが、耐食性のある木材は今日中には手に入りそうにないし、何より高価だ。


 水槽の底面に水温を感知する為の魔石と、水温を操作する為の魔石を設置した。この辺りは以前作った水筒の応用だから簡単に出来た。


 昼食の時間が過ぎていたが、完成した魔導具を持って温室に向かう。重たい魔導具はマリーの浮遊魔法で運んでもらった。


 既に温室内には小さな水槽が設置されて浸種が始められていた。あれは土製か。父さんが簡易的に作ったのかな。


 村の男性が水槽の隣に座って、右手を水槽に入れている。多分水温を調節しているんでしょうとマリーが言う。直接水に触れている方が水温操作は楽に出来るらしい。もし俺が魔導具を作っている間ずっとあの人が水温調節を担当していたとしたら、手はぶよぶよにふやけているだろう。11℃の水って割と冷たいし、これは大変な仕事だ。


「おう、ゲオルグ。魔導具は、出来たみたいだな」


 マリーが運んで来た大きな水槽を見て、父さんが感嘆の声を上げる。


 父さんの指示に従って土製の水槽の横に魔導具の水槽を置くと、水槽に手を入れていた男性がそのまま水魔法を使って中身を移し替える。一仕事終えた男性の右手は案の定ふやけて白っぽくなっていた。


「今までありがとう。少し休憩していてくれ。じゃあゲオルグ、この魔導具の使い方を教えてくれ」


 水魔法を使い続けていた男性に休憩するよう指示を出した父さんが、こちらに興味を向ける。良いのが出来たら早速売りに出そうと思っている表情だな。売り上げの何パーセントかは俺の小遣いに出来るよう、ちょっとだけ交渉してみよう。




「う~ん。思ったより早く魔力切れを起こしたな。安く済ませる為に小さな魔石を使ったと言う点は褒めたいが、3時間程度で魔力切れを起こすようじゃなぁ。日中は良いが、深夜に起きて魔力を補充するのはちょっと面倒だな」


 少し残念そうに漏らす父さんの言い分も解る。でも予備の魔石も搭載しているから、俺の計算では8時間、1日3回の魔力供給で大丈夫な筈だったんだけどな。


 熱伝導率の高い金属の壁が良くなかったか、それとも温室に設置したのがまずかったかな?


 俺の疑問を聞いて、シビルさんが口を開く。


「どちらも有る。とりあえず温室の外に設置した方が良い。改善要求として水流を作る事を提案する。水を混ぜた方が水温は一定になりやすい。それから、可能なら空気中の酸素を水中に取り込めるようにもして欲しい。稲は低酸素に強い植物だけど、多少は酸素が有った方が良いから。後は水魔法が使えない者にも水の交換が簡単に出来るようになればなお良い。2、3日に1回は水を換えたい」


 疑問に答えたついでとばかりにシビルさんが沢山要求して来るが、出来ればこれを作る前に言って欲しかった。作った物を見て今思いついたんだろうか。


 まあ水を抜く為の穴を作ろうとしなかったのはダメだったな。水が入った水槽を傾けるのは大変だけど、水魔法で簡単に出来るでしょと思ってしまった。


 あとは、水流はもう1つ魔石を搭載したら作れるだろうが、空気中の酸素を取り込むってどうしたらいいんだ?


 魚を水槽で飼育する時みたいに、水中にボコボコと空気を送るポンプが有ればいいのか?


 細い筒を水面から水中に向かって刺して、風魔法で少しずつ空気を送れば大丈夫かな。


「それでもいいけど、水面の上から滝のように水を落とすと空気を一緒に巻き込んでくれる。水流も作れて一石二鳥」


 そうなの?


「そう」


 端的な言葉で返して来たシビルさんは、もう深く説明する気はないようだ。そこまで色々な案が有るのなら、どういう構造で作ればいいのかもっと教えて欲しいんだけど。


「向こうの大陸で見た物を今思い出しただけだから、構造はよく解らない。ゲオルグなら出来るよ」


 なんか適当に煽てられている気もするが、美味しいご飯の為に頑張るか。


 う~ん。水槽内の水を吸い上げてシャワーのように滝を作ればいいかな。水槽の水を捨てる時はシャワーヘッドを水槽の外へぐるっと回せるようにしたらいいよね。ただし、水を吸い上げる時に種籾も一緒に吸い上げないように注意しないとダメだな。種籾より細かい網目を幾つか作る必要があるか。


「ゲオルグ。出来れば、いや出来るだけ安く、な」


 シビルさんの要求に応えてどんどん高額な魔導具へと進化していく事を恐れた父さんが助言をしてきた。いや、こっちも要求だな。


 出来れば父さんの願いも叶えたいとは思うが、上手く浸種が出来なきゃ意味が無いからな。とりあえずシビルさんの要求に応えた後で、廉価版を作る方が良いだろう。


 よし、今使っている物より大きくて高額な魔石を使って作ってみるか。マリー、申し訳ないけどもう一度王都にお願い。


「畏まりました。ついでですから、ソゾンさんに水槽の壁面に使える良い素材が無いか聞いてきますね。それでもし良い素材が無かったら、造船所のダニエラさんに頼んで船材に使う木材を分けてもらって来ましょうか?」


「ちょっとそれは」


 マリーの提案に俺が答える前に、父さんが割り込んで制止した。もの凄く高額になった競艇用の舟を思い出したんだろうか。


「畏まりました。では、もう一度行って来ます。ロミルダも」


 日が沈む前に帰って来られそうにないなら、無理せず王都で留まってよ。


「大丈夫ですよ、心配性ですね」


 そう言って笑ったマリーは、ロミルダを連れてさっさと温室を出て行ってしまった。

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