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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第8章
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第2話 俺は美味しく炊けたご飯を望む

 温室から出た俺は、村の男爵邸に向かって歩き出す。


 父さんに言われて魔導具を作る事になったが、どうして今日急に言うんだよ。数日前に声を掛けてくれていたら良かったのに。


「昨日まではそんな話は無かったんですよ。男爵様も今日種蒔きするぞって、村の皆の前で、その、燥いでましたから」


 俺の左隣を歩くロミルダが言い辛そうに口を開く。


 小さな子供から見ても解るほどに燥ぐとは、恥ずかし過ぎるぞ父さん。


 まあでも、俺も男爵領内で稲を育てられると解った時は随分と喜んだからな。きっとマリーの目からは異常な光景に映っていた事だろう。だから、あまり人の事は言えないのだ。


「多分昨晩シビルさんが村に到着した後に、これからどうするのかを男爵様と話されたんだと思うんです。今思えば、今朝のラジオ体操での男爵様はいつもより少し元気が無かったように思えますし」


 父さんは東方伯から種籾を受け取った時に、稲の植え方育て方を教わらなかったのかな。マチューさんならそういう大事な事は教えてくれそうだけど。教えずに育てる事を失敗されるよりも、少しでも助言して成功してもらう方が良いよね。


「男爵様の事ですから、興奮していて話を聞き逃したとかそんな理由じゃないですか?何せゲオルグ様の父親ですからね」


 右隣を並んで歩くマリーが悪戯っ子の表情でからかって来る。


 それに関しては俺も強く否定出来ないから困る。父さんなら十分にあり得る話だしな。


「それで、どんな魔導具にするんですか?もう決まっているのなら、王都の冒険者ギルドへ行って魔石を買って来ますよ?」


 からかって来た言葉に対して肯定で返したからか、その事に興味を失ったマリーが話題を変える。


 そうだねぇ。


 水温を一定の温度まで高めるのは温水の水筒を作った経験からすぐに出来るし、それを長時間同じ温度のままで留めるのも難しくは無いと思うけど。


「けど?」


 水魔法と火魔法、どちらを使った方がより効率的に水温を安定させられるかと思ってね。大きな魔石を使えば効率なんて無視出来るんだけど、費用を掛けすぎるとまた怒られるだろうし。


「どっちが、ですか。私は水魔法だけで、火傷する温度から凍傷になる温度まで水温を変化出来ますね。グラグラと沸騰させて水を蒸発させるなら火魔法、流れる川を凍りつかせるほどに冷やすのなら氷結魔法を使用しますが」


 なるほどね。ロミルダはどう?


「私もそうですね。水魔法を覚えたての頃、水温調節はある程度水魔法で出来ると教わりました。多分皆さん同じようにされていると思いますよ」


 そうなんだ。じゃあ沸騰する程でも凍結させる程でもないから、水魔法で行こうかね。


「では、水属性の魔石を幾つか買って来ますね」


 買いに行ってくれるのは助かるけど、マリー1人で大丈夫?


「おつかいくらい熟せられますよ。解らなかったらアンナさんに聞きますし。今日は王都の男爵邸に居る筈ですよね」


 そうだと思うけど、ちゃんと購入出来るのかっていうより、村から王都までの往復を1人で大丈夫なのかって思って。飛行魔法で移動するつもりなんだろうけど、1人で行くのは危ないよ。


「私1人でも問題無いと思いますが、心配してくださると言うのならその気持ちを無下にするのも良くないですね。では、ロミルダも一緒に行きましょう。ゲオルグ様はどういうドワーフ言語にするか1人でゆっくり考えていて下さい」


 マリーはそう言いながらロミルダの手を取り、ロミルダの返事を聞かずに2人で空へ向かって舞い上がって行った。


 俺は何となく寂しい思いをしながら、2人が遠くの空へ消えていくのを暫くの間見守っていた。




 ふむ。こんな感じかな。魔石に刻んで使ってみないと正確には判断出来ないけど、まあ間違いなく上手く行くだろう。


 水筒の応用で浸種用魔導具のドワーフ言語はあっという間に作り終えちゃったから、まだ2人は帰って来ていない。


 やる事も無いから、別の魔道具でも考えようかな。


 出来れば田植えや稲刈りに役立つ魔導具が良いんだけど、特に何も思いつかない。前世でも田植えは1回しかやったことが無いはずだし、稲刈りについては全く経験が無い。


 田植えや稲刈りが無理なら、収穫した米を炊く炊飯器が欲しいな。美味しく炊ける炊飯器が。


 でも炊飯器の構造もよく解らない。前世では飯盒でご飯を炊いた経験は有るけど、それの応用で良いんだろうか。う~ん。困った。これは重要な問題だぞ。折角稲を育てるんだから、いろんな人に米の美味さを知って欲しい。米食を国内に広める為にも、米を美味しく炊ける炊飯器が必要不可欠だ。




 稲穂が黄金色に輝き、たっぷりとお米を実らせて首を垂れるのは随分と先なのに、俺は早く炊き立てのご飯が食べたいと、そればかり考えていた。

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