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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第7章
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閑話 アマちゃんの心配

 太鼓のゲームの勝敗は紙一重でした。


 もう少しでマギーをぎゃふんと言わせられたのですが、あと一歩のところで惜敗してしまいました。


 私の世界の曲なのに、マギーはどうして初見でほぼ完璧な演奏が出来たんでしょうか。


 謎です。


 もしかして発展している地球を羨んで、こっそり覗いているんでしょうか。


 ふふふ。つまり、これは嫉妬ですね。発展してる我が領地に対する嫉妬。


 わっはっは、これは笑いが止まりません。まさかマギーに嫉妬される日が来ようとは。今日は美味しいおやつを食べられそうですね。


「あんた何1人でニヤニヤしてんのよ。頭だいじょうぶ?」


 マギーになんと言われようと、今日の私は寛大に許しますよ。何しろ私はマギーに嫉妬される存在ですから。羨望の的って奴ですか?いや~、困った困った。


「マキナ、アマちゃんはついに壊れたのか?」


「だいたいいつもあんな感じだから、気にしなくていいんだよ。それよりも、今日は私の提案でハクスラをやるんだよ。高笑いを続けているアマちゃんは放っておいて、早速電源を入れるんだよ」


「ハクスラって何?」


「ハクスラっていうのは、簡単に言うと戦闘を楽しむゲームのことを言うんだよ。このゲームは6人でパーティーを組んでダンジョンの奥深くを目指すんだよ。この前アマちゃんが遊んでいるのを隣で見てて、私もやりたくなったんだよ」


「ふ~ん。まあそれは良いんだけど、それって1人でやるゲームじゃないの?私はどうしたらいいんだ?見てるだけなのか?」


「まあまあ、これからが面白いところなんだよ。さて、私のキャラは僧侶、体力にボーナスポイント全振りの屈強な僧侶が完成だよ。次はマギー、どんなキャラがお好み?」


「キャラ?ふむ、自分の名前を入れて遊ぶのか。戦士と、僧侶と、じゃあ私は魔法使いで。ボーナスポイントってやつは、知恵に振ってくれ」


「了解なんだよ。アマちゃん、アマちゃんは?」


 え?


 ああ、もう始めてるんですね。マギーは知恵の魔法使いですか。普通で面白みに欠ける設定ですね。流石マギー。


「面白くなくて悪かったな。アマちゃんはどうすんだよ」


 私は戦士ですね。素早い戦士となって敵よりも早く行動し、敵を一撃の下に葬ってくれましょう。


「残念ながらアマちゃんは私の独断と偏見によって盗賊なんだよ。運全振りで、宝箱に設置されている罠を次から次に解除していって欲しいんだよ」


 え~。盗賊が必要な職業だって言うのは解りますが、盗賊はシュバルトにでもやらせたらいいじゃないですか。


「戦士はシュバルトと桃馬にやってもらうんだよ。前衛に戦士3枚置くのも悪くないけど、それだとアマちゃんと同じでつまらないんだよ」


 私は物理でガンガン攻めるのが好きですからね。まあ今回はマキナのプレイですから、マキナの意見に従いましょうか。


 しかし盗賊と言えばパーティーの強化に必要な金銭や物資をかき集める大事なポジションです。ふっふっふ。宝箱を開けて良いアイテムが出ても私が独占ですね。頭を下げて懇願するのなら、少しくらい分けてあげますよ。




 パーティーを編成し、時間を掛けて装備やアイテムのやりくりをして漸くマキナはダンジョンに潜り始めました。ゲームの事をよく解っていないマギーは、隣でおやつの煎餅を無言でバリバリ喰らっていました。準備段階が一番楽しいんですけど、マギーには退屈でしたかね。


「なあ、アマちゃん。なんでアマちゃんは戦闘中に一切行動しないんだ?ズル休みか?」


 ダンジョン内で何度か敵との戦闘を繰り返していると、マギーに失礼な事を言われました。


 システム上の問題ですよ。このゲームは前衛3人後衛3人でパーティーを組みますが、後衛に配置された盗賊は攻撃出来ないんです。


「それならマキナに頼んで、前衛にいるマキナと交換してもらおうよ。自分のキャラが戦闘中に何もしていないのもつまらないだろ?私は自分のキャラが活躍している場面を見るとちょっと興奮するぞ」


 ゲームを楽しんでいるのは喜ばしい事ですが、マギーは解っていませんね。前衛の3者と私の体力を見比べて下さいよ。彼らの半分にも満たない盗賊が前に出たら、一瞬で命を刈り取られますよ。盗賊の役割は戦闘では死なず、道中の罠を適切に回避しながら、安全にパーティーをダンジョンの奥地へ連れて行く事です。戦闘面で手を抜いているんじゃなくて、他の5人を信じているんですよ。


「へえ。アマちゃんは何時でも何処でも自分のやりたいように生きるんだと思ってたよ。そういう役割はキッチリ守るんだな。ちょっとだけ見直したよ」


 失礼ですね。もっと見直してくれても良いんですよ。


 ところでマギーは、自分の世界の人々を信じられるようになったんですか?


「何の話だよ」


 さあ。何かで悩んでいると、ちょっとだけ小耳に挟んだもので。問題無いのならそれでいいです。


「あ、失敗したんだよ」


 ちょっとマキナ。なんで罠解除の操作を間違えるんですか。私が毒矢を喰らっちゃったじゃないですか。早く、解毒の魔法を。


「さっきの戦闘でシュバルトに回復魔法を使っちゃったから、解毒の魔法はもう無理なんだよ」


 だから魔法使い2人じゃなくて僧侶2人にした方が良いって言ったんですよ。そうだ、毒消しのアイテムは買ってないんですか?


「アマちゃんがどうしても短剣を装備したいって言うから、そっちにお金を使って毒消しのアイテムは買えなかったんだよ」


「攻撃する機会無いのにな」


 ぐぬぬ。それなら一刻も早くダンジョンを出て治療するしかないですね。さあ、急いでください。


「帰り道、覚えてないんだよ」


 あぁ、終わった。短い人生でした。


「そんなにがっくり肩を落とさなくても。死んでも復活出来るんだろ?」


「出来るけど、失敗してもう2度と復活出来なくなる事も有るんだよ。でももし死者の蘇生に失敗しても、第2、第3のアマちゃんが現れるんだよ。アマちゃんは滅びぬ。何度でも蘇るんだよ」


「そう聞くと、ちょっとうざいな。アマちゃんが1匹いたら、100匹は居ると思っておいた方が良いな」


 私を虫みたいに言わないでください。それにまだ復活に失敗した訳じゃないんですから。皆で祈るんです。念じるんです。思いはきっとこのゲームの世界の神にも届くんですから。




 結局その日、マキナがゲームプレイを止めた時には、アマちゃん12がパーティーメンバーとして頑張っていました。

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