第44話 俺は自分に合った本を探す
う~ん。
歴史書、自叙伝、小説、どの本にも触手が伸びない。
ドワーフ言語の本を棚に戻してから、マリーに連れられて色々な本を手に取ってみたが、どれも興味が湧かない。とても面白くて為になりますよとマリーが薦めて来る本は分厚い本ばかり。全部読んだとマリーは言うが、こんな分厚い本を読む時間がどこに有ったんだろうか。
マリーには申し訳ないが、興味の無い本を借りても絶対に読み終わらずに返却期限を迎えると思うんだよな。そんな無駄金を使うなら、カエデ達に何か甘い物でも買ってあげる方が建設的だ。
「そうですか。やはりゲオルグ様には読書は無理ですね。諦めましょう」
いつのまにか5冊の本を抱えていたマリーの言葉が、俺の眉間に皺を寄らせる。
「そんな顔したって、本当の事じゃないですか。読書に興味が無いゲオルグ様に、読書を勧めた私が悪かったんです。誰にだって向き不向きは有るんですから、ゲオルグ様は読書以外の方法で得意な物や興味が有る事の能力を伸ばす方が有意義ですよ」
謝りながら馬鹿にしてないか?
「ははは、そんなことは無いですよ」
じゃあ聞くけど、俺の得意な物って何よ?
「剣術とドワーフ言語。あとは、料理とか?」
最初の2つはまあ得意と言って良いだろう。剣術はジークさんやバスコさんと手合わせして負けた記憶が大きいからあまり自身は無いが、ドワーフ言語を使った魔導具作りには自信が有る。しかし、料理は得意と言っていいんだろうか。前世の知識に頼っている部分が多くて、新たに自分のセンスで料理を作り出したりとかはしていない。
前世で下半身が動かなくなって時間を持て余した俺は料理をするようになり、妹を喜ばせる為に色々と作れるようになった。車椅子でも調理が出来るようにと台所を改装してくれた両親のお蔭だ。醤油や味噌が生産出来るようになったら、もっと色々な料理を皆に提供出来るんだけど。
そういえば図書館には料理の本も有るんだった。ちょっとその本を見てみようかな。
「料理から派生して植物学や農学系も興味が有るんじゃないですか?」
確かに古本屋で買った植物学の本はあっという間に全部読めちゃった。
「興味が有る内容はするするっと頭に入って来るんですよね」
マリーの言いたいことは解ったけど、それならなんで俺に歴史書や自叙伝を薦めて来たんだよ。
「う~ん。私が読んで面白いって思った本を、ゲオルグ様がどう思うか知りたかった。そんなところですかね」
本当は俺が興味を持たないと最初から思っていて、読めない俺を馬鹿にする為に難しい本ばかり選んだんじゃないのか?
そこまで性格は悪くないですよと言ってマリーは笑顔を作ってるけど、どうも誤魔化そうとしているように感じるんだよな。
まあいいや。マリーが顔に笑みを張り付けたまま動かなくなっちゃったから、その話は一旦忘れてやろう。
「ありがとうございます?」
敢えて疑問形にして来るところにもの凄く悪意を感じます。
「ははは、ごめんなさい。ちょっとからかい過ぎましたか」
はぁ、もういいよその話は。
大きく溜息をついた俺は、料理本を探してふらふらと歩き出した。
「おう、ゲオルグが本を読んでいるなんて珍しいな」
長椅子に座って料理本を開いている俺に、メーチさんが声を掛けて来る。
ははは、俺だって偶には読書するんですよ。
メーチさんにじゃなくて、マリーの目を見て言ってやった。
「その本は北の国の郷土料理が載っている本じゃな。料理本を選ぶところは流石男爵家と言ったところか。男爵家の弁当なら金を払ってでも毎日食べたいくらいじゃ」
その言葉は弁当を作ってくれた料理長に伝えておきます。きっと喜びます。
「うむ、とても美味かったと伝えておいてくれ。それでな、本の複製を担当している職員と先程相談してな。アーベントの著作は全て複製を作る事にした。その複製を棚に並べるようにして、直筆の方は禁書扱いとする。図書館の奥にしまいこんでおけば、あの小さな子供達も安心して本を選べるじゃろ」
妹達を気遣って頂いてありがとうございます。でも、あまり複製って行われてないんですか?
盗難やら破損やらの被害を考えたら、貴重な原本は手の届かないところに置いておいた方がいいのでは?
「複製するのは手間なんじゃ。誰が読んでも読める綺麗な文字を書ける人材が必要じゃし、やるなら図書館の実費でやる必要がある。本当ならゲオルグの言う通り、この図書館内にある全ての本を複製にしておくのがいいんじゃが、それをやる時間も費用も無くてな。破損して読めなくなった古い物から優先的にやっておるのじゃが、全てをやり終える前に儂の命が尽きるじゃろうな」
あまり笑える話じゃないが、メーチさんはわっはっはと大きな声で笑い飛ばしている。
図書館を運営する費用から複製費を捻出するのが大変なんだろうな。国からの補助金が出ればいいのにね。
笑いたくなる気持ちも解るけど、あまり大声を出すと。
俺の心配通りに、メーチさんは館内で騒いだことを部下の女性に叱られてしまった。




