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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第7章
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第43話 俺は食後の会話に耳を傾ける

 ダミアンさんから『ねこのいたずら』を受け取ったメーチさんが、パラパラとその本の頁を捲っている。


「う~ん。この本がアーベントの直筆とは言えんかな。まあ代筆してもらった可能性や、この本が複製品である可能性は否定出来ないが」


 最後の頁まで達したメーチさんが、もう一度頭から読み返しながら私見を述べる。


「その本は違うと思うよ」


 お腹を膨らまして仰向けに寝転んでいた姉さんが、本の内容を見ずに言葉を発する。


 なんで姉さんにそんなことが分かるの?


「その本からは他の本みたいに嫌な感じがしないもん。カエデとサクラが落ち着いて寝てるのもその証拠でしょ」


 確かにカエデ達は姉さんの腕を枕に大人しく眠っている。アーベントの著作だったら他の本と同様に反応するに違いに無い。


「だからその本は、さっきまで見ていた本とは違う物だと思うよ。じゃ、おやすみ」


 姉さんはそう言い残し、眼と口を閉じて眠る体勢に入った。


 でもあの本に挟まっていた紙切れからは同じような魔力を感じたんだよね。つまりアーベント著の本と紙切れはなにかしら関係が有るのではと考えられる。態々図書館の蔵書じゃない本にあの紙きれを挟んでいたんだから、完全にアーベントと無関係とは思えないような。


「ふむ、魔力の事は解らんが、言葉遣いの癖がアーベント著作とは少し違うと儂は感じるな。文字の書き方は似ているし、話の構成も似ているかもしれないが、アーベント特有の言葉遣いが失われている。児童書じゃから読みやすいように配慮したと言われたらそうかもしれんが、そこまでしてアーベントが児童書を書く理由も希薄。アーベントを真似ようとして作ったと考えた方が妥当じゃろうな。しかし良くその隊員はアーベント著作じゃないかと思ったのう。もう何十年もアーベント作品は世に出ていないというのに」


「警備隊一番の古株ですからね。本が好きで休日には必ず図書館に行っているそうですよ。多くの本を読んだ経験から、アーベント作に似ていると判断したようです。私の娘も見習ってもっと読書して欲しいもんですね」


「それで、この本はどうするのかね?まだ警備隊で保管しておくのかね?」


「そうですね、事件が解決するまでは。解決して持ち主が現れなければ、図書館に寄贈する事も有るかも知れませんが」


「図書館の蔵書が増える事は喜ばしい事じゃ。内容もまあまあ楽しめる物じゃったし、もしその本を持て余すようならいつでも預かるぞ」


 メーチさんとダミアンさんが会話をしている間、姉さん達は寝息を立てながら気持ちよさそうに眠っていた。




 ダミアンさんとメーチさんは暫く意見交換した後、ごちそうさまと言って仕事に戻った。


 眠っている姉さん達は母さんとアンナさんに任せて、俺はマリーと一緒に図書館に入る。


 偶には本を借りて帰ったらどうですかというマリーの言葉に従ったわけだが、さて、どの棚から探せばいいのやら。


「ゲオルグ様の興味が有る本を選べばいいんじゃないですか?」


 本に興味が有るか無いかと言われたら、無いんだけど。じっと座って本を読むのがあまり好きじゃないんだな。


「来年から学校に通うのに、そんな調子じゃローゼに負けますよ。学校の授業は剣術だけじゃないんですから」


 う~ん。


「そんなに悩むことですかねぇ。そういえば、ソゾンさんから貰ったドワーフ言語の資料はあっという間に読み終えてましたよね」


 まあ、あれは読んでいて楽しかったから。そうだ、ドワーフ言語の本は無いかな?


「どうですかねぇ。私は見た事が無いので、図書館の人に聞いてみましょうか」


 既に3冊ほど手に取っているマリーの背中を、俺は渋々追いかけた。




 係の人に教えてもらった棚にはドワーフ言語について書かれている本が4冊有った。しかしどの本も内容は薄く、ソゾンさんから教わった知識を上書き出来る内容では無かった。


「獣人族の秘技と同じで、ドワーフ言語の核心部分は門外不出ということですかね」


 最初は興味深げにドワーフ言語の本を読んでいたマリーも、今は少しがっかりしたような雰囲気で居る。


「私達は優秀な師匠を持てて幸運でしたね。私達が弟子入り出来たのは最初にソゾンさんに弟子したアリー様のお蔭ですが」


 今やマリーも簡単なドワーフ言語なら魔石に刻み込めるくらいにはなっているからな。今日何度か使った水筒にも、マリーが言語を刻んだ魔石が使われている。


 そういえばアーベントさんの本にもドワーフ言語が記されている本が有ったな。アーベントさんは誰から習ったんだろうね。


「さあ。案外メーチさんが言っていた通り、アーベントさんはドワーフ族だったかもしれませんね」


 ドワーフ族ねぇ。


 その可能性も否定出来ないなと思いつつ、俺はドワーフ言語の本を棚に戻した。

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