第40話 俺は集めた本の関連性を知る
「サクラ様は大丈夫ですか?」
図書館に入ると受付の傍の長椅子に座っていたマリーに声を掛けられた。マリーの右隣には黒猫と茶トラのぬいぐるみを両脇に抱えたカエデがちょこんと座り、左隣には複数の本が山積みにされている。
ねえさまっと声を上げ、長椅子を飛び降りて姉さんに駆け寄るカエデを見送りながらマリーが話を続ける。
「先程アンナさんに抱えられて図書館を出て行くサクラ様を見かけましたが」
そうなんだよ。父さんの不安通りにまた体調を崩しちゃってね。図書館の庭でゆっくりしていたんだ。アンナさんにはサクラを御手洗いに連れて行ってもらったんだよ。
「そうですか。もうゲオルグ様に御手洗いへ連れて行ってもらうのを恥ずかしいと感じる年頃ですか。いつの間にか大人になっているんですね」
一度も連れて行ったことは無いけどね。姉さんと一緒に燥いでいるカエデもそうなのかな。父さんにもこの事は伝えておこう。
「ところで、ゲオルグ様とサクラ様も館内で本を集めてましたか?」
マリーは左隣に積まれた本をポンポンと叩きながら話を変える。
「一番上から3冊が同じ本棚に固まって置いてあったんですけど」
上から3冊?
『心の闇と戦う為に』
『人族至上主義を提唱したのは誰か?』
『人族とエルフ族の確執。ドワーフ族との連携』
ああ、サクラが集めた本だな。3冊集めたところでサクラの様子がおかしくなったからとりあえず本棚に押し込んだんだよ。その本の山は、カエデが選んだの?
「そうですね。この前来た時にゲオルグ様と一緒に選んだ本だって言ってましたけど」
3冊から下を見ると、確かにどれもこれも見覚えのあるタイトルだった。
「なるほど、これがカエデが集めた本か。よくこんな魔力の痕跡を見つけられたね。流石我が妹」
カエデを抱き上げた姉さんが本の山を見ながらそう口にする。
魔力の痕跡?
「そうだね。闇魔法の、とは言わないけど、何となく嫌な気持ちになる魔力を感じるよ」
そんなの全く感じないけどな。マリーに視線を向けると、マリーも首を振って答える。
「カエデ、がんばった」
姉さんの腕の中でカエデは満面の笑みを浮かべる。
その様子を見ていたら答えは聞かなくても解るけど、カエデはこの本の山を見て気分悪くならないの?
「?」
俺の言葉の意味がよく解らなかったのか、カエデは首を傾げて悩んでいる。
ええっと、カエデは元気?
「うんっ、カエデはげんき」
そっか。カエデは強い子だね。
「これだけ1カ所に集まったら私もちょっとむかむかして来るから、サクラにはちょっと刺激が強すぎたのかもしれないね。カエデは元気で凄いね」
姉さんに褒められてカエデはとても喜んでいる。魔力に対する感受性とでも言えばいいんだろうか、そういうところも双子の2人は似ていないんだな。
「ゲオルグ様、私この本を集めていて気付いたんですけど、これらの本を書いているのは全て同じ著者ですよ」
え?そうなの?
詰まれた本の一番上に有った『心の闇と戦う為に』に目を落とす。本の表紙には著者の名前が小さく書かれている。
アーベント。
それが著者の名前だ。姓が書かれていないから貴族じゃないんだろうか。まあ本名じゃなくてペンネームの可能性はあるが。
その下の本も、更に下の本も。念の為全ての本を調べてみたが、全ての著者名はアーベントだった。
偶然?
カエデとサクラが著者名を見て棚から取り出したならともかく、姉さんが言ったように魔力の残差だけでこの本達を選んだのなら偶然じゃない。明らかにアーベントさんの著作が問題なんだ。
もしかして、紙切れが挟まっていた『ねこのいたずら』もそうだったりして。
「私もそう思って受付のお姉さんに聞いてみたんですけど、『ねこのいたずら』はこの図書館の蔵書じゃないから解らなくて。あの本も首飾りとかと一緒に警備隊の人が持っていてしまったらしいですよ」
そっか。まあ著者が同じだったとして、アーベントさんが事件関わっているかどうかは解らないけど。
姉さん、この本に残っている魔力と、猫の首飾りや本に挟まっていた紙切れから感じた魔力は、同じ人の魔力なのかな?
「同じ人の魔力かどうかわからないけど、同系統の魔力だと言うのは間違いないね。同系統だから、事件の日にカエデは色々な本棚から魔力を感じて迷ったんだと思うよ。サクラは一番強い魔力が込められていた本にすぐさま反応したみたいだけど」
「うん、いっぱいあった」
そうか。カエデは図書館中から感じる嫌な魔力の元を探していたんだな。だから、禁書の棚が有る部屋にも反応していたと。
「この本達も禁書にして棚に並べないようにしてもらわないと、サクラ様が安心して図書館に入れませんね」
確かにマリーの言う通りだね。図書館の蔵書であるこの本を俺達が勝手に処分したりすることは出来ないから、メーチさんにお願いしてみようか。
「呼んだか?」
俺が図書館館長の名を出した丁度その時、母さんと一緒にメーチさんが受付にやって来た。




