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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第7章
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第34話 俺はぬいぐるみと一緒に日光浴をする

 図書館から家に帰ると、普段通りに戻ったサクラが出迎えてくれた。


 サクラと一緒にマリーとエステルさんも。


 エステルさんは下校の送迎に来たアンナさんから話を聞き、サクラの容体を心配して家に来てくれたそうだ。体調によっては回復魔法も使用するつもりだったらしいが、エステルさんが魔法を使わなきゃいけない状況にならなくて良かった。でもサクラを気遣ってくれたエステルさんには感謝だ。


 背負われていた母さんやカエデを降ろして一息ついたところで、エステルさんは温室の管理も有るからと、アンナさんと一緒に村へ向かって飛んで行った。いつもなら姉さんも一緒に行くんだけど、今日は母さんが心配だからと屋敷に戻った。


 母さんは未だ眠ったままだが、脈も呼吸も安定している。


「ゲオルグ様。事件は解決して、いないみたいですね。その顔は」


 ベッドで眠る母さんを見つめる俺の表情を伺って、マリーが言葉の途中で意見を変える。


 はい、解決していません。南方伯が割り込んで来て、男の子達を連れて帰っちゃった。


「そうですか。解決していないのならまた起こるんですかね。サクラ様が怯える姿を見た身としては、もう二度と起こって欲しくないと思うのですが」


 カエデが持って帰った茶トラ猫のぬいぐるみに興味を示しているサクラを見ながら、マリーは心配そうに話していた。




 事件の翌朝、いつもより元気な声を出してラジオ体操をする母さんが居た。


 その母さんの両脇で、カエデとサクラも一生懸命体を動かしている。晴れ渡った空の下、まだ春先の冷たい風を身に受けながら、俺も、姉さんも、父さんも、皆で体を動かしている。


 皆がラジオ体操をする庭の片隅では、木製の小さな台に3体のぬいぐるみが乗って、日光を浴びながらこちらを見ている。


 ラジオ体操の時間よりも早く起きたカエデとサクラが、日の出前に目覚めていた母さんと一緒にぬいぐるみを洗ったらしい。サクラは白猫を、カエデは茶トラ猫を。黒猫は、残念ながら今日も洗われていない。折角黒猫から手を離す所まで行ったのに、カエデの中では黒猫は洗っちゃいけない物なんだとか。その理由はよく解らない。




「ゲオルグもマリーも、相変わらず体力無いね」


 ラジオ体操の後、いつもは村でエステルさんやクロエさんと走っている姉さんと久しぶりに一緒にマラソンをしたら、姉さんから軽く馬鹿にされた。


 相変らず姉さんの体力はずば抜けている。俺は必死の思いで姉さんの後ろにくっ付いて走った結果息を切らして庭の地面に倒れているのに、姉さんは多少汗をかいているだけで全く息を切らしていない。


 俺も日々努力しているんだが全く姉さんに適う気がしない。


 姉さん、まさか魔法を使ってズルしてるんじゃないの?


「にゃっはっは。まだまだ弟には負けんよ」


 アミーラの真似で笑われると更に不快度が高まるな。


「私は使ってないけど、マリーはどうだろうね」


 姉さんの指摘にマリーは肩を竦めて恍けている。マリーは使ってたの?


「じゃ、私は汗を流して来るから」


「あっ、私もご一緒します」


 ちょっとマリー、逃げるんじゃないよ。自分だけ魔法を使って狡いぞ。


「ゲオルグ様と2人で走る時は使っていませんよ。アリー様に魔法無しで付いて行くなんて私には無理です。ゲオルグ様は流石ですね、尊敬します」


 明らかに感情が籠っていない言葉を残してマリーは庭から屋敷に入って行った。


 はあ。もうなんでもいいや。暫くこのまま庭に寝転んでいよう。風呂から上がったらマリーが呼びに来るだろう。


 庭で仰向けに倒れている俺を、3体のぬいぐるみが台の上に仲良く並んでじっと見つめていた。




「にいさま。だいじょうぶ?」


 ぬいぐるみと一緒に日の光を全身で受けている俺に向かって、開け放った掃き出し窓からカエデが声を掛けて来る。


 カエデの隣では裸足のまま庭に降りようとしたサクラがメイドさんに止められていた。


 ちょっと疲れたけど大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。


「ねこさん、げんきになったかな」


 俺の心配をしていたはずのカエデが急に視線を動かす。庭の片隅で木の台に乗っている3体のぬいぐるみの方へ興味は移ったみたいだ。


 もう少し兄の心配をしてくれても良かったんだよ?


 カエデやサクラの代わりに庭に降りたメイドさんがぬいぐるみの湿り気を確認して、まだですねと2人に報告している。


 それを聞いた2人はがっかりしているようだ。


「おむかえくるかもしれないのに」


 南方伯の息子が茶トラ猫のぬいぐるみを取りに来た時に濡れていたら悲しむとでもカエデは考えているんだろうか。


 南方伯がここに来る事を許すとは思わないけど。しかもまだ早朝だぞ。こんな時間にやって来るなんて非常識な事はしないだろう。


「男爵家の息子は朝早くから庭で日光浴をするのが趣味なのか?」


 部下を引き連れていつのまにか家に入っていたダミアンさんがカエデ達の頭越しに声を掛けて来た。


 なぜかこんな非常識な時間にやって来てメイドさんに案内されている警備隊の人達に、早朝の日光浴は気持ちいいですよと俺は答えた。

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