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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第7章
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第33話 俺は家族と家路に就く

「私も母様が使う魔法を見たかったな。目を覚ましたら教えてくれるかな?」


 母さんを背負って歩く父さんを魔法で補助しながら、母さんが活躍した現場に居なかった事を姉さんが残念がっている。


「そうだな。でも今日は目を覚ましてもゆっくりしてもらおうな。明日でも明後日でも、生きてさえいたら時間はいっぱいあるんだから」


 父さんの言葉に、姉さんも今日は無理させないよと返している。


 父さんは背負っている母さんの呼吸や鼓動を背中で感じているんだろうな。母さんの力で生き抜けた男の子も、今は意識を取り戻しているだろうか。


「ゲオルグ様、重くは有りませんか?」


 父さん達の後ろについて歩く俺に、黒猫のぬいぐるみを抱えているアンナさんが声を掛けて来る。カエデを背負っている俺を気遣っての言葉だ。アンナさんの浮遊魔法で補助してもらっているから大丈夫だと答えた。


「にいさま、おなかすいた」


 そうだね。アンナさんが持って来てくれたクッキーを少し食べたけど、昼食を食べずにもうそろそろ夕食かと言う時間帯だ。クッキーだけじゃ足りないよな。


 俺の背中に居るカエデは空腹を訴えながらも、俺の肩の上から前に回した両手で茶トラ猫のぬいぐるみをしっかりと掴んでいる。


 南方伯はこのぬいぐるみを要らないと言って置いて帰った。このぬいぐるみは落し物、もしくは忘れ物として王都警備隊の皆さんに適切に対処してもらおうと思っていたんだが、カエデが頑として手放さなかった。自身の黒猫のぬいぐるみをアンナさんに渡してでも手放さなかったその行動に、じゃあ貰って帰ろうかと父さんが提案したんだ。




 南方伯達が出て行った後、俺達も家に帰る為に父さんがダミアンさんと交渉を始めた。


 帰る前にカエデが握り締めている紙切れを渡さなきゃいけなかったんだけど、カエデはまだ開かないと言って聞かなかった。


「この猫の首飾りをどうにかしたらいいんだろうな。総魔研の研究者達に確認して来る」


 カエデの抵抗を見たダミアンさんが首飾りを持って総魔研の人達の所へ行くと、猫の首飾りは何か小さな箱に入れられて、箱は厳重に封された。


「よく解らないが魔物の革で出来ていて魔力を多少遮断する素材で作られた箱らしい。あれに入っていたら、カエデ君も嫌な感じはしないんじゃないかね?」


 戻って来たダミアンさんがカエデに質問する。


「う~。うん、だいじょうぶ」


 ダミアンさんに向かってニカっと笑って答えたカエデに対して、うちの娘も小さい頃は素直だったなぁとダミアンさんは溢していた。


 じゃあカエデ、その手の中の物を皆に見せてくれない?


「うんっ」


 ずっと握りしめていたカエデが手を開くと、手汗でグシャグシャなった紙切れと、真っ赤になって腫れあがり、ところどころ皮膚が剥げかかっているカエデの手が目に入った。


「か、カエデ。その手は大丈夫か?痛くないのか?」


 カエデの真っ赤になった手を見て父さんが驚愕する。誰が見ても痛そうな右手だが、カエデは何を言われているのか解らないように首を傾げている。


「漸く手に入れた重要な証拠だが、これでは何が書いてあったのかはすぐには解らんな」


 カエデの掌から恐る恐る紙切れをつまみ上げたダミアンさんが顔を顰めている。手汗で濡れた紙は少し引っ張っただけで簡単に千切れそうなくらい脆くなってそうだ。


「そうじゃな。汗で随分と文字が滲んでしまっておるからな。しっかり乾かしたとしても全部は読めんじゃろうな」


「アンタ達ねえ。うちの娘がこんなに手を真っ赤にしているってのに、この手は何も気にならないのか。普通の紙を握っただけじゃ、こんな風にはならないだろうがっ」


 紙切れの事にしか気が向いていないダミアンさんとメーチさんに、父さんが怒りを向ける。2人は素直に謝罪してカエデへの感謝も言葉にしたが、父さんは怒りが収まらないようだ。


「うん。カエデ、よく頑張ったね。魔力が漏れ出ないように今までいっぱい頑張ったね」


 言い争う大人3人を放っておいて、姉さんがカエデの頭を撫でる。


 魔力が漏れ出ないように?


「そう、あの小さな紙切れから変な魔力を微かに感じる。あれは前にローザリンデ様に憑りついていたモノと似ている。さっきの猫の首飾りからも感じてたけど、カエデが手を開くまではあの紙の魔力は感じられなかった。カエデがその魔力を全部受け止めてたの。だから、カエデはよく頑張ったのよ」


「うん、カエデはわるいむしやっつけたっ」


「えらい。流石私の妹。帰ったらサクラも褒めてあげないとね」


 姉さんはそう言うとカエデの真っ赤に晴れた手を取って、小さく声で、回復魔法の言霊を使った。




 姉さんの回復魔法で手の皮膚が綺麗になったカエデは、しっかりと茶トラ猫のぬいぐるみを握っている。


 どうしても持って帰ると言って聞かなかったのは、新しいぬいぐるみが欲しかったんだろうか。欲しいのなら言ってくれれば、いつでも新しいぬいぐるみを用意したのにな。


「このねこさんはカエデのじゃない。サクラのでもない」


 背中のカエデがそう言って来る。


「むかえにくるまで、カエデがめんどうみるの」


 そっか。あの男の子のお迎えを待つのか。他の白猫や黒猫が一緒だったら茶トラ猫も寂しくないよな。


 あの子がいつか迎えに来るといいね。


 うんという返事と共に、ぐうという虫の鳴き声が帰って来た。

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