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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第7章
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第32話 俺は父親に似ていると馬鹿にされる

 そこまでだ、と言う声と共に現れた人物を見て、誰かが南方伯だと口にする。南方伯と呼ばれた男は後ろにぞろぞろと取り巻きを率いていた。


「それ以上私の身内に対して不当な捜査をするのは止めてもらおう。それ以上やるというのなら、君は現職を失う事になるだろうな」


「これはこれは南方伯様、王都にご滞在でしたか。現場まで態々お越し頂いてありがとうございます。私は王都警備隊市街地区で」


 一歩前に出たダミアンさんの言葉を南方伯が右手を前に突き出して制止する。


「すぐに失職する君の名前などに興味は無い。それから、そこの汚らしい医者と看護師と、横で倒れている女は邪魔だからすぐにどかせなさい。アデーレ、私が信頼する医者を連れて来たから、レオはもう大丈夫だ」


 南方伯の指示によって取り巻き達が動きだし、ニコルさんと看護師さんを男の子から無理矢理引き剝がす。倒れて動けない母さんにも手荒な行動に出ようとしたところで、メーチさんがこちらでやると立ち塞がり、係員に指示して運ばせた。ありがとうメーチさん。


「ふん、嫌な目つきをする小僧だな。私の嫌いな男にそっくりな目つきだ。目上の者に対する態度を教えてやろうか?」


 南方伯は母さんの近くに居た俺を見て喧嘩を売って来る。ははは、産まれた時からこの顔のなので、文句は父親に言って欲しいですね。


「そういうところも父親に似ているな。人をイラつかせるのが得意なところが。王都警備隊の某とやら、我が子の命を狙った犯人は既に図書館を出ているのではないかね。もしくは、図書館の人間だ。私の身内は被害者なのだから、これで帰らせてもらう」


 取り巻きの人達によって担架に乗せられている男の子を横目で確認しながら、南方伯はダミアンさんに話しかけている。


 どうやら南方伯は俺の父親が誰かは把握しているようだな。父さんの事を随分と嫌っているのは一瞬で理解した。


「しかしですね南方伯。それだとこの児童書が本棚に隠されていた理由が説明つかないんですよ。すでに図書館を出ているのなら持って帰ればいい。図書館の人間なら他に隠せる場所はいくらでも知っているでしょう。何より、こんな手の込んだやり方を選ぶ理由が無い」


「それは妻達も同じだろ。妻が我が子を狙う理由は無い。息子が産まれた時から傍にいるアレも一緒だ。犯人がここから逃げる前に手荷物検査で発覚するのを恐れて、適当な本棚に押し込んで逃げたと考える方が妥当だろう。もしくは、考えたくない事だが、息子が息を吹き返した時にもう一度本を開く為に、手近な棚に隠したんだろう。そうだった場合は犯人は図書館関係者だと思うがね」


 男の子に付き従い、母親の心を慰撫していた女性を、アレと言うか。あの子が産まれた時から一緒に居たと言うのに、その呼び名はどうなんだ?


「ふぅう。ではその線で、もう一度本日図書館に来館した人達を調べる事に致しましょう。因みにこの猫の首飾りですが、重要な証拠である可能性が高いのでこちらで調べさせて頂きますが、よろしいでしょうか?ご返却はいつになるか解りませんが」


 一度大きく深呼吸したダミアンさんが、男の子から取り外した首飾りを南方伯に見せる。


「構わん。なんなら返さなくても結構。どうせ戯れに与えた品だ。息子には剣か魔導書か、もっと身になる良い物を贈る事にしよう。おいっ、その猫の人形も置いて帰れ。これから息子はもっと厳しく教育していく事にする」


 自身の鞄と一緒に茶トラ猫のぬいぐるみを抱え上げた女性に向かって、南方伯が恫喝する。


「しかしこれは、レオ様が今最も気に入っているぬいぐるみで」


「駄目だ。南方伯家の後継者候補である息子にはそんなものは必要無い。そんな軟弱な物に現を抜かして剣も魔法も使えない屑のようになったら、貴様に責任が取れるのか?」


 南方伯の叱責を受けて、女性は抱えていたぬいぐるみを今まで男の子が臥せていた長椅子の上にそっと置いた。女性のその行動に、母親は悲しいやら悔しいやら、何とも言えない表情で反論出来ずにいた。


 剣も魔法も使えない屑って誰の事だろうね。


 俺は少なくとも剣は使えるから、俺の事じゃないよね、ハハハ。


「だめ、そのねこさんはあのこの」


 ぬいぐるみを置いて立ち去ろうとした女性に、カエデが駆け寄って声を掛ける。


 自身も黒猫のぬいぐるみを大切にしている。きっとあの男の子もとカエデは考えているんだろう。


「ふん。そんなにその人形が欲しければくれてやる。私の息子には不要な物だ。さあ、準備が出来たのなら帰るぞ」


 4人の男性が持つ担架に寝かされた男の子を一瞥した南方伯が帰宅しようとすると、また図書館の入口の方から、男性の大きな声が聞こえて来た。




「これはこれは南方伯。ご機嫌麗しゅう」


 姉さんとアンナさんを引き攣れてやって来た父さんは、南方伯の姿を確認してすぐに駆け寄った。


「馬鹿かお前は。大事な息子が襲われてご機嫌なわけがないだろう。少しは考えて発言したらどうだ」


 頭を下げる父さんに、南方伯が怒りをぶつける。


「ははは。御怒りはごもっとも。でも実は私も怒ってるんですよ。大事な妻が命を懸けて助けたのに、お礼の1つも言われていないのでね。もし妻に何かあったら、東方伯も一緒に動くことをお忘れなく」


「はっ。舅の力を借りないと妻の敵に喧嘩も売れないとは情けないな。偶には姑息な手を使わずに、自分の力だけで向かって来たらどうだ」


 父さんと南方伯が言い合っている間に、取り巻きの人達は男の子や母親達を連れ、警備隊の制止を振り切って外に出て行った。


 ずっと手放さずに持っていた黒猫のぬいぐるみをアンナさんに手渡して、長椅子に残された茶トラ猫のぬいぐるみをカエデは優しく抱き上げていた。

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