第5話 俺は新たな神に挨拶をする
「剣と魔法の世界、シュベルトマギーへようこそ」
世界移動に伴う浮遊感が収まって目を開けると、地球の神とはまた違う美人がそこに居た。
漆黒の三角帽子とマントを身に付け、手には杖が握られている。地球でよく見る魔女っ子スタイルだ。
帽子からはみ出している金髪が輝いて見える。
「あ、この格好?地球から来た人間に勧められたんだ。どうだ、似合ってるだろ」
「はい、とても良くお似合いです」
なんとなく鏡になった気分。アマちゃんと比べると気が強そうな神だ。
ああ、そんなに胸を張ると服のボタンが弾け飛びますよ。
それにしても地球の死者達は神に変な事を教え過ぎじゃ無いか?
ダジャレにコスプレ。地球っていうか日本だな。他の国の皆さん、ごめんなさい。日本には根っからの宣教師が沢山居るんです。
「じゃあ話を始めるぞ。この世界に住む生き物は、みな魔力を持っている。人に限らず、他の動物や植物もだ。もちろん君も魔力を持って生まれる。その魔力を利用して魔法を仕込む。君が怪我や病気を負った時に自動で治療する魔法だ。この魔法によって君の願いは果たされるだろう。話は理解出来たか?」
地球の神が言っていたIRSか。自動治癒魔法、ゲームでもよくあるやつだよな。
「それは永久に発動している魔法ですか?それって不老不死じゃないですか?逆に魔力を使い過ぎて早死にするってことはないですよね。俺は病院通いは嫌ですが、早死にするのも真っ平御免です」
「肉体の老化には対応できないから不老ではないし、脳や心臓が潰されたら回復が間に合わないかもしれないから不死でもない。君が死ぬまで永久に持続するが、君の回復に使った魔力は君の内部に戻る仕組みだから、魔力が枯渇する心配もない。そもそも魔法の使い過ぎで早死にすることはない」
的確な回答。 前持って用意していたんだろうか。
「IRSのことは分かりました。即死しないようにだけ注意します。他にも願いがあるんですが叶えられますか?」
「言うだけ言ってみな」
言葉理解やアイテムボックス、その他ラノベやゲームでよくある能力について聞いてみよう。
「この世界の人族が使う言語は1種類だ。エルフやドワーフといった他の種族も同じ言語だ。だから言葉は子供のうちに覚えるもので充分。欲しいなら付けてやるけど、動物と話せるようになるくらいしかメリットはないぞ。君の魔力を言語の方にも回すことになるから、自動治癒が完璧でなくなるのがデメリットだ」
うーん、動物と話せるのも面白そうだけど、デメリットが大きい気がする。
「後に、例えば魔法で、動物と会話することは出来ますか?」
「人族は無理じゃないかな。獣人の中には動物の気持ちがわかる奴もいるみたいだが」
獣人も居るのか。やっぱりもふもふなのかな。あー、実家のペット達を撫で回したくなった。怪我の後ペットと接する時間が増えたからか、すっかり動物好きになったな。
「この世界でのアイテムボックス類は、基本的に動かさない物に魔法をかけて設置する。箱とか箪笥とかそう言った収納家具が多いな。そこを起点として、別の魔法を使って鞄とか持ち運び可能な物と繋げるんだ。出入口の大きさが違うと出し入れ出来なくなるけどな」
アイテムボックスあるんだ。あると便利だよな。
「人科の中ではドワーフが得意としている魔法だ。家具を作る時に魔法を設置するんだ。ごく稀に道具無しでアイテムボックスを維持しようとする奴が現れるが、常に膨大な魔力を使うからな、出来ても小さな空間を作り出すだけだ。因みに、君にアイテムボックスを設置するなら結構大きな空間を作れるけど、それをやると自動治癒は無しだ」
自動治癒に使う魔力が大きいんだな。容量のほとんどを自動治癒に振り分けてる感じか。他の何かが欲しいなら、圧迫している容量を削減しないといけない、と。
「君がさっき言った他の能力だってそうだ。どれかを選ぶと自動治癒は得られなくなるぞ」
これが等価交換ってやつか。
「まあ多くの人間は前世がリセットされるんだ。知識や経験を有したまま生まれ変わるのは相当なメリットなんだぞ」
確かに。料理の知識や剣道の経験が生かせるかも。だったらもっと色々なことをやっておけば。いや動けなかったんだから無理だろ。
「後は出血大サービスで、困ったことがあったら相談に乗ってやるよ。地球の神から妹ちゃんの話を聞いたら、それも伝えてやる。それくらいで勘弁してくれないか?」
アフターケアをちゃんとやってくれるんだな。地球の神より話が分かる神だ。
「分かりました、それで手を打ちます。神さまと連絡したい時はどうしたらいいですか?アマちゃんとは連絡が取れますか?」
「アマちゃんって誰?彼女?」
あ、しまった。ぽろっと言っちゃった。
「地球の神さまのことです。アマチュアの神っぽかったんで、アマちゃんと勝手に名付けました。すみません」
「ははは、まあ良いんじゃないか。偶然にもあいつの名前にアマが含まれてるからな。今度会ったらそう呼んでやれよ。因みに私はマギーでいいぞ」
「そうですか、ありがとうございます」
よかった、許された。
「で、連絡手段だが、世界各地に私の教会があるからそこで祈ってくれ。手が空いてたら応答する。アマちゃんと話したいならその時に連絡を取ってみるよ。こっちからの連絡時はどんな時でも通話できるようにするからよろしく」
アマちゃん、広めないでくださいね。
「良い連絡をお待ちしています。では自動治癒とマギー様とのパイプライン、妹へのアフターケアでよろしくお願いします」
「了解だ。最期に1つ聞いてくれ。君の肉体はこの世界では一般レベルだ。前世の肉体よりも弱い。くれぐれも無理して即死しないように」
「肝に命じます」
「うむ。ではそろそろ時間だ。何もなければ目を瞑ってくれ。次に目が覚めた時、君は赤子としてこの世界に生まれ落ちているだろう。生活するには全く問題ない家柄だ、産まれてすぐ命の危険に晒されることもないだろう。安心してくれ」
「色々とありがとうございました。成長して動けるようになったら、必ず教会でお祈りします」
マギー様の姿を目に焼き付けて、眼を閉じる。深呼吸して気持ちを整理する。
「また会おう。君の新たな人生に幸多からんことを」
マギー様、祝福をありがとう。姉御肌の良い神だった。
移動が始まった。今度は下の方に吸い込まれる感じがする。
どんどん落下していく感覚に身を任せる。
しばらくすると意識は薄れていき、途絶えた。
新しい生活がようやく始まる。