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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第7章
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第23話 俺は前後の情報を纏める

 図書館内に女性の悲鳴が響き渡った時、俺は腕の中で暴れるカエデを大人しくさせようと必死だった。


「だめだっていったのに」


 そのカエデは悲鳴の発生と共に暴れるのを止め、がっくりと力を抜いて言葉を漏らす。


 ダメだって、さっき男の子が持っていた本が悲鳴の原因だって言うのか?


 俺は抱いていたカエデを床に降ろし、カエデと視線を合わせてどういう事なのかと質問した。


「うん。あのほんにむしがいた。あぶないむし」


 カエデは眉毛をへの字に傾け、小さな声で答えた。


 どうしてそんなことが分かるの?


「わかんない」


 わからない?


 何となく、直感でって事か?


 俺がカエデに確認している間に、図書館の係員数名が悲鳴の発生源に向かって行くのが視界に入った。


「でもあのほんは、いやだった」


 嫌だった、か。それもカエデの感覚的なものだろうか。


 以前姉さんがローザリンデ様を始めて見た時、その体の周りに魔力が渦巻いている、と他の人には感じられない異変を感じ取っていたけど、カエデのそれも魔力を感知したとかそういう事なのかな?


「まりょく?わかんない」


 そうか、解らないか。でもカエデが何かを感じたのは間違いないんだろうな。


 さて、これからどうする?


 俺達も悲鳴の下へと向かうか、マリー達と合流するか。


「やっとみつけました。ゲオルグ様、カエデ様。大丈夫ですか?」


 背後から掛けられた声に振り向くと、そこには白猫のぬいぐるみをギュッと抱えて俯いているサクラを抱きかかえたマリーが立っていた。


「悲鳴が聞こえたので慌てて探しに来たんです。大丈夫ですよね?」


 マリーの問い掛けに、俺達は大丈夫だと返答する。


「では私達は外に出ましょう。何か事件に巻き込まれたら、私達2人だけではカエデ様とサクラ様を護れるか解らないので」


 ちょっとまって。実はさっき、カエデが妙な事を言い出してね。


「その話は歩きながら聞きます。とりあえず少しでも現場から離れましょう」


 いつになく強引なマリーに背中を押される形で、俺達は出入り口に向かって移動を開始した。悲鳴の方を振り向きながら歩くカエデは、なんとなく悲しさを押し殺しているように見えた。




「なるほど。ゲオルグ様側の話は解りました。今度はこちらの話をしますね」


 俺達4人は今、図書館の受付の周りで待機して、こそこそと小声で話している。図書館に居た人達の多くも俺達と同様に出入り口周辺に集まって来ているから、あまり大きな声で会話する訳にはいかなかった。お昼前にもかからわず、結構な人が図書館に来ていたらしい。


 図書館側は出入り口を封鎖して、悲鳴の詳細が分かるまで中に居た人達を外に出さない構えのようだ。先程係員が1人外に出て行ったのは恐らく医者を呼びに行ったんだろう。


 悲鳴が起きた現場まで一度野次馬に行って来たらしい人達が、小さな男の子が倒れて意識が無いと噂しているのが漏れ聞こえた。間違いなく茶トラ猫のぬいぐるみを抱いていたあの子だろう。


 図書館側は今現在図書館内に居る人達の中に騒動を起こした犯人が居ると思って出入りを制限しているんだろうか。

 まあ混乱した人々が外に出て騒ぎが広がっても困るからな。人々に伝播する病気や呪いのような物だったら、図書館内に隔離する方が正解だろうし。


「カエデ様と違って、サクラ様はあまり本棚に近付きたくないと仰っていました。カエデ様が何かを感じ取って探し回っていたように、サクラ様も何かを感じ取っていたんです」


 そうか、サクラもか。何かを感じ取ったサクラが本棚を拒絶したのは、カエデとサクラの性格の違いかな。図書館に来るのを楽しみにしていたのに、嫌な思い出になっちゃったかな。


「特に絵本などが置いてある児童書の棚を嫌がっていました。そこには入館時に受付で出会った男の子達が居て本を選んでいました。サクラ様は棚に近寄らずに、そこはあぶないよ、と声を掛けたのですが、一緒に居た女性に苦情を言われたのでサクラ様を連れてその場を離れました」


 という事はカエデより先にサクラの方が異変の原因となる何かを正確に感じ取っていたのか。


「児童書の棚から移動した後、適当な本を見繕って長椅子に座りました。本当に適当に棚から取ったのでサクラ様には面白くない本だったと思いますが、本を見ているとサクラ様は徐々に落ち着いて行きました」


 そのサクラは今、カエデと手を繋いで俯きがちにじっとして居る。反対にカエデは、何か気になるものでもあるのか、少し緊張した様子で周囲をきょろきょろと見回していた。


「そして悲鳴が聞こえた時、サクラ様は『あぶないっていったのに』と言葉を漏らしました。それで私は何か良くないことが起こっていると察して、サクラ様を抱えてゲオルグ様を探しに行ったんです」


 そうか。流れは解った。ありがとう。2人の様子から、あの男の子が倒れる前に持っていた本が怪しいな。


 カエデもサクラも、よく異変に気が付いたね。よくやったよ。


 俺は腰を屈めてカエデ達と目線を合わせて2人を褒める。2人纏めて頭を撫でてやると、2人が漸く顔を綻ばせた。


 さて、じゃあこの話を図書館の人に伝えようか。男の子が倒れる前に持っていた本が怪しいと訴えないと、またその本で被害が出るかもしれない。


 受付で入館希望者と退館希望者の双方を堰き止めているお姉さんは忙しそうで、流石に話を聞いてもらえそうにない。誰か係の人で話を聞く余裕が有りそうな人を探さないと。


 俺はカエデを、マリーはサクラを連れて、人混みの中の移動を開始した。

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