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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第7章
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第22話 俺は本の虫を探す

 入館手続きを済ませて図書館の中に入ると、いきなりカエデが走り出そうとした。


 慌ててカエデを捕まえて、図書館の中は走ったり騒いだりしちゃダメだと説明する。


 初めて来た所に興奮しているのは解るし、さっきの男の子を探しに行きたいのも理解出来るが、規則を守らないと出入り禁止になるからね。


 俺の言葉を理解しているのか居ないのか、カエデはその小さな目をキラキラと輝かせている。


「ほんのむし、さがすの」


 だから私を止めないで、と言わんばかりにカエデは力強く前進しようとする。カエデの手をしっかりと握っているからその場から移動出来ていないが、あまりにもぐいぐいと引っ張るからカエデの肩関節が外れないかと心配になる。


「では私はサクラ様と一緒に本を探しますから、ゲオルグ様はカエデ様をお願いしますね」


「母さんはちょっと知り合いに挨拶して来るわ」


 あっ、ちょっと待って。1人でカエデを抑えるのは大変なんだけど。


 俺の制止は皆に届かず、3人は各々のやりたい事をやる為に散って行った。


 1人だけ俺に捕らえられて好きに動けないカエデは不満そうにこちらを見上げて来る。


 わかったわかった。一緒に本の虫を探しに行こうね。でも走ったり、大きな声を出しちゃダメだよ。


「うんっ」


 カエデが返して来た全力の返事は図書館内に響き渡り、俺は自分の頬が引き攣っているのを感じた。




「にいさま、あれとって」


 カエデが精一杯背伸びをして本棚の上の方を指差している。俺は何度か間違えて違うと言われながら、カエデが指示した本を手に取った。あれと指差しだけじゃ一発で目当ての本を取るのは無理だからそんなに怒らないで欲しいな。


 手に取った本は、『辺境伯史』という短い表題の割に分厚い本だった。タイトルからすると東西南北4つの辺境伯の歴史が纏められているんだろうな。


 俺は本を持って屈み、カエデの目線に合わせてパラパラと本を捲る。もうこれで3冊目だから慣れたもんだ。


「う~ん。ちがう?」


 もういいと言うカエデの言葉を聞いて俺はその本をそっと棚に戻す。カエデは本の虫を探しているらしいが、本当にそんなものが有るんだろうか。マリーが船でサクラに言った話が聞こえていたのか、それともサクラがカエデに教えたのか。どちらにしろマリーが変な事を言うから俺はカエデに振り回されているんだ。後で絶対に文句を言ってやる。


「にいさま、つぎいこ」


 はいはい。次ね。


 カエデは俺の注意をきちんと理解してくれたようで、1人で走り出したりせずに俺の動きを待ってくれている。単純に俺が居ないと棚の上の方の本が取れないから離れない、というだけかもしれないが。


 カエデが飽きるまで今日はずっとこんな感じなんだろうなと腹をくくって、俺は手を繋いだカエデの誘導に従って別の棚へと向かって行った。




『鉱山での効率的な働き方』

『心の闇と戦う為に』

『奴隷と奴隷解放戦争』

『人族至上主義を提唱したのは誰か?』




 う~ん。どうしてカエデはこんな本ばかりを選ぶんだろう。パラパラと捲るだけで内容をしっかりとは見ていないが、題名からして全く興味が引かれない本だ。俺はもっと楽しく笑える本が良い。


 つぎはあっちに、とカエデは迷うことなく俺を連れ回す。知り合いに会いに行くと言っていた母さんの姿は見えないが、マリーとサクラは既に本を選び終え、長椅子に座って読書を開始している。サクラが1人で読めるような本が有って良かったな。


「にいさま、ここ」


 カエデが立ち止まって指差したところは、俺が昔立ち入った事が有る図書館の一室、禁書に指定された本が保管されている部屋だった。


 しかし今は扉がしっかりと閉められていて中に入る事は出来ない。


 一応ドアノブを回してみるが、当然鍵がかかっていて開くことは無かった。


 ごめんカエデ。ここは入れないみたい。


「じゃあ、つぎ」


 もうちょっと粘るかと思ったけど、意外な程にあっさりと引いたな。


 カエデは既に扉の向こうには興味を失ったようで、周囲をきょろきょろと見回して次の目標を探している。


「いた」


 くるくると動かしていた首を止め、一点を見つめているカエデの視線の先には、先程受付で出会った男の子が居た。




 男の子は一緒に居た女性2人と共に、図書館に設置されている長椅子に腰掛けて、手に持った本を開こうとしていた。


「それ、だめっ」


 離れた位置から近づきながらカエデが発した大きな声は、男の子の耳にしっかりと届いたようで、本を開こうとする動きを止めた。


「それだめ、あぶないむしがいる」


 男の子が持っている本を取り上げるんじゃないかという勢いでぐいぐいと男の子に近付くカエデを、俺は男の子と接触出来ない距離でしっかりと押さえつける。


「なんですか急に。それ以上近寄ると係の人を呼びますよ」


 男の子を挟んで座る女性の片方が、こちらに忠告を投げかける。そりゃそうだ、知らない人に急に声を掛けられたら身構えもする。


 男の子はカエデが持つ黒猫のぬいぐるみに反応したのか椅子を降りて近寄ろうとしていたが、横に座るもう1人の女性に止められていた。受付で出会った時に男の子が持っていた茶トラ猫のぬいぐるみは、その女性がしっかりと抱えている。


「そのほんはだめ。あけないで」


 ちょっとカエデ、あの本はもう人の手に渡ってるんだから諦めて他の本を探しに行こう。


 俺を睨まない睨まない。さ、行くよ。


 ダメなのにと駄々を捏ねるカエデを抱え上げ、お騒がせしてすみませんでしたと頭を下げた俺は、くるっと180度向きを変えてその場を立ち去った。




 腕の中で暴れるカエデを宥めながら、とりあえずマリー達と合流しようかと考えていたその時、図書館内に女性の悲鳴が響き渡った。

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