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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第7章
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第19話 俺は父親の表情に注目する

 総魔研からやって来た使いの人達との話し合いで疲弊した父さんは、カエデとサクラが一生懸命夕食を食べる姿を眺めながら、1人で酒を飲んでニマニマしている。


 家族じゃなきゃ完全に通報される危ない人だ。カエデ達が可愛いのは賛成するけど、他所の子にはその顔を向けないで欲しい。


 スプーンやフォークを使い慣れて食事をぽろぽろ溢すことが少なくなってきたカエデ達は、お昼寝から目覚めた後、母さんと一緒に高速船で王都へ戻る予定だった。


 それを父さんが全力で食い止め、3人はもう一晩村に留まって明日の朝の船で帰る事になった。


 夕食を食べ終わったらカエデ達と遊ぶんだと父さんは意気込んでいる。それで父さんの荒んだ心が癒されるのならそれもいいだろうが、昼寝で力を蓄えたカエデ達は元気いっぱいだからな。癒される以上に疲労を重ねそうで心配だ。




 俺の心配も虚しく、カエデ達は父さんと遊ぶことを選択しなかった。あの手この手で2人の気を引こうとした父さんだったが、頑固な2人は首を縦に振らなかった。


 父さんの誘いを袖にした2人は姉さんと遊ぶことを選択した。普段王都で生活している2人は、エステルさん達と村で過ごす姉さんと長時間一緒に過ごす機会は少ないからな。


 そして俺は、2人にフラれた父さんから昼間の話を聞く為に執務室で対面している。ちょっとだけ気落ちした様子の父さんを少しだけ可哀想に思いながら。


「ゲオルグもアリーから話を聞いたかもしれないが、魔力検査で力を見せたロジーの噂が王都で広まっているらしい」


 噂の話は聞いている。南方伯が噂を流しているんじゃないかと思ってるんだけど。


「俺もそう思う。魔力検査でクヴェレの姓を名乗っていたロジーが南方伯の娘だと、観客が認識出来るはずがない。ギルド職員がそう言った噂を流す理由も解らないしな」


 クヴェルというのはローザリンデ様の旧性。王都から南東に馬車で数日行ったところにモーアと言う街があり、その街周辺の領地を治めるモーア侯爵の姓だ。因みに南方伯の姓はフェリスだから、聞き間違える事は多分無いよね。


「まあその噂話は置いといて。総魔研からの使いの内容は、慰労会の話だ。毎年魔力検査の後に王城で慰労会を開いて、入賞者に対して国王直々に賞賛の言葉を贈るのはゲオルグも覚えているだろ?」


 そうだね。マリーが魔力検査2位になったから、俺もマリーにくっ付いて慰労会に参加したし。その時の1位がプフラオメ王子、3位がローズさんだった。


「その慰労会に、ロジーも参加して欲しいと言う話だった」


 ん?ロジーちゃんだけ?


 確かにロジーちゃんは魔力賞を貰ったから参加する資格は有るけど、態々参加を依頼しに来るほどの事かな。それに、村には総合3位になった女の子や創見賞を貰った男の子も居るんだけど。


「もちろん他の2人も一緒にという事だったが、向こうさんが重要視しているのはロジーだけだった。そしてロジーがフェリスの姓を名乗って参加するようにと要求して来た。つまり南方伯の娘として、という事だな」


 ああ、なるほど。捨てた娘が優秀だったと気付いて、慌てて触手を伸ばして来たという事か。やっぱりと言うか案の定と言うか、分かり易い人だな。


「そうだな。南方伯は個人の武勇は優れているんだが、細かな策謀を巡らすのは苦手な方だ。今回も総魔研に対して強引な圧力を掛けたんだろ。息子を大事にするあまり捨てた娘を自分の娘として利用したいのなら、もっと周りに根回しするべきだったな」


 利用って、ロジーちゃんがフェリスの姓を使う事がそんなに重要?


「大事だぞ。慰労会は親にとって派閥の勢力を強める絶好の機会だからな。ゲオルグが参加した慰労会にも、子供以上に大人の数が多かっただろ?」


 表彰されるのは上位3人だけだったけど、他にも何人か子供が居たのは記憶している。ローズさんが姉さんに連れられて俺達と一緒に食事した事も、ローズさんの付き添いで来た南方伯が娘を放っておいて他の大人達とずっと話していた事も。


「それに優秀な娘は政略結婚に使える。魔力検査で表彰されるような子なら手元に置いておきたいと思う貴族は多いだろうな。因みに俺は、アリーはもう仕方ないとして、カエデとサクラを嫁にやるつもりはないからな」


 あんなに2人に邪険にされても、娘を愛する気持ちがぶれないなんて尊敬するよ。


「南方伯の顔を立てて、フェリスの姓で王城の魔力検査に参加していいかと確認したんだけどな。それを拒否しておいて、今更南方伯家の姓で慰労会に参加しろと言うのは虫が良い話だ。しかも交渉は総魔研の連中に丸投げ。領主と言うより一人の親として、無いな」


 総魔研との交渉が決裂したのは応接室から出て来たローザリンデ様の笑顔で何となく察したけど、そういう事だよね?


「そうだな。ロジーの事を俺1人では判断出来ないからローザリンデ様を呼んでもらったんだが、総魔研の連中を嬉々として論破していたよ。あんなに楽しそうなローザリンデ様は始めて見た」


 そ、そうなんだ。ローザリンデ様の優しい母という印象が崩れそうだから、現場に居なくて良かった。


「まあ娘を思う優しい母というのは間違っていないんだろうがな。話し合いの結果、ローザリンデ様の希望通りにフェリス姓でと言う話は断った。基本的には慰労会に参加しないという方針だが、もしロジーが慰労会に参加したいというのなら、クヴェレ姓で行くつもりだ」


 なるほど。どちらにしても南方伯に睨まれちゃうね。


「まあ、俺は昔から南方伯には嫌われてるから今更どうでもいいんだが、南方伯と領地が近いモーア侯爵にも影響する話なのが申し訳なくてな。一応南方伯から断られた後、侯爵の姓を使うと魔力検査前に連絡しているが、慰労会に参加するかどうか決まったらまた使いを送らないとな」


 はぁっと大きく溜息を付いた父さんが、面倒な話になって来たと小さく溢す。


 もし南方伯が文句を言って来たらどうなるのかな。貴族間の争いには王家が仲裁したりしてくれるんだろうか。


「よっぽどの事が無い限り当事者同士で解決しろと言われるだろうな。まあこの件に関しては分が悪いのは向こうだから素直に諦めてくれると助かるんだが、強引で策謀を巡らせるのは苦手だが、諦めは悪い人なんだよな」


 父さんは面倒だ面倒だと言っているが、いい気味だと思っているのか、その口角が少しだけ上がったように見えた。

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