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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第7章
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第12話 俺はローゼマリーの真意を想像する

『だからあの時肉を食っておけば良かったんだ。味はまあまあだったが、腹の足しにはなった。腹が膨れたら心が落ち着く。心を落ち着けていれば、魔力量を間違える事も無かった。練習では常に6発は使用出来ていたのに、4発程度で倒れるとは。師匠として恥ずかしいぞ』


「はは、ごめんね」


 枕元でぐちぐちぐちぐちと不満を口にするアミーラに、ベットの上で目覚めたばかりのロジーちゃんは無理矢理に笑顔を作って力無く謝罪する。


 はいはい、煩く愚痴を言うのはもうそれくらいにして。魔力の使い過ぎで倒れたロジーちゃんはまだ本調子じゃないんだからな。師匠なら弟子の身体をまず労わってやれよ。


『ふんっ。私を黙らせたかったら美味い肉で口を塞ぐんだな』


 2人の間に割って入ろうとした俺に、アミーラは理不尽な要求を突き付けて来る。どんな時でもぶれない奴だ。このふてぶてしさを弟子であるロジーちゃんも見習うべきだな。


「もうっ、ゲオルグもアミーラも煩い。2人共この部屋から出て行きなさい」


 さっきまでロジーちゃんの回復を喜んでいたローズさんが声を荒げ、憤怒の表情を見せて来る。


 俺はローズさんとロジーちゃんに向かって頭を下げる。アミーラもほら、なんで私が謝らないといけなんだとか言わないで、ここは1つ穏便に。




 ロジーちゃんは昨日の魔力検査の最中、魔力を使い切って意識を失った。


 雷撃魔法を使う時に込める魔力量を間違えたんだとアミーラは主張している。言霊なら消費する魔力量は一定で計算しやすいんだが、ロジーちゃんとアミーラは言霊に頼らない方法を選択した。


 言霊無しに両手から力強い雷撃を放つロジーちゃんは見事だったが、土塊は4つ中3つしか壊していなかったから多分技能試験は失格になってるはずだ。


 でもロジーちゃんは、魔法を4発放ったんだ。


 土塊が松明で照らされた範囲から逃げ出したから、その位置を把握する為に1発を無駄に使ってしまった。それが無かったら、4つの土塊を難なく破壊出来たはずなのに。


 検査官も態と検査を妨害しようとして土塊を逃がしたんじゃないとは思うが、一応父さんの方から冒険者ギルドへ苦情を伝えてもらった。それで結果が変わるかは解らないが、何もせずに結果を受け入れる事は俺にはちょっと出来なかった。




 倒れたロジーちゃんはローズさんに背負われて男爵邸に戻った。


 背負う前にロジーちゃんの顔を覗き込んで、おつかれさま、と言ったローズさんはなんとも言えない表情をしていた。


 自分達を捨てた南方伯を見返したかった。そんな自分の想いをロジーちゃんに託していた。ロジーちゃんが魔力検査で1位になれば、南方伯の鼻を明かせると。


 まさかね。


 きっと俺の思い過ごしだ。直接そんな事をローズさんに確認する勇気は俺には無いから本心は解らないけど。




 一晩ぐっすり眠って回復したロジーちゃんは男爵家で昼食を食べた後、家族や一緒に検査を受けた子供達と共に高速船に乗って村へ帰って行った。


 父さんが冒険者ギルドにクレームを入れたから、もしかしたら再検査になるかもしれない。だからロジーちゃんはもう少し王都に留まっても良かったと思うが、顔を合わせる度に肉肉と行って来るアミーラが居なくなってほっとしている部分もある。


 それにアミーラが長く男爵邸に居ると、カエデ達が興奮するからな。昨晩は既に2人が眠っていたから良かったけど、今朝は2人を抑えるのに苦労させられた。猫のぬいぐるみが有るから、以前よりはましだったけど。




「静かになりましたね」


 ロジーちゃん達を一緒に見送って家に戻ったマリーが、午前中の喧騒が嘘のように静まり返った男爵邸を見回してそう口にする。


 魔力検査に来た子供達とその家族皆が男爵邸に泊まったから流石に騒がしかったね。ロジーちゃんが眠っている間は静かにしていたけど、今朝ロジーちゃんが目覚めてからは堰を切ったように皆が話し始めた。感想、反省、後悔、決意、色々な感情が入り混じった会話をしながら皆が盛り上がっていた。


 アミーラを見つけたカエデ達が一番騒いでいたような気もするけど。


「村の子供達以外にも面白い魔法を使う子が何人か居たそうですよ。私達も残って観ていればよかったですね」


 いや、昨日は4人の子達を観るだけで疲れちゃったからな。いい加減検査でどんな魔法を使うのか俺に内緒にするのを止めて欲しい。事前に知っていたら心の準備が出来るから。


 事前に教えてくれないと言うのなら、来年は観に行かないようにしようかな。


「皆ゲオルグ様を楽しませたいんですよ。それに来年は、ゲオルグ様が誕生祭で初めて祝福した子供達が検査を受けるんですよ。2歳からどれくらい成長したか、楽しみじゃないんですか?」


 別に今まで会って無かったわけじゃないし、そこまで成長を驚く事は無いでしょ。


「どうですかねぇ。ゲオルグ様の事だから、あの小さかった子供達がこんなに立派になって、って涙ぐむんじゃないんですか?」


 ぐまないよ。まあもし涙ぐむ事が有るとしたらカエデ達の魔力検査だな。


 魔力検査より先に2人は9月の誕生祭を迎えるけど、貴族家の子は王城で国王に謁見だから様子を見に行けないのが残念だ。アミーラを追い掛け回していた2人が、ちゃんと国王と受け答え出来るか心配だよ。


「ゲオルグ様の妹君ですから、心配ですよね」


 そこは、俺の妹だから絶対に大丈夫ですよって言うところじゃないのか。


「妹を大切に思っているのはローゼと同じですね。昨日の夜もローゼはほとんど寝てないんですよ。まあそれに付き合って私も寝てないんですけど」


 大きな欠伸をしたマリーは、珍しく昼寝をすると言って自室に入って行った。


 マリーのお兄さん達だってマリーの事を大事に思ってるんじゃないの?


 お兄さんへの怒りがこちらに飛び火する事を恐れて、俺はそれを口に出来なかった。

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