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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第7章
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第11話 俺はロジーちゃんを応援する

『ゲオルグ、あの屋台から美味そうな匂いがするぞ。食べさせろ』


 アミーラがくんくんと鼻を鳴らし、路地に並ぶ屋台の1つに近づいて行こうとする。

 ロジーちゃんの検査時刻が近づいて来た為、俺達はロジーちゃん達と一緒に冒険者ギルドへやって来た。冒険者ギルド及び競技場の周囲には、夕方になってもまだ多くの屋台が軒を連ねている。


 尻尾をぶんぶんと振って上機嫌な所悪いけど、俺は買わないからね。アミーラに奢るお金は無いんだから。


『じゃあ勝手に食べるとするか』


 別に金など払わなくても良いと、アミーラは身を低くして店員さんの隙を窺っている。


 ちょ、ちょっと待って。なに野良猫みたいな事を言ってるんだ。ロジーちゃんの試験を観たいのなら大人しくしてろよ。


『大人しくして欲しいのなら、私の腹を満たす事だな。何の肉か解らんが、美味そうな匂いじゃないか。ほれほれ、早くしないと飛び掛かるぞ』


 もう、なんで俺なんだよ。仕方ない、父さん、お小遣いを前借りさせてください。


『ほれ、ゲオルグの奢りだから、ロジーも食っておけ。緊張するのも解るが、食べないと力が出ないぞ』


「わ、私は別にお腹空いてなんか」


 ぐうぅぅ。


 アミーラの言葉を否定したロジーちゃんの腹部から、可愛い虫の鳴き声が聞こえた。


 これは何も言わずに黙っておいた方がいいんだろうな。女の子には指摘しちゃダメなやつだ。


 アミーラにからかわれているロジーちゃんを横目に、俺は父さんから借金して、串に刺さって焼かれている肉を取り合えず人数分注文した。




『匂いは良かったんだが、味はまあまあだったな。私はもっと薄味の方が好きだぞ』


 3本分食べておいて何を偉そうに。そんなこと言うなら自分の分だけ食べて、ロジーちゃんとローザ様の分は食べなきゃ良かっただろ。あのピリッと辛い味は俺は好きだったから、代わりに俺が食べてやったのに。


『例え味が好みで無かろうと、貰った肉を誰かに譲るなんて有り得ないんだぞ」


 はいはい、解った解った。お肉が大好きなアミーラさん、他の観客の迷惑になるから、大きな声で話すのは止めてくれ。


 俺達は手続きの為に冒険者ギルドへ向かったロジーちゃんとローザ様、そして父さんと別れて競技場の観客席に来ている。朝からずっと観戦していたと言う姉さん達とも合流した。


 ロジーちゃんは今日検査を受ける最後の組の更に順番が一番最後だから、登場までにはまだまだ時間が掛かる。ロジーちゃんの出番までにアミーラが煩くして、ギルド職員から出て行けと言われないようにじっとしてるんだぞ。




 遠く、ずっと西の向こうにある山々に日が半分ほど隠れた頃、漸くロジーちゃんの出番がやって来た。


 東の空はもう暗闇に包まれていて、競技場内にもその闇は覆いかぶさって来ている。暗くなってしまったからか、客席は随分と空席が目立っていた。


 競技場の中央には、どこから持って来たのか解らない古めかしい松明が4本、頭を真っ赤に燃やしながら立っている。火魔法でも使って明るくしていた方が便利だと思うんだけどな。


『随分と暗くなってしまったが、その方が目立つからロジーにとっては好都合だな』


 観客席の縁に座り、競技場の中央で待機しているロジーちゃんを見ながらアミーラはにゃははと笑っている。猫だから高いところから落ちても大丈夫かもしれないけど、落ちないように注意してくれよ。


 ロジーちゃんは四方にある松明の灯りに照らされて、競技場の中央で試験開始の合図を待っている。




 検査官の開始の合図と共に、ロジーちゃんの両手が青白い光を放ち始める。その光は一瞬のうちに消え去り、また別の光が現れる。何度も明滅を繰り返したのち、それはぼんやりとロジーちゃんの両手を包み込む光の塊となって固定された。


 その両手に青白い光を装備したロジーちゃんは、光に集まる虫のように、松明の上空をゆっくりと漂う1つの土塊に向かって右手を横に振るう。


 振るうと同時に光が右腕から飛び出し、一瞬のうちに土塊を破壊。続いて、左手の光を放ってもう1つの土塊も瞬く間に破壊した。

 発射から着弾までの速度が火魔法や土魔法とはけた違いに速い。土塊を操っていた検査官も、魔法が来ると解った瞬間に動き始めたはずだが、逃げる時間は与えられなかった。


 両手の光を失って暗闇に包まれたロジーちゃんは、もう一度両手に光を蓄え始める。どうやら光を溜めるのには幾分か時間が掛かるようだ。


 残った2つの土塊は、ロジーちゃんが力を溜めている間に松明の灯りから離れて闇に溶け込んだ。松明の揺れる炎から離れたら、まったくと言って良いほどその姿は見えなくなってしまった。


 その意地悪な検査官に対して、ロジーちゃんは再度蓄えた左手の光を上空に投げ放つ。


 放たれた光は空高く昇りながら、周囲にそのエネルギーを撒き散らす。


 撒き散らされたエネルギーは稲光となって周囲を一瞬だけ照らし、土塊の現在地を露わにする。


 姿が見つかってしまったらもう遅い。ロジーちゃんは右手の残った光を土塊にぶつけ、的確にそれを破壊する。


 残りの土塊は後1つ。あとはもう一度同じことをするだけだ。




 しかし競技場内に、その光は二度と現れなかった。

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