第13話 俺は自分の態度を反省する
秋が過ぎ、冬を迎えた。
誕生祭以来変わらない生活を送っている。
姉さんはたまにヴルツェルまで遊びに行き、マリーは魔法の練習に余念がない。
俺は相変わらず魔法が使えない。体は順調に大きくなっているんだけどな。
もうとっくに図書館にある魔法関連の本は読みつくした。
言霊も試してみた。氷結だけじゃなく、姉さんに各属性の言霊を考えてもらったけど意味はなかった。
父さんや母さんに相談してみたけど、焦る必要はないと言うばかり。
焦るよ。マリーにも置いて行かれてるのに。
なかなか魔法が使えない俺を見て、ジークさんが剣を教えようとするのもちょっとめんどくさい。
剣は嫌なんだよ、前世のトラウマが呼び起される。それに3歳が重たい剣を振ったら肩を壊すよ。
でも部屋に籠ってるのもなんだから、庭で運動している。剣は振らないから、健康のために体操してランニングするだけだから。
ジークさんの視線から逃げ回っていたら新年が過ぎ、2月に姉さんは7歳を迎えた。
新たな年に姉さんは新たな目標を立てたようだ。
「今年は草木魔法を覚えたい」
「そう」
俺は小さな炎も出せないけどな。いつになったら魔法が使えるんだ。
「何かいい方法は無いかな」
「無いよ」
はぁ、魔法を覚えるいい方法があるなら俺が教えて欲しい。
「元気ないね、怒ってる?ごめんね」
俯いている俺の顔を覗き込んでくる。別に姉さんに謝ってもらうことじゃ。
ああっもう、だめだ。ごめん。
俺は自分が全然魔法が使えなくてむしゃくしゃしてた。
姉さんやマリーがどんどん魔法を覚えていくから羨ましかった。
姉さんにあたってごめん。
顔を上げると、もう姉さんは居なくなってた。
謝る機会を逃してしまった。どうしよう、追いかける?
うん、追いかけよう。早めに謝った方がいいよね。
家の中を探したけど姉さんは居なかった。
アンナさんも見当たらなかったから、また外に行ったんだろう。
相変わらず行動的だ。夕飯には帰って来るのかな。
時間が経てば経つほど謝りにくくなるんだけど。
ああ、なんか前世の小学生の頃を思い出すな。幼馴染と喧嘩して1か月くらい口を利かないことがあったんだ。
あの時の喧嘩は俺が悪かったんだが、素直に謝れずズルズルと延びてしまった。
その年はちょっと伸び悩んでいて全国大会で2位になってしまった。
悔しくて悔しくて更に剣道漬けの毎日になった。
でも俺が真剣に剣道をやっている横で、へらへらして笑いながら剣を振ってる幼馴染が居た。
仲直りした後に聞いたら別に巫山戯てヘラヘラしてる訳じゃなくて、どんな事にも楽しんで取り組むという信条で日々暮らしているだけだった。
でも俺は、イラっとしたんだ。全国大会にも行けないくせに、と思ってしまった。
きつい言葉を言って喧嘩になった。完全に俺が悪いが、直ぐには謝れなかった。
仲直りのきっかけはもう一人の幼馴染に怒られたからだ。
真面目な性格で学級委員長をやるような女の子じゃなく、気の強さでみんなを引っ張っていく学級委員長だった。
クラス内の雰囲気が悪いからいい加減仲直りしろと怒られ、クラスメイトの前で2人して正座させられたんだ。
喧嘩相手は正座させられたことに怒っていたけど、俺は内心ほっとしていた。
やっと謝れるって。
それからはまた今迄通り一緒に過ごすようになった。
そいつとは俺が死ぬまで友達付き合いは続いた。俺が学校に行けなくなっても定期的に家に遊びに来ていた。
学級委員長も、俺が倒れたころには中学の生徒会長になっていたけど、よく来てくれた。
妹を含めて4人でよく遊んだ。2人が習ってきた授業を教えてくれた。お礼にご飯を作るととても喜んでくれた。
俺は2人が大好きだった。
俺が死んでからもうすぐ4年。
もし時間の流れが同じなら、あいつらは高校を卒業してるな。
大学に通ってるのかな、働いているのかな。好きな人は出来たかな。まさかあの二人が付き合ってるってことはないよな。そうなると素直に祝福出来ないな。
昔のことを思い出すとちょっと泣きそうになる。
どうせしばらく姉さんは帰って来ないんだ。寝よ寝よ。
帰って来たら謝ろう。
「ね、昼間から寝てるよ。やっぱりどこか悪いんだよ」
姉さんの声で目が覚めた。俺の顔を覗き込んでいた姉さんと目が合う。
「大丈夫?ご飯食べた?ニコルを連れてきたからもう大丈夫だよ」
え、ニコルさん?
ベットから起き上がると姉さんの他に、アンナさんとニコルさんがいた。
ニコルさんはマリーが病気になった時によくお世話になっている人だ。川で溺れた時に俺もお世話になったけど、なんで姉さんはニコルさんを呼んできたんだろう。
「ゲオルグ様の元気が無いから病気なんじゃないかって、アリー様が心配して呼びに行ったんですよ。ゲオルグ様、どこか痛いところ辛いところはありますか?」
「大丈夫です。ちょっと眠ってスッキリしました」
体調が悪かったってことにしよう。姉さんにイラッとしていたとか言える状況じゃない。
「そう、よかった。じゃあアンナ、プリンを作りに行こう。病気の後は食べやすいプリンがいいよね」
そんなことないと思うけど。暖かいスープをお願いします。
スープも作りますね、とアンナさんも苦笑して姉さんについて行った。ありがとうございます。
1人部屋に残ったニコルさんがこっちを見ている。
「お久しぶりですニコルさん。態々来ていただいてありがとうございます。お騒がせしてすみません。俺はもう大丈夫です」
俺の謝罪を聞いたニコルさんは、室内の椅子を持ってきてベットの近くに腰かけた。
俺の顔をよく診てくる。姉さんみたいに簡単には信じてくれないみたいだ。
「大丈夫そうな顔に見えないけど、そう言うなら君のことを信じよう。ところで話は変わるんだが、態々ここまで来た私の話を聞いてもらえるかな?転生者君」
え、なんでニコルさんが転生のことを?
まあ別に隠してきたわけじゃないけど。どうやって分かったのか気になるな。




