第7話 俺は魔力検査の壮行会に参加する
3月6日、待てど暮らせど総魔研からの連絡は来なかった。
翌朝早く、父さんは事情確認の為に王都へ飛んで行った。
未だ魔力検査を行う時間が確定していないロジーちゃんは、不安そうな態度も見せず、アミーラと最後の調整に励んでいる。姉のローズさんの方がなんだかそわそわして落ち着かない様子だった。
その日の夕方、父さんはぐったりと疲れた様子で帰って来た。何か有ったのかと問いかけると、宿の食堂で話すからローザリンデ様達を呼んで来てくれ、と返された。
お酒か。お酒が父さんの疲労を癒してくれるのか。あんまり毎日飲んでたら、流石にマルテに止められると思うんだけど。
しかし肩を落としてとぼとぼと自室に向かっていく父さんの背中を見て、俺は酒を飲むなとは言えなかった。
「明後日の魔力検査での健闘を祈って、かんぱいっ」
精一杯明るく振る舞っている父さんの掛け声に合わせて、宿の食堂に集まった人達がコップを高く掲げる。お酒やジュース、お茶など皆思い思いの飲み物で乾杯に参加した。
父さんの指示を受けてローザリンデ様達家族を呼びに行くと、折角だから他の皆も呼びましょうという事になり、参加希望者を募って壮行会を行う事になった。明日は早く寝て体調を整えなきゃいけないからやるなら今日しかないという事で、エマさんのお父さんやマルテ達に料理を頑張って貰った。
ロジーちゃんと一緒に検査を受ける4人の子供達も家族と一緒に参加している。どの子も自信に満ちた良い表情をしている。もちろん、ロジーちゃんも。
「さて、盛り上がっている所に水を差すようだが、ここで一つ皆に報告が有る。ロジーは明後日、王都の冒険者ギルドで魔力検査を受ける事になった。急遽冒険者ギルドに頼み込んで入れてもらったから、試験を行うのは一番最後だ。他の子達と同じ時間帯にと頼んだんだがな。力及ばずで申し訳ない」
皆の注目を集めて話し始めた父さんが、言葉の最後にロジーちゃんに向けて頭を下げる。
「いえ、私の為に骨を折って頂き、ありがとうございます。男爵様の苦労に報いる為に明後日の検査では全力を尽くして、私は必ず一位になります」
ロジーちゃんの力強い宣言に、他の4人の子供達が反発する。みんな、自分こそが一位になると声を上げている。やる気が有って大変よろしい。切磋琢磨出来る仲間が居るって素晴らしいよね。
『にゃっはっは。私と意志疎通出来ない時点で、魔力量の差は明らか。私と一緒に秘密の特訓を行ったロジーに敵は居ないぞ』
肉を食べる口を止めて、アミーラが自分の教え子の自慢をして来る。
自慢の教え子なのは解るけど、魔力検査の順位は魔力量だけで決まる訳じゃないからな。まだどうなるか解らないよ。
『試験の形式がどういうものなのかは、ローゼマリーから話を聞いている。だが、全く問題無いな。私も明後日見学に行くから、楽しみにしておくがいいぞ』
鼻息荒く語っているが、なんでこの猫は本人以上に自信満々なんだろうか。
アミーラにとっては冒険者ギルドでやることになって良かったな。王城だと猫がこっそり中に入るのは大変だろうから。
『この間の競技場と言うところでやるんだろ?なかなか広くていい所だったな。見渡す限り空が広がる環境は、ロジーにとっても有利に働くだろう』
結局、雷撃魔法を使うんだろ?
『さあな。それよりもゲオルグ。その唐揚げを私にもくれ。偶には違う肉も食べたいぞ』
機嫌良さそうに尻尾をぶんぶん振って、食べたい食べたいとアピールしてくる。
人の物を欲しがる前に、その皿の食べかけの肉を消費したらどうかな?
とういうか、猫に唐揚げってダメじゃないか?
玉ねぎは入っていないと思うが、多すぎる油が胃腸に良くないんじゃないだろうか。衣を外したら大丈夫かな?
『ばかもん。私をそこら辺の野良猫と一緒にするな。その程度の油で腹を壊したりはしない。常日頃ロジーから色々な物を食べさせられているからな』
食べさせられているって言い方が若干引っかかるが、そこまで言うなら唐揚げを1つあげるよ。その代わり、その皿の上をちゃんと食べ切ってからな。
俺の言葉を受けてあっという間に残っていた肉を食べ切ってしまったアミーラの皿に、俺は仕方なく、好物を分け与えてやった。
数時間の壮行会が終わって参加者の多くが帰宅した後、随分と酒を飲んで酔っ払った様子の父さんが、ローザリンデ様達を引き留めて話を始めた。
「今朝、王都へ行って総魔研の担当者からどうなっているのかと話を聞いた。ローザリンデ様の願い通り、南方伯の娘として魔力検査を受けられるように申請していたんだが、それを南方伯が拒絶したらしい。その理由を聞く為にあちらの領地まで飛んで行ったんだが、まったく取り合ってくれなかった。何も出来ず、力及ばずで申し訳ない」
申し訳ない申し訳ないと何度も頭を下げる父さんに、ローザリンデ様は大丈夫ですよと言葉を返す。
「王都の屋敷を出た時からこうなるだろうと思っていました。昨晩の内に、この子達にもこうなる可能性が有ると話をしています。私達はこれから、南方伯家とは関係無い一市民としてこの村で暮らして行きます。実家の侯爵家に戻るつもりも無いので、これからも娘共々よろしくお願いします。なので、様付けや敬語も止めて下さいね」
笑顔で優しく語りかけるローザリンデ様に、父さんは涙を流して謝り続けていた。




