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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第7章
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第3話 俺は妹2人にぬいぐるみを贈る

 カエデ達のご機嫌取り目的で作った2つのぬいぐるみ。


 完成したそれを手渡した時の2人の第一声は、これはねこさんじゃないっ、だった。


 カエデは手に持った黒猫を壁に向かって投げつけた。投げるのは良くないよと軽く説教をすると、眉間に皺を寄せて不満を表す。


 うん、可愛い。


 可愛いけど、今からダメな事はダメなんだと教えておかないとな。姉さん以上に自由奔放な子に育ったら、ちょっと大変だから。


「要らないのなら、お母さんが貰っちゃおうかしら」


 俺とカエデの遣り取りを黙って見ていた母さんが、壁の下に転がっていた黒猫をひょいと持ち上げる。


「ふわふらで凄く柔らかいわね。黄色い目も凄く綺麗。サクラが持っている白猫ちゃんは青い目なのね。サクラが要らないのなら、その子もお母さんが貰っちゃうけど?」


 母さんは右手で黒猫を大事そうに抱きかかえ、サクラの方に左手を差し出す。


 カエデと違ってぬいぐるみを投げ捨てなかったサクラは、その手に持った白猫に一度目を落とし、首を左右にふるふると振って意思表示をした。


「そう、サクラはその子が気に入ったのね。それならお兄ちゃんにありがとうって言わないとね」


 母さんにそう促されたサクラは、ありがとう、と言って小さな頭をちょこんと下げた。


 うんうん。サクラは賢い子だね。お兄ちゃんは嬉しいよ。


 俺達3人の遣り取りをカエデはじっと黙って観察している。気になるのなら入って来たらいいのに。


「サクラは白猫、お母さんは黒猫ね。撫でるとふわふわで気持ちいいわね」


 母さんが黒猫の背中を撫で、サクラも母さんを真似て白猫を撫でる。


 あまり表情が変わらないサクラだが、その小さな手は止まることなく白猫を撫で続けている。


 少しは気に入ってくれたのかな?


 サクラ、頭の方も撫でてみてよ。そうそう、頭。


「にゃ~」


 サクラの可愛い右掌が白猫の頭を1、2回撫でた後、白猫の頭部から鳴き声が発生する。


 音が出るとは思っていなかったサクラは驚いて、白猫から両手を離してしまった。


 床に落ちてごろんと転がった白猫を、サクラはじっと見つめている。動き出すのか、動かないのか、見定めようとしているのかな。


「そう、頭を撫でると鳴き声が出て目を閉じるのね。凄く良く出来てると思うわ。ほらサクラ、こっちの子も同じように鳴くから、怖がらなくても大丈夫よ」


 俺から鳴き声の出し方を聞いた母さんが、黒猫の泣き声をサクラに聞かせる。何度も聞かせるから、白猫はずっと瞬きをしている状態だ。


「ほら、怖くないでしょ」


 瞬きしながら鳴き続けるぬいぐるみって割と怖いと思うけどな。転生前の2歳の俺がそれを見たら怖くて泣いてしまっていたかもしれない。


 しかし俺の不安とは裏腹に、サクラは再び白猫を抱き上げて頭を撫で始める。


 撫でると音が出るという事を正確に理解したサクラは、何度かその行動を繰り返した後、にぱっと笑顔を作って俺に話しかけて来た。


「ねこさんかわいい。ありがとう」


 なんのなんの。サクラの喜ぶ姿が見えて、お兄ちゃんは嬉しいよ。


 う〜、う〜。


 サクラの頭を撫でてスキンシップをしていると、カエデが声にならない声で呻き始めた。要らないと投げ捨てたぬいぐるみを求めて、心の中で葛藤しているんだろうか。素直に謝れば母さんも黒猫を取り上げたりしないのに。


「じゃあこの子達に名前を付けてあげましょうか。サクラは白猫ちゃんの方をお願いね。何が良いかしら。自分の子供に名前を付けるよりずっと悩むわね」


 黒猫の顔を見てじっと考える母さんを真似て、サクラも同じ動きをする。本当に考えているのかどうかは解らないが、うんうん悩む姿も可愛らしいぞ。


 カエデはどうする?


 投げ捨ててごめんなさいってちゃんと言えたら、母さんから黒猫を取り返してあげるよ?





「それでゲオルグ。あのぬいぐるみは父さんのお陰で出来んだと、ちゃんと2人に伝えたんだろうな?」


 夜遅く、仕事から帰って来た父さんに凄まれた。カエデ達から好かれたい父さんはあの手この手で2人の気を引こうとしている。別に嫌われているわけじゃないんだけど、より愛を求めているとかそんな感じ。


 でも父さんの希望通りにはなってない。誰が作ったかは2人に伝えていないから。そんなこと言っても2人は理解出来ないと思うよ。


「ならせめて、俺とゲオルグからの贈り物ということにしようじゃないか」


 う〜ん。俺の口からは何とも言えない。そういう風にしたいのなら父さん1人でやってよ。


「2人とも、静かにしなさい。カエデ達が起きてしまうでしょ」


 父さんと言い争いになろうかという所で、2人して母さんに叱られる。小声でも迫力を失わないその声に、俺と父さんは争いを止めて押し黙った。


 俺達は今、母さんの寝室で眠る2人の幼子の寝顔を覗き込んでいる。


 遊び疲れて2人はぐっすり眠っているが、その小さな手にはぬいぐるみが1体ずつ握られていた。

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