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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第7章
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第2話 俺は妹への贈り物に驚く

 1月も終わりを迎えようとしていたある日、お願いしていた物が漸く完成した。


 青い目をした白猫と黄色い目をした黒猫のぬいぐるみ。


 アミーラの大きさを基にして作った立派な成猫のぬいぐるみで、2体とも手足を曲げ、腹を床に付けて伏せの姿勢を保っている。


「まさか人生でこんなに品質の良い素材を扱う事が出来るとは思ってもみませんでした。私に依頼して頂いてありがとうございます」


 ぬいぐるみを受け取るために製作を依頼した奥様の下へ向かったら、逆にお礼を言われてしまった。


 品質については特に何も条件を付けなかったんだけど、そんなに上質な素材を使ったんですか?


「ええ、それはもう手触り抜群の素材を。男爵様から聞いていませんか?」


 はい、特に何も。


「最初は村で手に入る材料を使ってぬいぐるみを作る準備をしていたんですが、夫から話を聞いたという男爵様が現れて、娘達を喜ばせる為に必要な物なら何でも用意するから言ってくれと仰られたので、お言葉に甘えて色々とおねだりしてしまいました。値段を知った時、ちょっとだけ男爵様の表情が引き攣っていたような気もしますが、まあそれは仕方ないですよね」


 そう、ですね。安請け合いした父さんが悪いよね。


 春が近づいて、ドーラさん達に奢る日も迫って来ているのに、父さんの財布の中身は大丈夫かと少し心配になる。


「こっちの白猫のぬいぐるみに使っている生地はエルフ族の国から取り寄せた物で、ルコット綿と呼ばれる上質な綿で作られた生地です。柔らかく、しっとりとした肌触りが特徴です。モーリス先生の伝手が頼りになりました」


 へえ。まあモーリスさんにはシビルさんも師事したことが有るって聞いているし、エルフの国では顔が広いんだろうな。


「対して黒猫のぬいぐるみに使っている生地は、ブラックホーンと呼ばれる全身真っ黒な羊の魔物の毛を使った生地です。黒色の羊は魔物でも珍しいんですよ。こちらも柔らかい生地ですが、植物性の物とは違って温もりを感じられます。私の個人的な意見ですが。この生地は村でも店を出しているハンデル商会が取り扱っていたので、王都の本店から取り寄せてもらいました」


 確かに羊毛って白いイメージしかない。育てられる綿と比べたら、こっちの方が希少価値は高そうだ。


 しかし生地を触らせてもらったが、温かみというものを俺は感じられなかったな。手触りはどちらも抜群に良かった。2歳の子供に渡して汚れてしまうのが勿体無く思うくらいに。


「どちらの素材も水に強く、手洗いで汚れを落とせるので大丈夫です。中に詰めている素材もルコット綿なので濡れてもしっかり乾きます。洗って乾かせば、柔らかさは復活しますよ」


 そっか。それなら安心だね。清潔に保てるのなら、カエデ達の健康にも不安が無い。


「生地も良いんですけど、この眼も見て下さい。王都の冒険者ギルド経由で手に入れた魔石を使用しているんです」


 白猫の青い目と黒猫の黄色い目。中心には真ん丸の瞳孔を作って可愛らしさが演出されている。猫と言えば縦長の瞳孔だけど、それは鋭い攻撃的な目と言う印象もあるし、子供向けじゃないよね。


「アミーラに協力してもらって暫く観察させてもらったんですよ。焼いたお肉を見せた時の表情を採用させてもらいました」


 好物を見せられて、興奮しちゃったのか。アミーラらしいと言えばらしいけど。


「アミーラは可愛いですよね。あの子が強力な魔力を持つ魔物だなんて全く思えませんよ。で、この青い眼と黄色い眼なんですけど、青い方はラシーヌウッドと言う魔植物の魔石で、黄色い方はブラックホーンの魔石です。マリーちゃん経由でソゾンさんに頼んで加工してもらいました」


 魔石の中にどうやって黒目の部分を作ったのかと思ったらソゾンさんの手が加わっていたのか。


「実はこのぬいぐるみ、魔導具なんですよ」


 えっ、加工ついでにドワーフ言語も刻んでもらったのか。まさか、立ち上がって動き出すとか無いよね?


「ははは、まさか。本当はそうしたかったんですけど、頭部より大きな魔石を使わないと無理だそうなので諦めました。魔力を込めるので、頭を撫でてみて下さい」


 そう言われて渡された黒猫のぬいぐるみの頭を、恐る恐る撫でてみると。


「にゃ~」


 黒猫は可愛い猫撫で声を発し、瞼を閉じて目を細めた。


 なにこれどうなってんの?凄いんだけど。


「生地と魔石の属性を合わせる事で、白猫は草木魔法、黒猫は土魔法を利用して、生地を少しだけ動かす事が出来るんですって。鳴き声は風魔法を使っているそうです。小さい魔石にこれだけの機能を入れ込むなんて、ソゾンさんは器用ですよね」


 そうだね、流石ソゾンさんだ。俺は出来るかな。今度会った時にやり方を聞いてみるか。


 それにしても立派なぬいぐるみが出来たものだ。これでカエデ達が気に入ってくれなかったら、がっかりしちゃうね。


「実は余った材料を使って、私の娘用にぬいぐるみを作ったんですけど、娘はとても喜んでいました。だから多分、娘と同い年のカエデ様達もきっと喜ぶと思いますよ」


 呼ばれて奥から出て来た娘さんは、白と黒の虎柄で、青い目と黄色い目をしたオッドアイの、猫のぬいぐるみを抱いていた。


 この子はカエデ達の2か月後、エステルさんの回復魔法に補助されて産まれて来た子だ。


 なんとかこの世に産まれる事が出来たこの子も、2歳まで元気に暮らすことが出来た。


 村では去年も今年も多くの子が生まれ、大きな怪我も病気も無く生活している。回復魔法のお蔭も有るが、診療所の皆の努力の成果だ。もっと医学が発展して、回復魔法に頼らずに治療出来る事が増えると、回復魔法で争う事も少なくなるんだろうか。


「それでですね、ゲオルグ様。実は娘が持つぬいぐるみを見た他の子達がそれを欲しがりまして。この3体だけで終わらせるのは勿体無いので、他の奥様方も巻き込んで量産して、王都に売り出しませんか?」


 急にきりっとした目付きになった奥様が、これは売れますよと自信有り気に口にする。


 それは良いと思うけど、材料費とか販売経路とかの話もあるから、父さんに相談してほしい。勝手に決めるとまた怒られそうだ。


「解りました。では後日会議の席を設けますのでゲオルグ様も御一緒に。娘も少しずつ手が掛からなくなって来たので、これからはバリバリ働きたいと思います」


 むんっと気合を入れる奥様の真似をして、同じようなポーズを取る娘さんがとても可愛らしかった。

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