表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第6章
462/907

第92話 俺は妹を心配する姉を説得する

 競技場を出た俺達は、競技場外で屋台の運営を担当している男爵家の大人達に一声掛け、彼らと別れて飛行を開始する。


 先に観客席を出て行った人達の噂話を聞いて、屋台の人達も異変が有った事は承知していた。彼らには競技場に残っている父さん達と合流してもらう手筈だ。出来れば姉さんも探して欲しいと伝えておいた。


 誰にも止められず、邪魔されることなく空を飛んだ俺達は瞬く間に村の皆が泊まった宿に到着した。


 そこで選別された数人が手早く荷物を片付け、宿を出る準備をする。これから船着場に行き、アプリちゃんと一緒に高速船に乗って村へ行く予定だ。時間帯から考えて船を出せるのは1回のみ。残りの人達は明日の朝まで宿で待機だ。


 大人4人、子供6人が準備を終えて俺達と一緒に宿を出る。もう一度飛行魔法を使って船着場に到着した。


 アプリちゃんを含めた11人が出都の手続きを受ける。アプリちゃんの登録証は入都した時と同じでロジーちゃんの物だ。入都した時と同じ役人の方だったから手続きは問題無く進んだが、武闘大会の結果が気になったようで雑談交じりになってしまった。


 その間に俺は、役人と同じく武闘大会も見に行かずに高速船で待機してくれていた船頭さんに後の事をお願いする。もうこの仕事に就いて随分と時間が経過して船酔いもしなくなった船頭さんが、いつもの調子の良さで任せておけと返答する。ちょっとだけ不安だから、航路開設当初から男爵家に雇われている魚人族の船頭さんにもきちんとお願いしておこう。


 3隻の高速船が列をなして船着場を出航するのを見送る。


 大人達は元傭兵団員の中でも魔法が得意な人達を選んだ。子供達はロミルダをリーダーに去年の魔力検査で活躍した5人だ。学校に通っている年長の子達を選んでも良かったんだが、その子達は更に年下の子を護る為に宿に残ってもらった。アプリちゃんが村で修業していた頃から同年代の5人とは仲が良かったしな。


「さて、我々は一仕事終わったわけですが、どうしましょうか。男爵邸に帰りますか?」


 高速船の姿が見えなくなった頃、マリーが口を開く。


「ロジーが心配だから、私は東方伯邸に行きたい」


 ローズさんは昨日宿に泊まらず男爵邸に泊まったから、着替え等の荷物は男爵邸だ。だから宿に留まらずについて来たわけだ。


 ロジーちゃんを抱えたドーラさんは前日に泊まった宿には戻らず、東方伯邸に逃げ込む手筈になっている。東方伯は王都に来ていないが事前に避難所として使用させてもらうと連絡を入れているから、問題無く匿って貰えるだろう。明日の朝までは身を隠す予定だ。


 ローズさんが東方伯邸に行きたいと主張する気持ちは解るが、誰が見ているか解らないんだからなるべく東方伯邸に近づきたくない。ルトガーさんもアンナさんも居ないし、俺達3人ではなおさら動かない方が良い。とりあえず、一旦男爵邸に戻ろう。


 俺の提案にローズさんは渋々納得してくれた。


「今回はいつもと違って冷静ですね。普段からこの調子でお願いします」


 ローズさんを説得し終えた俺にマリーが茶々を入れて来る。


 多分自分より熱くなっている人が居るから、その分冷静になれているんだと思う。ローズさんを抑える為に、頭を使う必要があるから。


「ちょっと、人を面倒な人間みたいに言わないでよ。妹を心配するのは当然でしょ」


 そんな風に思ってないし、ローザ様を含めて3人には申し訳ないと思うと同時に感謝もしてるよ。でも、ここまで来て計画が破綻しないように気を付けないと。さっ、取り敢えず男爵邸に戻ろう。


 俺はローズさんが単独行動しないようにしっかりと手を握って、2人の飛行魔法で空に飛び上がった。




「よう、遅かったな」


 男爵邸に到着すると、バスコさんが食堂で酒を飲みながら寛いでいた。貴賓席で俺達に合図をした後、他の人達と合流することなく競技場を離れたらしい。


 バスコさん達は男爵邸に集合する予定では無かったと思うんだけど。


「ああ。東方伯邸の方に行く予定だったんだが、ヘタクソな尾行が付いていてな。だから行くのを止めてこっちに来た。尾行は撒いたし、裏口から入ったから、多分大丈夫だ。落ち着いたら昨日泊まった宿に行って置いて来た荷物を回収しないとな」


 ぐびっと一口でコップの酒を飲み干したバスコさんは、つまみの枝豆を口に放り込む。


 一仕事終えた感じを出しているバスコさんは、もう今日は外に出ないぞって行動で示しているように見えるが。


「ちょっと、妹は大丈夫なんですか。お酒を飲んでないで、妹を護って下さいよ」


 もう一杯とお代わりを要求するバスコさんに、ローズさんが食って掛かる。


「俺は獣人族だ。飛行魔法は使えない。何か有った時には空を飛んで逃げるのが一番だろ。足手まといは少ない方が良い。そうカリカリしなくてもドーラ1人いれば大丈夫さ。慌てて動き回る方が計画の邪魔になる。ゲオルグもそう思うだろ?」


 俺に話を振らないで貰えます?


 ローズさんの鋭い目がこっちを向いているんですけど?


 え~っと。ローズさんは知らないと思いますが、ドーラさんはちょっと強引で酒癖の悪いところがあるけど、本当に優秀な魔導師なんですよ。アミーラもついているし、絶対に大丈夫です。




 ローズさんに対する俺の説得は、恐らくジークさんの最終試合よりも長く続いたと思う。


 その間バスコさんは酒を飲み続けるだけで、一切手助けをしてくれなかった。


 もうそろそろ荷物を取りに行っても良いんじゃないですか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ