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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第6章
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第90話 俺は事前に準備した作戦を決行する

 危ないと叫んだ姉さんの声と同時に、どこからともなく2本の矢が競技場の中央で戦っている2人に飛来した。


 その2本の矢は金属魔法で操作されているようで、背中を狙うようにやや蛇行しながら、吸い込まれるように2人へ。


 ジークさんは対面からサンダリオさんを狙って飛んで来る矢を視認すると、大剣を矢に向かって投げつけた。


 蛇行する矢の動きを的確に予測して投げた大剣は、その剣身を盾にして鏃の破壊に成功する。しかし。


 皮膚と肉を引き裂く耳障りな音が耳に届く。


 背中から左脇腹に鏃が突き刺さり、ジークさんが一瞬踏鞴を踏む。


 その隙を付いたサンダリオさんは審判の制止を振り切ってジークさんに猛攻を仕掛けた。


 大剣を放棄したジークさんは素手でサンダリオさんに対応する。顔色を変えずに動き続け、割って入ろうとする審判に対して止めるなと言い放つ根性を見せる。


 その姿を見て実況解説席の2人も観客達も、試合を止めろとは言わなくなった。


 背後からとはいえ、あのジークさんの防御を貫通する程の威力の矢。明らかにサンダリオさんを狙った矢とは威力が違う。


「ゲオルグ様、アリー様が」


 マリーの声に導かれ、姉さんの方に視線をやる。


 既に席を飛び立っていた姉さんは、クロエさんを体に纏わりつかせて、観客席の後方へ向けて飛行していた。更に姉さんを追いかける為に、アンナさんを含めて数人の大人達が飛行を開始する。


 姉さんが向かっている方角からして、恐らくジークさんを背後から矢で狙った人物を追っているな。


 という事はその反対側の客席に。


 いないか。


 こそこそしている怪しい人物は見当たらない。皆怪我を押して動き回るジークさんに夢中で声援を送っている。


 流石に姉さんが飛び出した後で、姿を曝すような真似はしないだろう。


「私達もアリー様を追いかけますか?」


 マリーの言葉に、いや、と即答する。


 あっちはついて行った大人達に任せよう。クロエさんやアンナさんも一緒みたいだから心配要らないと思う。


 それよりも、姉さん達が居なくなった分、子供達を護る戦力を残しておかないといけないし、他にもやらなきゃいけないことが有る。だから追いかけたいけど、今は我慢だ。


「なんと、ゲオルグ様がそんな立派な事を。いつの間に偽物と掏り替ったんですか?」


 マリーとロミルダがずっと手を握ってるのに、入れ替わるわけないだろ。


 今は動かないけど、ただし例えばアプリちゃんが襲われるとか、次に何か異常が見られたら動くからね。


「了解しました。これ以上何も起こらない事を祈っておきます。ロミルダ、客席にいる村の人達には薬を持たせてありますよね?」


「はい、エステルさん特製の傷薬と毒消しを。クロエさんには多めに渡してますので、アリー様に何か有ってもある程度は対応出来るはずです」


「ありがとうロミルダ。アリー様達が飛んで行ったことで皆状況は理解していると思いますが、念の為警告をしておきましょう。特に飛行魔法が苦手な子を連れて飛ぶ役目を担っている人達には。何か有った時にすぐに逃げられるように」


 うん、マリーに任せた。俺は貴賓席の様子を注視しているよ。




 貴賓席に動きが見られた。


 観客席より上段に設置されている貴賓席の前面は、競技場内を安全に見渡せるようにする為、ガラスが貼られている。衝撃には脆いガラスだが、誰かが貴賓席を使用する時は冒険者ギルドが魔導師を派遣してガラスを土魔法で常に強化しているらしい。本質的には金属魔法を使っているんだと思うが、土魔法と金属魔法の分類はまだ広まっていない。


 そんな貴賓席の中で、護衛の人間が国王や王妃を護るように立ち位置を変える。


 アプリちゃんも立ち上がって国王の下へ駆け寄っている。


 観客側には特に動きが無い。大剣を取りに行かせまいと動くサンダリオさんを非難する事に夢中だ。


 こちらは村の皆に注意喚起して、いつでも行動出来るように準備を促す。


 こちらの意志が皆と共有出来たその時、貴賓席の奥の扉からドーラさんが入室して来た。


 それに続いて護衛の人達とは異なる服装をした人間が複数現れ、護衛達と戦闘状態に移行する。


 ドーラさんは護衛に護られていたアプリちゃんを抱き上げ、ガラスに近づき、火魔法を使ってそのガラスに大穴を開けた。


 冒険者ギルドが派遣した魔導師もたいしたことないな。計画通り、俺達も準備開始だ。


 貴賓席に乱入した賊はアプリちゃんを抱えたドーラさんに狙いを移して攻め掛かる。やはり狙いはアプリちゃんか。


 よし、やってくれ。


 ドーラさんがガラスの穴からアプリちゃんを抱いて飛び出そうとしている時、男爵家が占有する範囲にぼそぼそと小声の波が伝播する。


「水滴を、集めて纏め、霧と成せ。敵を欺け、姿を隠せ」


 複数の声が調子を合わせ、重なって行く。


「濃霧」


 男爵家が座る観客席一帯と、観客席と貴賓席の間の空にまで広がる濃い霧の中へ、アプリちゃんを抱えたドーラさんが飛び込んで来た。

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