第82話 俺は同級生に威圧される
王都の船着場で高速船を降りた俺達は、船着場で待機している役人の下で入都検査を受ける。
検査は馬車が王都の門で受けるものと同じく、通行証があれば簡単に済ませる事が出来る。毎日船に乗って通学している子供達は通行証が無くても顔パスになるくらい、役人と顔馴染みになっていた。
「数時間前に到着した子供達もそうだったが、今日は皆同じ帽子を被ってるんだな。何か理由が有るのか?」
役人の1人に声を掛けられた男の子が、人懐っこい笑顔を作って質問に答える。
「明日の武闘大会王者統一戦に村の大人が3人も出場するんです。観客席で応援している僕達の姿を一目で見つけられるように、御揃いの赤いニット帽を被ることにしたんですよ。頭部が赤いと目立つでしょ」
「そうだな。この国で赤髪は珍しいから。俺は明日も仕事だから羨ましいよ。ん、事前に男爵から聞いていた通り、子供10人、大人3人で間違いないな。手荷物検査が終わったら行っていいぞ。明日の観戦を楽しんだら、またしっかり勉強するんだぞ」
「ありがとうございます。ではまた」
男の子がぺこりと頭を下げて、後ろで待機していた俺達を誘導する。
姉さんの1つ年下、クロエさんと一緒に学校に通っている彼は、孤児院出身の子供達のリーダー的なポジションを担っている。そのためかこういう対応もそつなく熟す。俺に質問が飛んで来ていたらドギマギして少し怪しまれたかもしれない。同じ時間帯の船に乗って来て良かった。
俺達を下ろした高速船3隻はまた村に向けて出発している。あと一組、クロエさん達を乗せて運んだらそれで終了だ。何事も無く船旅を終えて欲しい。
「ゲオルグ様が心配だというから私も船に乗りましたが、私達は昨日から王都で大人しく待っていた方が良かったんじゃないですか?」
一仕事が終わってほっと胸を撫で下ろしている俺にマリーが水を差す。
家でじっと待ってるなんて俺には無理だよ。落ち着きなくうろうろしている俺を見る方がマリーはイライラすると思うよ。
「今だって十分落ち着きないと思いますがね。役人への対応は変わってもらいましたが、この班を率いるのはゲオルグ様の役目ですからね。手荷物検査が終わったら、しっかり男爵邸まで引率してくださいね」
マリーの言葉を聞いていた子供達の生暖かい視線が、俺の羞恥心を刺激していた。
同じ船便で来た人達を連れて男爵邸に到着すると、先発の2便で先に到着していたロミルダとローズさんが出迎えてくれた。もちろん2人ともつば付きの赤いニット帽を被っている。
王都に移動して来た人達は一度男爵邸に集合し、全員がそろったところで事前に予約した宿へ向かう事になっている。
最後の便が到着するまでは自由時間だから、王都を散策したりしても良かったのに。
「多くの子供達がアリー様と一緒に外に出ています。赤いニット帽を王都内で宣伝して来るんだってアリー様は仰ってましたよ」
教えてくれてありがとうロミルダ。流石姉さんだ。どんな時でもマイペース。
「ゲオルグ、こっちに来て何も連絡が無いんだけど、馬車の方は大丈夫だって事で良いんだよね」
ローズさんがぐっと顔を近づけて俺を威圧して来る。
心配なのは解るけど落ち着いて。父さんやジークさん達が護ってるんだから大丈夫だよ。それに、アミーラだっているんだから。
「ゲオルグ様は人の事言えませんよね。屋敷に着くまでずっとびくびくしてたんですから。ローゼは御身内が頑張っているんですから仕方ありません」
気を張ってたのは本当だけど、びくびくは言い過ぎだろ。
マリーから弄られ、ローズさんからは威圧され、俺の同級生はどうしてこう俺に冷たいのか。
ところでロミルダ。アプリちゃんは?
「事前の打ち合わせ通りに男爵邸に到着したらすぐに着替えてから、待機してたドーラさん達に引き取られました。現在は恐らく私達が泊まる所とは別の宿でお休みになっているかと」
教えてくれてありがとう。
ここまでは計画通り。後は明日の観戦を何事も終えて、無事に村へ帰るまでだな。
俺はローズさんの追及に耐えながら、出来るだけ早く馬車が到着する事を祈ることにした。
高速船の最終便に乗ったクロエさん達が到着し、王都を散策し終えた姉さん達が帰って来て、皆が宿泊予定の宿に移動しても父さん達を乗せた馬車は王都に着かなかった。
重力魔法で軽くした馬車なら、日没前には王都に到着出来るはずだったんだが。
ロミルダ達と一緒に宿へ行かなかったローズさんは、時間が経つごとに俺への圧力を増して行っている。
我慢出来ずに馬車を探しに行こうとするローズさんを何とか抑え、俺はもうへとへとだ。
早く帰って来てくれ父さん。そしてアプリちゃんのフリをして一緒に馬車に乗ったロジーちゃんの無事を伝え、早くローズさんを鎮めてほしい。




