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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第6章
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第76話 俺は醤油と味噌を使い切る

 東方伯家の外洋船帰還と男爵家の魔法教室開設で王国内が盛り上がった7月、今年も例年通りの競艇が開催された。


 姉さんがいつも通り造船所の皆さんと競艇に参加し、ぶっちぎりの優勝を勝ち取って来たらしい。

 姉さんが乗る舟と他の舟に性能差が有り過ぎて、来年からは全ての参加者が同じ規格の舟に乗って戦う事になるんだそうだ。性能差だけじゃなくて、あの舟を難なく乗りこなせる姉さんの腕と度胸があってこその優勝だと思うんだけどな。ルールを変更してでも勝ちたい人が居るんだろう。


 姉さんは競艇3連覇を果たしたことでもう満足したらしく、来年以降は参加しないそうだ。もしかしたら武闘大会を卒業したジークさんを意識しているのかもしれない。


 来年以降は村の子から人材を選んで参加させることにすると、姉さんは意気込んでいる。


 選手から監督になるのかと俺が言うと、監督という言葉の響きが姉さんの琴線に触れたらしく、子供達にそう呼ぶよう早速指導したらしい。


 姉さん並にコーナーを責める度胸の有る子が居るだろうか。怪我をさせない程度に頑張って欲しい。




 俺はあまり良い思い出の無い競艇は見に行かず、ソゾンさんを手伝うマリーに付き合って鍛冶実習に参加していた。


 競艇開催中は実習を休みにする案も有ったが、通常通り実習を行ってくれと言う受講者達の声に押され、開催中もいつも通り実習を行った。

 王都から競艇開催地のボーデンまでは割と遠いからな。王都内での祭りならともかく、皆が競艇を楽しみにしていると言う訳でも無いようだ。


 鍛冶実習の序に農業実習にも毎日顔を出した。流石に講義には参加しなかった。居眠りしそうになるという失態を再び起こしてはならない。




 父さんは勢い勇んで醤油蔵と味噌蔵を作ったが、どちらも仕込みをするのは気温が下がってからなんだそうだ。


 今は仕込みに向けて大豆を増産し、東方伯の所に人を派遣してそのやり方を学ばせている。


 海を渡った東方伯の部下数人が製造法を学んで帰って来たらしい。もちろん東方伯も自分達で蔵を作って醤油や味噌を製造しようとしている。その技術を持ち帰った東方伯家が独占しても良さそうなものだけどね。どれくらい金を積めばその技術を教えてもらえるのだろうか。


 でも来年以降、醤油と味噌を遠慮せずに楽しめるようになるのは嬉しい。


 その味は男爵家家中の人達にも好評だった。


 餅と餡子はこちらで食べてしまったが、醤油と味噌の味は村の人達にも伝えた。こちらでも評判は良く、お蔭で製造技術を学びたいと言う人は多く現れた。


 村の仕事も徐々に種類が増えている。最初は農作業、山仕事、警備くらいしかなかったのに。陸運、水運、医療、そして食品製造業。就ける仕事が増えるのは良い事だが、少しずつ人手不足になって来ている気がする。毎年新たな子供は産まれているが学校を卒業するまでは子供達を働かせないのが村の方針だし、今年は村への移住者も居なかったから人手は増えていない。減らないのはなによりなんだが。


 しかし人手が足りなくなって警備を担当する人が減るのは困る。盗賊も魔物も出ない平和な村だけど、特に今はアプリちゃんを預かっている訳だから何が起こるか分からない。


 だからと言って醤油と味噌に手を出さないのも困る。まあその辺のさじ加減は父さんと警備主任的な立場のヴァルターさんが上手くやってくれるはずだ。アヒムさんが話に入ってくれている方が信用出来るかな。




 俺の心配を余所に、8月、9月と大きな事件も無く平穏な日々を過ごせた。


 俺は8月に入ると例年通り誕生祭用の贈呈品を集める事に奔走した。今年は父さんに頼まれてグリューンの方で渡す贈呈品も用意したから結構大変だった。グリューンの方が本領だから、父さんが忙しいからってあちらの手を抜く訳には行かないから仕方ない。


 魔法教室の方も順調。何人かは言霊を使って植物を操ることが出来るようになったし、鍛冶実習を卒業していった人物もいる。俺の耳も鳴り響く金属音に漸く慣れて来た。


 そして9月の誕生祭。男爵家は王都内に、醤油や味噌で味付けした料理を屋台でこっそり売り出した。小麦粉を練って作った小さな団子を一度茹でて3個1組で串に刺し、醤油や味噌を塗って焼いた物だ。もちろん砂糖醤油で甘い団子も作った。


 醤油と味噌の備蓄が少ないから、宣伝もせず、暖簾も出さずに売り始めたが。


 醤油や味噌の焦げる匂いの集客能力は凄まじく、あえて誕生祭の3日目という中途半端な日を選んで売り出しんだが、あっという間に在庫が切れてしまった。


 今朝屋台を始める前に団子を教会のお供えに持って行っといて良かった。


「大丈夫だ。売れ筋によっては醤油と味噌を購入すると東方伯に話しは付けてある。まだまだ売れる商品だ。明日も屋台は続けるぞ」


 グリューンでの誕生祭を終えて戻って来た父さんが、自信満々に宣言する。相変わらず商魂逞しい。


 それなら今晩も料理長と一緒に小麦粉を捏ねて、明日の仕込みをしましょうかね。


 屋台を閉めた後に噂を聞いて買いに来てくれた人達に謝罪をしながら、俺は他に団子の味付けになる物は無いかと考えていた。

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