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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第8話 俺は久しぶりにプリンを食べる

 ヴルツェルからの使いは予定通りに帰って行った。

 結局、次に王都へ輸送する便で販売リストを持ってきてもらうことだけお願いした。

 せっかく安く食材が手に入る機会なのに、それを活用できるいい案は浮かばなかったな。


 王都周囲は多くの住民を養うために穀倉地帯だ。野菜や果物を育てている農家もあるが、畜産家はない。

 庶民に届く肉は燻製や腸詰などの保存食。冷蔵しないと傷みやすい生肉や卵、牛乳は高価で庶民には手が出ない。お祭りの時に食べるくらいのようだ。

 エマさんに言われた通り、王都の住民に食材が安く渡るようになるだけで充分だと思おう。




 さて、気持ちを切り替えよう。

 卵が手に入った。牛乳が手に入った。冷蔵も出来る。

 久しぶりにプリンを作ろう。


 一人じゃ無理だからマルテに手伝ってもらう。コックにも覚えてほしいからその辺で見学してて。でも勝手に広めないでね。いずれ商売に利用するかもしれないから。

 キッチンに背が届くようになるのは何歳くらいかな。商売出来るようになる前に、他の転生者が広めないことを祈ろう。あ、踏み台を持ってくるからちょっと待って。


 現世では蒸し器を使っていたんだけど、キッチン内に蒸し器が見当たらない。慣れないオーブンでやるよりは大きな鍋で代用しよう。容器は陶器のコップでいいかな。


 まずはカラメルを作ろう。

 鍋に砂糖と水を入れて加熱します。かき混ぜちゃだめだよ、鍋を揺すりながら茶色く色付くまでゆっくり見守ろう。最初は白くてぷつぷつ沸騰しているだけだけど、色が付き始めたらあっという間に黒くなるから注意してて。

 うん、良い色になってきたね。ここで水を入れて液状にする。入れる水が少ないと固まりやすくなるよ。あ、水が跳ねるから注意してね。

 あとは冷めれば完成。これを容器の底に入れておく。


 次は卵と砂糖をかき混ぜる。全卵と黄身を使おうか。余った白身は何かの料理に使って。なるべく泡立たないように注意する。

 そこに温めた牛乳を少しずつ混ぜていく。ゆっくり混ぜてね。

 混ざったらザルで濾します。

 濾した卵液をカラメルが入った容器に注ぐ。8分目くらいでお願い。


 で、これを蒸します。

 大きな鍋に布巾を敷いて容器を置く。布巾がないと沸騰したときに容器が揺れるから。

 鍋にお湯を注いで。容器に入っている卵液の半分を目安に入れてね。


 これで鍋に蓋をして加熱。

 しばらくしたら火を止めて10分くらい蒸らす。出来上がったら粗熱をとり、冷蔵して完成だ。


 初めてにしては上手くいったんじゃないかな。夕飯後にみんなで食べよう。




「黒いのが苦いよ」


 うーん、マリーにはカラメルの苦味は早かったか。俺は気にならないけどな。プリンの甘味とカラメルの苦味がちょうどいい塩梅だ。大人達も美味しそうに食べている。

 今度作るときはカラメルは後からかけるようにしよう。


「これだ」


 プリンを食べすすめていた父さんが急に大声を出して立ち上がった。なんだよ、椅子から落ちそうになったわ。


「このプリンでアリーを呼び戻すんだ」


 まだ姉さんが居ないことに慣れてないのか。


「届けてもらった卵と牛乳で美味しいおやつが出来たから帰っておいで、これでどうだ。食いしん坊のアリーならきっと食いつくはずだ。よし、いまから冒険者ギルドにいって、ぐぇ」


 しゃべりながら食堂を出ようとした父さんだが、母さんが風魔法で作った壁に顔をぶつけて悶絶している。


「今から行っても深夜料金を取られるだけよ。急用じゃないんだから明日にしなさい」


 娘のことを食いしん坊だとか言ってるから怒られたんだよ。

 プリンはいっぱい作ったから明日の朝食後に食べようかと思ってたけど、明日の夕方くらいまでなら冷蔵で傷まないかな。




「わーい、おやつぅ」


 父さんの考え通り、姉さんは帰ってきた。ちょうどお昼時。ご飯の後にプリンを食べよう。今回は文句を言われないように、父さんの職場へ使いを送った。


「美味しいね、ちょっと苦いけど」


 姉さんもカラメルは苦手か。やっぱりカラメルは後乗せにしよう。マルテやコックにもそう伝えないと。

 私はこれ好きですよ、とアンナさんが言ってくれた。ありがとう。


 お土産に持って帰りたいと姉さんに言われたがけど、もう作り置きはない。

 しょうがない、もう一度作ろうか。何人分必要?


「お爺様とお婆様と、クロエと、上の伯父様の家族と、下の伯父様の家族と」


 ちょ、ちょっと待った。そんなに持って帰れないでしょ。それにクロエって誰?


「仲良くなった獣人の女の子。抱きつくとふわふわもこもこで気持ちいいんだよ。今度紹介するね」


 ふわもこ、なんて羨ましい。俺も触りたい。

 じゃなくて、人数を絞ってください。


「簡単に作れるなら私が覚えて、向こうで作りますが」


 そうか。まあ爺さんのところくらいならレシピが広まってもいいか。いずれ大きくなった時の商売用に隠しておこうと思ってたけど、爺さんは身内だしね。うちの家族が不利益を被ることにはならないよね、きっと。


「じゃあアンナさんに作ってもらうね」


 アンナさんは手際が良く、料理上手だった。驚いていたら、これでもこの家のメイド長ですからね、と笑われた。いまではすっかり姉さん専属になってたから忘れてました。すみません。


 上手に出来たプリンがある程度冷えたところで、姉さん達はヴルツェルに戻った。姉さんだと危なっかしいから、プリンはアンナさんが持った。

 私が持っても大丈夫なのに、と言い張る姉さんにはカラメルが入った別の容器を持たせた。カラメルが冷えて固まったら、少し水を加えて熱してね。




 父さんは普段の帰宅時間より随分と遅れて帰ってきた。

 理由は聞かなかったけど、姉帰宅の知らせを受けて勝手に仕事を抜け出そうとしたから上司に怒られて残業になったんじゃないかな、って想像している。

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