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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第6章
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第57話 俺は久しぶりの父親の勇姿を見る

 観客を沸かせた雲が飛び去って行った後には、ぐちゃぐちゃになった競技場内の地面が残されていた。


 崩れ去った雪像に風雨でぬかるんだ地面、雷を浴びて熱を発している避雷針と、なんとも混沌とした様相を呈している。


 このまま戦っても面白い事になりそうだが、流石にそれはないか。


 でも誰も地面を均そうとしないんだよな。魔法を使った張本人も一向に姿を現さないし。


 一時的な興奮が収まり冷静さを取り戻し始めた観客達も、何も変わらない現状にざわつき始めている。


「ええっと、男爵?これは誰が元通りにするんですか?」


 実況席のクルトさんが隣に座る父さんに質問する。


「ははは、おかしいですね。いつも何かやった後は片づけまできちんとするように言ってるんですけど。でもこのまま待ち続けるのもなんですから、私がやって来ましょうか?」


「是非お願いします。このままでは試合を再開出来ませんから」


 まったく、姉さんはどこで何をやってるんだろう。姉さんならちょっと魔法を使えばすぐに直せるだろうに。


「じゃ、行って来ます」




 観客席を飛行魔法で飛び出した父さんは、競技場の中央、最もべちゃべちゃしている地面にふわりと着地する。


 一度深く呼吸をした父さんは、少し時間を掛けて力を籠め、魔法を発動した。


 地面が、揺れる。


 競技場全体が縦に横に振動する。


 震源地の父さんは全く揺れずに。いや、少しずつぬかるんだ地面が固まり、足元の地面がせり上がっている?


 うん、確実にせり上がっている。どんどんどんどん地面はせり上がり、父さんの足元直径1メートルくらいの細長い塔を形作る。その代わり、周囲の地面は凹んでいく。水たまりも避雷針も石造も、凹んだ地面に落ちていく。


 競技場内の地面に散乱していた物すべてが穴に落ちたところで、父さんは塔の上から飛び上がり、その塔を瓦解させる。


 塔を作っていた土達は穴の中でもがいている雪や避雷針の頭上から襲い掛かり、全てを飲み込んで平坦な地面に戻って行った。


 先程の演目時とは違って静まり返った観客席に、実況席の声が届く。


「流石です男爵。“土葬”と呼ばれて恐れられていた頃の力は健在の様ですね。魔導師の部か混合の部に出場しても良い線行くんじゃないですか?」


「いや、久しぶりに大きな魔法を使ったからか、魔法の発動までに時間を掛け過ぎてしまいました。一度の魔法で息が切れてますし、あれでは対戦相手に何かしら対策されて負けてしまうでしょうね。ジークと違って私は大会で勝つ自信は有りませんよ」


「それでもしぶとい男爵なら何とかしそうですけどね。さあ、男爵のお蔭で競技場はすっかり元通りです。ですが決勝戦が始まるまでもう少し時間が必要なようです。観客の皆様はもう少しお待ちください。今のうちに御手洗いにもどうぞ」


 クルトさんの言葉を聞いて村の子供達が一斉に席を立ってトイレを目指す。我慢の限界なのはわかるけど、急に走って転ぶなよ。




「さあ若干長めに取らせてもらった休憩も終わり、いよいよ決勝戦の始まりです。先ずは戦士の部の決勝からですが、大会史上初めて獣人族同士の決勝戦となりました。この結果についてどう思いますか男爵」


「そうですね。やはり獣人族は強い、の一言に尽きるでしょう。魔法抜きで戦うのは厳しい相手です」


「なるほど。という事はジークフリードさんが再出場しない限り、戦士の部は獣人族の独壇場と言う訳ですね」


「もしかしたら今後、魔導師の部や混合の部でも獣人族の姿が見られる、かもしれませんね」


「ははは、そうなったら面白いですね。おっと、ようやく決勝出場者の準備が整ったようです。それでは入場して頂きましょう。先ずは第1試合から常に勝利の先頭を歩いて来たこの方。決勝戦でも勝利し、優勝一番乗りの栄光を手に入れる事は出来るでしょうか。リカルド選手の入場です」


 皆の視線が今日何度も開いた扉に移動する。




 扉が開かない。


 今日2回、リカルドさんはこの扉を大きく開けて入場して来たのに。


「皆さん、注目すべきはそちらじゃありません。上空を御覧ください」


 父さんの声に導かれて目線を動かすと、そこには再び上空から降りてくる雲が居た。


 今回は雷雨を伴わず、大人しくゆっくりと下降してくる。まさかあれに?


 雲の上部が見える程に下降したところでその考えが間違っていなかったことが証明された。


 だが雲に乗っているのはリカルドさんだけじゃなく、我が村の男の子も一緒だった。リカルドさんは心なしかへっぴり腰になって男の子にしがみついている。男の子は先程の姉さんの演目時から姿が見えなかった6人の1人だ。もしかして、演目にも参加してた?


「颯爽と現れたリカルド選手と戦う対戦相手はこちら。2年連続準優勝と言う雪辱を晴らす為今年もやって来た異国の戦士。だがしかし、負けた相手の姿は今年は無し。やる気無し?でも観客には関係ないし。楽しい試合を見せてくれ、サンダリオ選手のぉ、入場だぁ」


 クルトさんの前フリに合わせて、サンダリオさんも雲に乗って現れた。


 もしかして決勝出場者全員やるの?

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