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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第6章
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第54話 俺は獣人族の試合を観戦する

 父さんとクルトさんの掛け合いが終わり、ギルドマスターによる開会挨拶が始まった。


「え~。長ったらしい話は抜きにして、出場者も観客も今日一日を楽しんでくれ。では、武闘大会本戦を開始する」


 うん、素晴らしい開会挨拶だ。誰もここでの長い演説は期待していないからな。手を抜いたって誰も文句は言わないだろう。


「手短に終わらすのは構いませんが、もう少しギルドマスターらしく威厳に満ちた言葉選びをして欲しいものです。では戦士の部、第一試合から始めましょう」


 ちくりと小言を混ぜ込んだクルトさんの実況により、第一試合の出場者2人が競技場内に現れる。

 開始位置にて立ち止まった2人は、審判の合図を待ちながら体を動かし戦闘準備に入った。


 1人は我が村からの出場者リカルドさんだ。相手も同じ獣人族の戦士で、王国南部の出身らしい。

 獣人同士の対戦はお互いにどんな秘技を隠し持っているかが勝負になるらしい。当人は第一試合からとは演技が良いと笑っていたが、大丈夫だろうか。




「はじめっ」


 審判の開始の合図と同時に2人の獣人族は一気に距離を詰め、お互いの拳をぶつけ合う。


 2人の右拳が合わさった瞬間、どんっという衝突音と共に相手の獣人族が後方に吹っ飛ぶ。


 グルグルと競技場内の地面を転がった相手は、数メートル離れたところで飛び起きて再び構えを取り戦闘態勢に戻ったが、激突した右腕はぷらんと垂れ下がったままだった。


「たぶん肩関節が外れています。でも、ああなっても戦いを止めないところが獣人族を相手するのに嫌なところですね」


 隣で一緒に観戦していたマリーが可笑しなことを言う。獣人族相手に戦った事なんて有るの?


「父からの受け売りですよ。リカルドさんも戦意を失っていない相手に敬意を示し、攻撃の手を休めないようですね」


 マリーの言葉を聞いて競技場内に目線を戻すと、構えを解かずじっとして居る相手にリカルドさんが一気に接近する。戦いを止めない2人を見て審判も試合を止めないようだ。


 リカルドさんは走りながら近づくと、今度は左足を振り上げて蹴りに行く。相手は右腕を使えないから防御が出来ない方向からの攻撃になる。性格の悪い攻め方をするものだ。


 しかし相手はその動きを予期していたかのように、くるっと体を回転させて振り上げたリカルドさんの左足を左手で掴み、そのままリカルドさんの勢いを利用してぶん投げる。


 投げられたリカルドさんもまた数メートル飛ばされ、危うく競技場内と観客席を分ける壁に激突するところだった。場外判定の無いこの大会ルールでは、壁も一種の凶器になってしまう。


 立ち上がったリカルドさんは少し左足を気にしたような動きをする。これは、投げられた時に捻ったか何かしたか?


「掴んだ瞬間に足を捻じってましたね。金属魔法を覚えた事で秘技自体も強化されたリカルドさんを負傷させるなんて、相手も流石ですね。相手の秘技は投げ技か何かでしょうか。でもそれなら最初に拳をぶつけた時も投げに行けたと思うんですけど」


 向こうが捻じったのか。俺には全く見えなかった。


 マリーの解説に、俺の前の席に座っていたリカルドさんの息子君が反応する。


「獣人族の秘技の中には、自らが危機に陥った時に威力を発揮する物もあるんだと父が言っていました。僕はまだ身体が出来てないからと教えてもらっていませんが。だから、相手はきっと態と最初の一撃を喰らったんだと思います」


 アプリちゃんの1つ年下だからな。身体が出来ていないのは仕方ないが、父親が苦戦する姿を見ても取り乱さずに冷静な判断が出来る賢い子だ。


 自分が負傷すると力を発揮する、か。そういう物があるのなら、最初に打ち合ったのは納得出来る。その一撃で完全に意識を刈り取られてしまったら意味が無いけど、本戦まで勝ち進んできた人だ。そうならない自信も有ったんだろうな。


「お互い負傷してしまいました。この先勝ち進んでも優勝は難しいかもしれませんね、男爵」


「いえ、彼ら獣人族には敢えて敵の攻撃を喰らう事で自らを奮い立たせると言う悪癖が有りますからね。あれくらいはなんてことないでしょうな」


 解説席に座っている父さんも今の現状を同じように捉えているようだが、悪癖とかちょっと口が悪すぎませんか?


 獣人族と戦った経験でも有るんだろうか。きっと戦争の時だろうな。


「さあお互いがじりじりと距離を詰め、力を溜めていますよ。お互い後一撃で終わらせるつもりでしょう。瞬きせずにしっかりと目に焼き付けましょう」


 父さんの解説が終わる頃、2人は距離を詰め終わり、移動を止めた。


 相手は左腕をゆったりと動かし、もう一度掴んでやるぞとリカルドさんを威嚇する。


 リカルドさんはその威嚇を気にせず再び左足を持ち上げ、相手の右側から攻撃した。


 相手が掴みに行こうと左手を伸ばしたその時、リカルドさんは伸ばした足を引きつつ体を回転させる。


 回転させつつ右足一本で相手に向かってジャンプし、体の回転を利用した右フックを相手が伸ばした左腕に打ち込んだ。


 相手の左手の甲の直撃した右フックは、耳障りな嫌な音を客席まで響かせる。


 両腕の機能を失った相手だが、それでもしぶとく残った両足での攻撃を繰り返す。


 しかし、先程の投げ技のような力強い攻撃は見られず、第一試合は辛くもリカルドさんの勝利で幕を閉じた。

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