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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第2章 俺は魔法について考察する
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第7話 俺は爺さんの仕事ぶりに驚く

 氷結魔法を修得したという連絡からしばらく経つが、姉さんは帰って来ない。


 父さんの機嫌は日に日に悪くなる。もういっそ仕事を休んで会いに行ったらいいと思う。

 俺は図書館に行って貸出延長の手続きをした。貸した本のこと忘れてないよね?


 今日も父さんは通勤前に冒険者ギルドへ。あの手この手で姉さんを連れ戻そうとしているみたいだけど、たまには親孝行をしろと爺さんに一蹴されている。

 ギルド職員の方、毎日朝早くから迷惑かけてすみません。


 母さんもそろそろ我慢の限界かもしれない。

 主に父さんが通信費を無駄使いするせいで。

 姉さんが心配じゃないの、と聞いてみた。私は自分の娘を信頼しているのよ、と言われた。話を聞いていた父さんが、俺も俺もと割り込んできたが、全然信頼出来なかった。




 姉さんから連絡があって8日後、ヴルツェルの爺さんから使いが来た。


 お土産を馬車いっぱいに積載して。


 小麦粉に野菜、果物、お肉、卵、牛乳と。全部爺さん達が育てた作物らしい。

 お酒や布もあるよ。知らなかったけど爺さんは手広くやってるんだね。

 運ばれてきた作物はきっちり冷蔵冷凍されている。肉も燻製などの保存食じゃなく生の状態だ。


「しばらくは言霊のことを広めないように」


 ライナーと名乗った使いの人が持ってきた爺さんの手紙にはこう書かれていた。


 ライナーさんは姉さんに氷結魔法を教わった第一期生らしい。

 30歳を超えてようやく水魔法を修得したばかりで氷結は全く使えなかったが、姉さんに言霊を教わったらすぐに氷を作れるようになったそうだ。


 食材を冷蔵して運搬するには高額な人件費を払って魔導師を雇う。それに護衛と御者の人件費も加算され、運搬費用は高額になる。だから王族や領主などの金持ちにしか冷蔵で運べない。

 ライナーさんは元々護衛として雇われていた。護衛か御者が氷結魔法を使えたら、魔導師に払う費用が要らなくなる。安く運べて安く売れる。庶民にも新鮮な食べ物が普及する。運送業界に革命が起こるとライナーさんは熱く語っていた。


 なるほど。やり手らしい爺さんが、新技術をほいほい公開するわけないと。ギルドの通信を使わず態々手紙を用意したのも、外部に漏らさないためだね。

 でも氷の魔導具があれば元々魔導師は必要なかったと思うけど、どうなんだろ。


「魔導具は高価ですからね、盗賊に盗まれたり壊されたいしたら大変です。その点、魔導師は一応自分の身は自分で守りますから、魔導師の方を選んでいたんです。でもこれで魔導師どもにデカい顔をされなくなります。私の給料も上がって万々歳です」


 ライナーさんの興奮が止まらない。よかったですね。

 余所に引き抜かれないように、氷結が使える護衛と御者の待遇改善は重要だよな。


「この作物はお礼です。みなさんで食べてください。お酒と布も1番良い物を持って来ました。それからゲオルグ様にはアリー様より荷物を預かっています」


 あ、貸していた本だね。ありがとうございます。俺には無いのかって煩い人がいるけど無視だ。


 運搬された作物はお礼と、口止めと、実験だろうな。知り合いに食べさせて腹を壊さないか試してるんじゃないの?


 まあその辺はコックに任せればいいか。

 あとはうちにも氷結魔法使いが欲しいんだけど、こっちで広めるのはどうだろうか。


「あら、私は使えるわよ」


「一応、俺も」


 母さんが自信満々に手を挙げ、父さんは無視されたのが効いたのか小声で。

 うちの食材は母さんが守っているそうだ。厨房の奥には入れさせてもらえないから、冷蔵室があるなんて知らなかった。


「広めない代わりにヴルツェルの食材を優先的に卸してほしいお店があるんだけど」


 ライナーさんに尋ねてみる。これくらい融通してくれてもいいよね。


「私では判断がつかないので、帰ったら主人に聞いてみます」


 明日は休憩がてら仕入れを行って、明後日王都を出るらしい。

 じゃあ明日中にお店を回って、食材が必要かどうか聞いてみよう。




 うーん、困った。


 誕生祭で知り合ったジャム屋さんは、新鮮な果物は嬉しいが王都で出回っている果物との価格差によると。多少古くなった果物でも、傷んだ部分を取り除いてジャムにしたら売れるから。

 新鮮な果物を使った方が美味しいんじゃない?と聞いてみたが、そうすると販売価格が高くなり庶民に売れなくなると諭された。

 今のままでも充分美味しいでしょ、とお姉さんに笑顔で言われたら何も言えない。あれからほぼ毎月買いに来てるんだから。

 まあここは費用を調べて要相談ということで。


 魚人族の料理店は、特に必要ないと。近くの川で採れた魚や、海側から運ばれてくる魚介類がお店のメイン食材だからね、仕方ないね。

 でも王都より更に西に行った内陸部には魚人族が少なくてその周辺の川魚は知られていないから、もし生きたまま運ばれてくるなら食べてみたいそうだ。今回の荷物に魚は無かった。運搬出来るのか確認してみよう。

 ちょっとがっかりしていると、山側でしか取れない野菜や香草が安く手に入るなら買ってもいいと言ってくれた。気を遣わせてすみません。


 最後にエマさん家の飲食店。昼間っからお酒が飲めるから酒場と言ってもいいけど。

 ここはお肉も卵も牛乳も必要でしょう。

 と思ったら、大量に持って来られてもちょっと困ると言われてしまった。

 理由は保存できないから。氷の魔導具は持ってないし、家族の誰も氷結魔法を使えない。氷結が使える従業員を雇う余裕はない。だから食材は毎日必要な分を朝仕入れて、足りなくなったらその都度買いに行き、夜には使い切るのがベストなのだとか。

 うちに卸すより、市場で販売して王都民みんなに行き渡るようにしてもらったほうがいいとまで言われてしまった。ごもっともです。


 安く売って日頃の感謝を伝えようと思ったけど失敗したな。

 まあ買ってくれるかもしれないし、販売リストを作ってもらってもう一度相談しよう。

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