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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第6章
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第41話 俺は言霊の未来が気になる

 父さんに続いて回復魔法の言霊を使用したモーリスさんは、ほんの一瞬だけ魔法の効果を発動させて意識を失ってしまった。


 一瞬でぶっ倒れたモーリスさんの様子に、会議室内の観客達は騒然としている。


 この可能性を予期していたと思われる姉さんとアンナさんは、すぐさまモーリスさんを別室に運んで行った。浮遊魔法で運ばれるぐったりとしたモーリスさんの姿を見て、廊下から会議室内の様子を窺っていた人達の間でも何が有ったんだと騒ぎが起こり、外の人達が会議室内に乱入し始めた。


 ジークさんの支えを失って床に座り込んでいる父さんに注目が集まり、皆口々に質問する。

 急速な魔力の減少による体調不良から未だ回復していない父さんには答える余裕は無いと思うが、暫くは皆の意識を引きつけておいてもらおう。


 今はエステルさんがジークさんの治療をしているからな。そっちに注目が集まるのは少し面倒だ。


「魔力を吸った分だけ回復する。そういう感じの言霊なんでしょうか」


 じっと黙ってジークさんの様子を見ていたマリーが、ぼそっと声を漏らす。


 モーリスさんの魔力が枯渇して言霊は中途半端な所で止まってしまったが、ジークさんの傷口から出血は止まっている。しかし傷口は開いたままで、今それをエステルさんが治療し終えた所だ。


 完治するか全く治らないかでは無く、マリーの言う通り魔力を吸った分だけ回復すると言う仕様なんだろう。


 だからと言ってそれがどう役に立つのか。

 自分が動けない状況で残った魔力を全て使って味方を回復させる、そういった時くらいだろう。なかなか使いどころは限られてくるよな。足りない魔力を絞り出した結果、相手をどれくらい回復出来るのかも解らないんだから。


「アリー様にしては使い辛い言霊を作りましたね。無理矢理力技で完成を急いだ、そんな気がします」


 マリーもそう思う?

 姉さんは誰でも全ての魔法を使えるようにしたいから作ったって言ってたけど。あと、そのほうが面白いからって。


「なるほど。アリー様らしいですね」


 俺の言葉を聞いてしばらく考えたマリーがそう納得する。


 まあ姉さんの事をよく解ってる人ならそう評するよね。本当に姉さんらしい強引な言霊だよ。


 でもこれを見た多くの人は真似しようなんて思わないだろうね。度胸試しだって言って無理矢理使っちゃう人は居そうだけど。


「そうですね。確実に決まった量の魔力が吸い取られるのなら、人々が持つ魔力量を比べる事に使えるかもしれません。魔力量測定用の魔導具があるのに、そんなことをする理由は私には解りませんが」


 ははは、そうだね。その理由は俺にも解らないや。


 ところで、お城や冒険者ギルドにある魔力量測定の魔導具ってどういう構造になってるのか知ってる?


「そんなこと知っているわけないじゃないですか。そんな無駄話よりも、エステルさんみたいに私達もここを離れましょう。さもないと男爵様に群がっている人達がこっちに来ちゃいますよ」


 それは危ない。折角父さんが頑張ってくれているんだから今のうちに退散しよう。ここを出たらモーリスさんの様子を見に行こうか。


 俺とマリーはこっそりと会議室を抜け出し、モーリスさんが寝かされているであろう客間を目指す。来客が泊まれるように作られた客間にはもちろんベッドが有る。会議室内にはイゾルデ先生も居たから、恐らく村の診療所には運ばれては居ないだろう。




 予想通り、客間のベッドでモーリスさんは眠っていた。

 傍で様子を見ていたアンナさんによると、呼吸状態は落ち着いてきたがまだ意識は取り戻していないらしい。モーリスさんの顔を覗き込むと、額にびっしりと汗をかいて寝苦しそうに苦悶の表情を浮かべている。

 これでも呼吸が落ち着いて来たと言うんだから倒れた当初はもっと酷かったんだろう。倒れ方や場所が悪かったら、もうそれで命を落としてしまいそうだな。


 さっきは度胸試しだなんて軽く言っちゃったけど、この症状を見る限りそう簡単に使って良い言霊じゃない事はよく解る。


 しかしこの症状を抑えるには、このまま魔力の自然回復を待つしかないのかな。


 薬なんかで治せるような物じゃないよな。失った魔力を増加させる薬何て聞いたことないし。


 ん?


 魔力を補充したらいいのか?

 それなら回復魔法の言霊で魔力を与えればいいんじゃないのか?


「先程アリー様が既に試しています。どうやら傷が無いと魔力は吸収されないようです。眠っているモーリス先生には申し訳ないのですが、皮膚に傷をつけてもう一度言霊を試しました。傷が有っても傷の修復に魔力は使われてしまうので、結局モーリス先生の体内に魔力は残らない。そういう結論に達しました」


 なるほど。そう上手くは行かないか。


 魔力を譲渡するだけに作られた魔法じゃないもんな。ローラントさんがアプリちゃんに使っていたという闇魔法の魔導具があれば、きっとそういう事も出来るんだろうが。


 ところで、姉さんの姿が見えないようだけど?


「モーリス先生に魔法を使ってアリー様も魔力を消費したので、自室に戻りました。エステルさんも一緒です。モーリス先生が倒れた原因は自分に有ると気にしていましたので、後でゲオルグ様からも言葉を掛けてあげて下さい」


 流石の姉さんもそういう所は気にするんだな。危ないよと止めたのにどうしてもやりたいと言ったモーリスさんに責任があると俺は思うけどな。


 まあこの辛そうなモーリスさんを見たら、自業自得だぞ、とは言えないか。日頃の恨みがある俺とは違って、姉さんは恨み何て無いはずだからな。


 しかし今後この言霊はどうなるんだろう。

 危険性を考慮して禁止になっちゃうかもな。身を持って体験した父さんなら、きっと禁止にする。

 姉さんは残念がるかな。今回のは諦めて、またすぐに別の言霊に挑戦するよう誘導してみようか。


 俺はモーリスさんの体調よりも、言霊の未来の方が気になっていた。

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