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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第6章
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第38話 俺は姉さんと一緒に走る

「誕生日おめでとう」


 回復魔法の言霊を見た翌早朝、俺の部屋に突撃して来た姉さんに起こされ、俺は寝ぼけた頭で姉さんの言葉の意味を理解する。


 そういえば今日は俺の誕生日だった。


 9歳?


 前世の記憶が有るからか偶に実年齢を忘れてしまう。


「今日はエステルが居ないし、そっちはマリーが居ないでしょ。久しぶりに一緒に走ろうよ」


 部屋の壁に掛かっている時計を見ると朝の集合時間までまだ1時間以上ある。昨日魔力を使い過ぎて倒れたんだから、少しはゆっくりしたらいいのに。


「昨日早く寝たからか目が覚めちゃって。もう体調は万全だよ。それに日課をやらないとなんだか気持ち悪いからさ」


 体調が戻ってるって言うならいいんだけど。


 でも6時にならないと俺は動かないからね。あと1時間、俺は二度寝する。


「ん、解った。じゃあその間、私は剣でも振ってるから、いつもゲオルグが使ってる剣を貸して」


 壁に立て掛けてあるから持って行っていいよ。刃は落としてるから斬れはしないけど、鈍器にはなるから気を付けてね。


 は~いと返事をした姉さんは剣を握り締めてスキップしながら出て行った。


 随分と上機嫌だな。


 あの様子だったら体調が良くなったと言うのは本当だろう。回復魔法の言霊の副作用が一晩で元気になる程度の物で良かったと考えるべきなのかな。


 さて、時間が勿体無いから二度寝二度寝。


 あれだけ機嫌が良いのなら、姉さんは病み上がりでも関係無くきっと全力で走る。それについて行くために、少しでも体力を温存しなければ。


 だらけている訳ではないんだ。




 危うく寝過ごしそうになった所をアンナさんに起こされた俺は、手早く準備を済ませて庭に向かった。


 集合時間ギリギリで飛び込んだのは俺1人。


 カエデやサクラですらしっかり目覚めて集まっていて、非難の目を俺に向けている。気がする。


 遅れたことを皆に謝罪した後、既に汗だくになっている姉さんの掛け声でラジオ体操が始まった。




 はあ、はあ。ダメだ。息が乱れる。目の前で走っている姉さんは元気に掛け声を出し、すれ違う人に簡単な朝の挨拶をする余裕すらあると言うのに。


 化け物か。


 姉さんとの体力差、心肺能力差にこれほどの開きがあるとは思わなかった。俺だって2日に1回だけどマラソンはずっと続けて来たのに。マラソンの間に挟んでいる剣を振る日を削って、走る日をもっと増やすか?


 ダメだ。今は余計な事を考えるな。姉さんの背中を見て走る事にだけ集中しろ。


 じゃないと、置いて行かれるぞ。久しぶりに一緒に走るんだ。そんなかっこ悪いことは出来ない。




「エステルと一緒に走る時より速く長く走ったけど、しっかりついて来られたね。さすがゲオルグ」


 男爵邸の庭で大の字になって倒れている俺に、姉さんが賞賛の言葉を贈る。


 嬉しくない。


 クールダウンする余裕も無く庭で倒れた俺と違って、姉さんはしっかりと2本の脚で大地に立っている。多少は呼吸が乱れているようだが、まだまだ余裕が有りそうなその態度。剣を振っていた為マラソンをする前から汗だくだった人とは思えないその体力。やはり姉さんは化け物だ。


「ゲオルグだってちゃんとついて来たじゃない。歳の差もあるんだから、ついて来たゲオルグの方が凄いよ」


 そんな意見には全く共感出来ない。姉さんの歳になったとて同じように走れるとは思えないもんな。

 やはりマラソンを行う日数を増やすか。後でマリーと相談だな。




 姉さんが汗を流した後、俺もシャワーを浴びて食堂に向かう。


 先に朝食を食べ始めている姉さんは、珍しくカエデの食事を手伝っていた。


 カエデもサクラも子供用の椅子に座って大人達と一緒に食事をする。

 この頃は大人達が食べる真似をしようとスプーンやフォークを使いたがるようになった。

 でもそれらはまだ上手く扱えず、ぽろぽろと溢しながら何とか口に運ぶ。


 やりたがることはやらせるが中途半端はダメだという母さんの教育方針の下、助けを求められない限り食事にも手を出してはいけないことになっている。


 で、今は姉さんがカエデの口元に料理を乗せたスプーンを運んでいる。珍しくカエデが食事の助けを求めたという事だ。

 まあ姉さんが朝食堂に居る事がまず珍しいもんな。いつもはエステルさんと村で食事を済ませて来るから。助けを求めた過程は知らないけど、珍しく姉さんが居たから甘えたくなったのかもしれないな。


 微笑ましい2人を見ながら空いている席に座る。サクラは母さんの隣で頑張っている。

 姉さんを含めた家族の食事は久しぶりだ。父さんが居ないのは残念だけど、きっと村でマリーやマルテと一緒に食事をしているだろう。マリー達も長年一緒に生活して来た家族だからな。家族団欒には間違いないだろう。


 エステルさんを連れたアンナさんが姉さんを迎えに来るまで、カエデとサクラの食べる速度に合わせながら、俺はゆったりとした時間の流れを楽しんでいた。

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