第37話 俺は姉さんの夢を後押しする
全ての魔法をどんな人でも使えるようになる事。
そんな姉さんの夢を聞かされた俺は、凄い夢だね、と単純な言葉を返すことしか出来なかった。
「ふふふ、凄い夢でしょ。そんな事出来るわけないってゲオルグが否定しなかったのは嬉しいな」
その夢が実現可能か不可能かなんて考える暇がなかった。その夢の大きさにあっけにとられていたから。
姉さんは既に木火土金水、風、氷結、重力の8種を覚えていて、今回の言霊のお蔭で回復魔法も使えるようになった。確実に存在すると解っている魔法であと姉さんが使用出来ないのは雷撃魔法だけだ。
姉さんが全ての魔法を覚えるまであと一歩か。
魔導具だけは出回っている闇魔法や、図書館で名前だけ見た事がある光魔法や時空魔法もあるけど、それらはまだどういう魔法かよく解らないから、取り敢えずは除外だろうな。
「そうなんだよ、あと残りは雷撃魔法だけ。だから明日村に行ったらアミーラから教えてもらうんだ」
猫の魔物が魔法を教えてくれるかどうかは解らないけど、身近な存在で雷撃魔法を使えるのはアミーラしかいないから仕方ないか。ドーラさんはまだ別の大陸に行ったっきりで戻って来てないからな。
これまで姉さんは新しい種類の魔法を覚える時は必ず言霊を作ってから習得を目指して来た。雷撃魔法も同様に言霊を作る事が出来たらすぐに覚えちゃうんだろう。
「それが雷撃魔法ってなかなか想像出来なくて。王都の辺りって雨は降るけどあんまり雷落ちないよね。回復魔法はエステルが使って見せてくれたから何とか想像する事が出来たけど。アミーラに美味しいお肉を渡したら、魔法を使って見せてくれると思う?」
そうだね、アミーラに頼みごとをするなら食事を与えるのが一番だと思う。後は追いかけたり触ろうとしたりするのは嫌がるから、その辺に注意したら魔法を見せてくれるんじゃないかな。
「うん、本当は私も触ってモフモフしたいんだけど、我慢するよ」
アミーラは相変わらずロジーちゃんにしか自慢の毛並みを触らせないからな。俺も触れるなら触ってみたいと思うけど、無理矢理触ろうとして怒らせると尻尾で叩かれてビリッと痺れちゃうから。
「私、逃げられてばかりで尻尾で叩かれた事無いんだけど、痺れるの?それって雷撃魔法じゃないの?」
む?
確かにそうだな。俺は何度かアミーラを怒らせて叩かれたけど、物理攻撃と同時に雷撃魔法を喰らってたんだな。
「なるほど、怒らせるとそういう事になるのね。食事のお誘いが上手く行かなかったらそういうやり方も考えてみよう」
まあ本気で怒らせて村中に雷撃魔法を乱射するなんて事にならない様注意してほしい。
ところで、どうして自分だけじゃなくて、どんな人でもって言う条件にしたの?
これから色々な人に言霊を伝授していくつもり?
「どうして、か。う~ん。そのほうが面白いからって言っとこうかな。言霊はどんどん広めていくつもりだけど、父様やお爺様に相談しておかないと後で怒られると思うから、私の一存では広められないと思うね」
氷結魔法の言霊はヴルツェルのデニス爺さんが独占して数年経ってから一般公開された。重力魔法の言霊は未だ爺さんの手の中にある。雷撃魔法の方の利用価値はよく解らないけど、回復魔法は絶対に独占したがるだろうな。あの魔力を大量消費する言霊でも、確実に逃さないだろう。
「まあ広め方はどうであれ、私に出来る事はまず全ての魔法を習得する事。でも私の中で最難関だと思っていた回復魔法を使用出来たからね。雷撃魔法を覚えられたら、今までの言霊を整理して、もっと簡単な言霊をいっぱい作ろうと思ってるの」
そうなんだ、お手軽な言霊がいっぱい出来るといいね。
そういえば、俺は風は火を、氷結は水を、重力は土を、回復魔法は草木魔法を覚えておかないと魔法を習得出来ない、もしくは相当時間が掛かると思ってるんだけど、言霊だとそういう制約みたいなものは無いのかな?
草木魔法を使えない父さんでも、回復魔法の言霊は使えると思う?
「う~ん、どうだろう。私は気にした事無かったけど、確かに私が魔法を覚えた順番はそれに違えてないね。私はそういうのに関係無く使えるような言霊を作ったつもりだけど、試してみた方が良いね。ゲオルグも明日村に行って、父様が魔法を使う所を一緒に見てみようよ」
げっ。
う~ん、自分の目で確かめたいって気持ちはあるけど、今は村に行ってモーリスさんに会いたくないって気持ちの方が大きかったな。よし、断ろう。
「じゃあ明日の夕方、船で帰るクロエ達と一緒に村に来てね」
断る前に姉さんが話を決めてしまった。
まあいっか。夕方の船で行って翌日早朝の船でさっさと王都に帰って来よう。
「久しぶりにクロエに会うからって、クロエを虐めちゃだめだよ」
姉さんが不本意な忠告をして来る。そんなことするわけないでしょ。姉さんこそ、明日は1回しか言霊を使っちゃダメだからね。母さんと約束したのは知ってるんだから。
「は~い、だいじょうぶで~す」
気の抜けた声で返事をして来た姉さんは楽しそうにニコニコと笑っていた。
まさか俺とクロエさんがトラブるのを期待してるんじゃないだろうね。




