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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第6章
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第27話 俺は鷹揚亭でお茶をする

 ディルクさんとエマさんが祖父と孫娘の関係だと知った時の驚きは驚いた。


 エマさんのお母さんがディルクさんの娘なんだそうだ。


 いつも明るく元気に店内を切り盛りしているお母さんは、顔付はディルクさんに全く似ていない。似なくて良かったなと思う。エマさんに遺伝したら大変だ。


 強いて受け継いだところを言うとしたら、何時まで経っても若々しくて元気なとこだろうか。


「まあ、こんなおばさんを捕まえて。御世辞でも嬉しいわね」


「あらあら、ゲオルグ君は年上の女性が好み?」


「ゲオルグの生まれが後20年早かったら、娘の婿に宛てがってやったんだがな」


「何言ってるんですかお義父さん。僕達が結婚したから美味しいお酒をタダ飲み出来るんですよ。少しは感謝してもらわないと。それに、僕達に夫婦の仲は誰が来ても裂けませんからね」


 お母さんに対して若いと発した言葉を受けて皆が思い思いの反応をする。


 あと1時間ほどで夕食の混雑が始まる時間帯。店内は数組の客が居るだけで、俺達と会話出来るくらいには皆さんの手は空いていた。


 ヴェラさん、俺は年下より年上が好みなのは間違いないですよ。前世で妹が居たからかな。年下の子を見ると、妹っぽく思ってしまうのは。


 エマさんのお父さんはディルクさんの発言に、カウンター越しの厨房から激しく反発する。激しく、と言っても怒っている風ではなく表情は笑顔だ。少し言葉に棘が生えているくらいで。


 ディルクさんって誰にでも咬みつくのかな。特に同性には厳しい気がする。


「お祖父ちゃんが店に来たら、毎回ああやってお父さんと言い合うのよ。いつもの事だから気にしないでね。はい、私特製のドーナツ。揚げたてで熱いから気を付けてね」


 俺の姉さんから教わってメニューに取り入れたというドーナツが、エマさんに運ばれて俺の前にやってくる。


 なんの変哲もない、砂糖が掛かった普通のドーナツだが、エマさんお手製と聞くだけで価値が上がるというものだ。


 俺が座っているカウンター席の右手側では、ディルクさんが厨房に向かって文句を言いながら、枝豆とビールを交互に口へ運んでいる。


 左手側に居るのはヴェラさんだけど、エマさんのお母さんが淹れた紅茶を楽しんでいるだけ。鷹揚亭には美味しいデザートがいっぱいあるけど、そう言うのは注文しないんだろうか。


「体は元気なつもりだけど、内臓の機能が一部衰えてるらしいのよ。ニコル先生から食事制限の指導が出てるから、いろいろと食べられないの。私の事は気にせず、ゲオルグ君は若いんだからいっぱい食べてね」


 柔らかな笑顔で食べて食べてと勧めて来るヴェラさんは、食事制限が必要になるほど重病な患者とは思えない。


「随分前から眩暈がすると仰ってましてが、それほど悪いんですか?」


 エマさんが心配そうに話しかける。どういう病気なのか解らないが、長い事患っているのかな。


「そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫よ。食事制限は一時的な物だって先生は仰っていたから。エマちゃんがお嫁に行くまで、まだまだ私は長生きするから」


「儂が良い医者を教えたからきっと大丈夫だ。それに、エマが嫁に行かずにここに入れば、儂達はずっと長生き出来るぞ」


 ディルクさんが真面目な顔をしてとんでもない事を口にする。孫に結婚するなと言うなんて、冗談なのか本気なのか区別出来ない。どう突っ込めばいいのか。


「エマが結婚して曾孫を見せるまでは長生きしてくださいね」


 結婚するなと言うディルクさんに曾孫を見るまで死ぬなよとお父さんが返す。

 上手い返しだなと思った。曾孫を見るのもいいなとディルクさんも納得している。長年ディルクさんと付き合っているとそういう上手い返しを覚えるんだろうか。


「そうね。私もエマちゃんの子供が産まれるまで頑張らないと。ゲオルグ君も頑張ってね」


 はい?


 なんで俺に話を振るんですか。


「ふふふ、ドーナツ美味しそうね。やっぱり私もドーナツを頂こうかな。砂糖は控えめにしてね」


 先生には内緒にしてねと微笑むヴェラさんの注文を受けて、エマさんが嬉しそうに厨房へ入る。


 確かにドーナツは美味しかった。俺の皿の上は既に空っぽ。自腹で良いから、俺もおかわりしようかな。


「未熟者め」


 ビールを煽りながらディルクさんが短く言葉を発する。


 一緒にビールを飲めなくてすみませんね。成人するまではお酒は飲まないと決めてるんで。

 俺がお酒を飲めるようになったら、一杯ビールを奢りますよ。


「そういう意味で言ったわけじゃないが、まあ、先の楽しみの1つにしてやるよ」


 もごもごと言いずらそうに反応したディルクさんに対して、厨房のお父さんが右手の親指を立ててよくやったと合図を送って来る。


 適当に言った言葉がディルクさんの心に刺さったようだ。

 この約束を履行できるように俺も忘れないようにしないとな。

 変な絡み方をしてくるディルクさんは面倒なだけだけど、今のディルクさんの表情は、それほど嫌いじゃない。

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