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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第6章
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第24話 俺は手紙の返信を拒む

 カエデとサクラに癒された心を再び痛めつけるように、モーリスさんが俺に手紙を書いて来た。


 内容をざっくり要約すると、この前の討論が長時間に渡ってしまった事を謝罪しつつも、その時にどれ程楽しかったかと訴えていた。更に、討論後に思いついたらしい遺伝子に対する考えをつらつらと記載し、最後にはゲオルグ君はどう思うかねと投げかけ、それが終わりの言葉だった。


 書き出しの辺りは反省したのかなと感じたが、この老人は全く反省していなかった。


 手紙を書き始めて筆が乗っちゃったのかもしれないけど、後半の遺伝子に関する話の方が長い。


 どう思うかって?


 面倒だとしか思わない。


 数日時間を置いたら村に戻ろうかとも考えていたが、それは取りやめだな。

 手紙の返信もしないでおこう。

 アンナさんも次はモーリスさんの手紙を受け取って来ないでね。


「う~ん。あの方は放っておくと王都までやって来ると思いますよ。昨日もゲオルグ様を探して男爵様に詰め寄っていたようですから。なんとか手紙を受け取ることで押さえてもらったんだと、男爵様が仰っていました」


 うげ、モーリスさんの行動力には舌を巻くな。

 知的好奇心だけで何も恐れず村のトップに咬みつけるのか。


「男爵様からも手紙の返信は必ず書くように伝えろと言われてますので、今日の夕方は無理でも明日の朝までにはお願いします」


 ぐっ。もう逃げられないのか。


 仕方ない。少しだけモーリスさんと向き合うことにしよう。




「それで、貴方はまた私を頼りに来たの?」


 ははは、すみません。この問題ではニコルさんしか頼れる人が居なくて。


「私も診察で忙しいんだけど。で、何なの?」


 この前作った本を読んだ人から遺伝子について質問が来てまして、詳細はこの手紙を呼んでください。


 俺はモーリスさんから届いた手紙をニコルさんに呼んでもらった。




 無言で手紙を読み進め、読み終わったと思ったらもう一度頭から読み返す。


 マリーもルトガーさんも居ない2人だけの診察室で、ニコルさんのその様子を、俺は緊張しながら見つめていた。


 こんな面倒な話を持ってくるなと怒られるだろうか。自分で考えなさいと突き返されるかな。

 都合の良い時だけ頼って来るなと言われたら反論が出来ない。


 手紙を二度読み終えたニコルさんは、1つ大きなため息をついて口を開いた。


「要するに、この人は回復魔導師を増やしたいと思ってるんだね。回復魔導師の子供が確実に回復魔導師となれるようにしたいと。そんなこと、それこそこの人が書いてあるように神の赴くままにだろうに」


 やっぱり、ニコルさんでも無理ですか?


「科学技術が発展していないこの世界では無理だね。どういう遺伝子が魔法の才能に関わっているのか調べる事すら出来ないんだから。科学技術の世界から来たゲオルグなら、それを理解しているだろ?」


 うん。前世の日本でもクローンは聞いたことが有るが、遺伝子を操作して子供に任意の才能を引き継がせるなんて話は聞いたことが無い。

 でも高校にも行かずに早世した俺より、医者として長く働いていたニコルさんなら何か知っているかと思ったんだけど。


「私とゲオルグの歳の差は、20年以上あるんだよ。それはつまり前世の世界で私が死んでから20年以上経って貴方が死んだという事。私が死んだ時より貴方が生きた時代の方が技術は発展してるはずでしょ。例え大学に行って無くても働いてなくても、新技術は貴方の方が絶対に詳しいわよ。つまり、私は知らないし、そんなこと出来ない」


 なるほど。前世の発展速度で20年の差は大きいよな。ニコルさんが知らない知識を俺が持っていると思うと、なんだか少しだけ優越感。


「なにニヤニヤしてんの。気持ち悪いよ?」


 うぐっ。ニコルさんの鋭い言葉の刃が俺の心に突き刺さる。

 優越感に浸っていた心が顔に出ちゃったんだろうが、気持ち悪いは言い過ぎじゃないだろうか。


「まあつまり、前世の知識ではどうしようもないって事よ。遺伝子工学の専門家が転生して来たら何か手段を思いつくかもしれないけど、基本的な科学力の無いこの世界で一からやって行くのは無理でしょうね。電子顕微鏡もクリーンベンチも無いんだから」


 電子顕微鏡の名称は聞いたことはあるけど実物は見た事が無い。クリーンベンチという物は聞いた事すらない。そういう専門的な知識は前世の生きた年代が違うとはいえ、やはりニコルさんの方が上だった。


 科学の力で無理なのはわかった。じゃあ魔法ではどうかな?


「もう少し考えて発言しなさい。どういった魔法を使って遺伝子を操作するつもりよ。因みに回復魔法では無理だから。男女の産み分けすら回復魔法では出来ないんだからね」


 すみません、何も考えていませんでした。

 俺はすぐに頭を下げて謝罪する。ニコルさんの機嫌を害してしまう訳にはいかないからな。


 でも、結局は出来る事が無いって事だよな。モーリスさんの口を封じる手段は無いと。


「そういう事だね。気が済むまで話に付き合ってあげたら?年寄りの話も偶には役に立つことがあるかもよ?」


 ニコルさんはモーリスさんに会ったことが無いから、そんな呑気な事が言えるんだよ。あの人と話すともの凄く精神が削られるんだからね。


 どれだけ大変だったかと愚痴を言おうとしたら、タイミング悪く看護師さんがニコルさんを呼びに来た。


「患者が来たみたいだからこれで話は終わり。良い本を作ってくれたから話くらいはまた聞いてあげる。時間があれば、だけど。じゃあ、また」


 ニコルさんと別れて診療所の受付へ向かうと、数人の老人がおしゃべりをしながら診察を待っていた。


「お、ゲオルグじゃないか。久しぶりだな」


 声を掛けて来たその人は、アプリちゃんの回復魔法によって魔力検査で剣を振るったディルクさんだった。

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