第4話 俺は姉さんを見送る
「頼むよリリー、他の冒険者と問題を起こさないでくれ」
ギルマスが母さんに頭を下げて懇願している。
冒険者ギルド内で起きたトラブルを何とか穏便に済ませたギルマスは、俺達を連れて二階の応接室に入った。
母さんは金ぴか装備を脱ぎすて、ソファーに座って寛いでいる。あれは誰が持って帰るんだろう。
「私はいつも売られた喧嘩を買っているだけです」
いつもあんな感じなの?
いつも勝つから問題ないのよ、と母さんが優しく教えてくれた。その笑みが怖いんですけど。
「問題大有りだ。リリーに負けた奴らはみんな王都を去るから、我がギルドは慢性的に人手不足なんだぞ」
「その分私たちのクランが色々請け負っているじゃない」
「自分達のクランへ仕事を回すために他の冒険者達を減らしているんだ、って噂になってるぞ」
「粗暴な冒険者が減って街の治安が良くなった、って警備隊の人達にお礼を言われたわ」
こういうのを暖簾に腕押しっていうのかな。ギルマスが追及してもひらりひらりとかわしている。
「はあ、もうわかった。残ってる冒険者達にはリリーのクランに手を出さないよう再度注意しておくから、そっちから喧嘩を売るようなことはしないでくれよ」
「はーい」
うん、これは禿るだろうな。
これ以上問題を起こすならもう王都から出ていけ、って言いたいんだよね。でも母さんたちがいなくなる損失の方が大きいんだ。ギルマスには他の冒険者達を抑える方向で頑張ってほしい。
「はいはーい。私も母様のクランに入る」
姉さんが手を挙げてソファーの上でジャンプしている。いま入ったらギルマスが倒れちゃうよ。
「クランに入るのはもう少し大人になってからよ。いつまでも待っているから、今はいっぱい遊びなさい」
わかった、と元気よく返事をする。この世界では何歳から大人になるんだろう。
「ちょっとヴルツェルに連絡したいから通信魔道具を使用させて欲しいんだが、いいかな?」
今まで黙っていた父さんが、会話が途切れたのを見てギルマスに話しかけた。
「いいけど、受付で金を払えよ」
露骨に残念そうな顔をする父。どさくさに紛れて無料にしてもらおうとか、そんなせこい考えじゃないよね?
応接室を出て通信室に移動する。
その部屋には男性が一人待機していた。通信担当のギルド職員だそうだ。
職員の目の前に設置しているのが通信用の魔導具だろう。バスケットボール大の球形が3つ。水晶玉占いを思わせるように透き通っている。
職員はペンと板状の道具を持って俺達を出迎えた。
父さんが職員に通信したい内容を伝える。アリーとアンナが明日そちらに行くから、しばらく泊まらせてほしい。
返信の費用はこちらで、と母さんが付け加えた。
伝言を再確認した職員がペンを使って板状の道具に内容を書き込んでいく。板を覗き込んでみたが何も書かれていない。
こっちだよと父さんに言われた方を見ると、球形の魔導具の内部に文字が浮かんでいた。おお、と声が漏れてしまう。
これと同じものが各地に設置されていて、文字でやり取りが出来るらしい。
書いた文字はしばらくして消えてしまったが、代わりに新たな文字が出現した。なになに、確認が取れたら連絡する、と。これがヴルツェルから送られてきたのか。
内容を確認した職員が魔導具を操作し、文字が消えて元の透明な球に戻った。
送られてきた文字は消さないとずっと表示されるが、その間は次の連絡が取れないらしい。魔力検査の時は各地から検査結果が送られてきて大変なんだとか。
うへぇ、考えただけでもてんやわんやになりそうだ。何か所で検査が行われるのか知らないけど、3人で3つの魔導具を使っても間に合いそうにないね。
魔導具は風魔法と雷撃魔法を使って文字のやり取りをしているらしい。
ラジオとか無線みたいな構造なんだろうか。文字を送るからメールか。そういうのに詳しい転生者が作ったんだったりして。
また夕方に来ると伝えて、俺たちは冒険者ギルドを出た。
母さんの金ぴか装備は、後で回収に来るとギルドに預けられた。そのまま放置されそうな気がする。
それから姉さんの希望でしばらく食べられなくなるからと、魚人族の料理屋でお昼を食べた。父さんはもう完全に遅刻だから焦ってもしょうがないと、食事をしてゆっくり仕事に向かっていった。
夕方ギルドに行くと、2人の訪問を歓迎する、と返事が来ていた。
そういえば爺さんの家に行くのに、手土産を買うのを忘れていた。
まだ開いている店を探して何がいいかと検討する。俺はヴルツェルの祖父に会った記憶が無い。姉さんも無いらしい。私の父と比べてとてもいい人だから何でも喜んでくれるわよ、と母さんが教えてくれた。辺境伯もいい人だと思うけどな。
夕食は慰労会で一緒だったエマさんの家で過ごした。慰労会後に何度も訪れていてご家族にも挨拶済みだ。
エマさんの家は、お肉を使った家庭料理がメインの飲食店。うちのコックはあまりやらない味付けが楽しめるんだ。
昼からお酒が飲めるらしく、何度か父さんが友人と昼から酒盛りをして迷惑をかけている。出禁とか勘弁してよね。
姉さんは早めに就寝。翌日の日の出前に、アンナさんと共に王都を離れて行った。気をつけてね。
父さんが仕事から帰ってきたのは、姉さんが出発してしばらく経ってからだった。
遅刻したせいで上司から叱られ、朝まで仕事を手伝わされてたらしい。
父さんの感じから緩い職場かと思ったら、割とブラックだった。いや、父さんが悪いんだ。これにこりたら真面目に働いてよね。




