第17話 俺は魔力検査の結果を喜ぶ
魔力検査の翌日、今年表彰される子供達が発表された。
魔力検査上位3人は知らない名前だった。どこかの貴族の子供達。今年も民間からの入賞者は無し。
アプリちゃんは去年新設された魔力賞を受賞した。
魔力量を測定する測定試験では1位だったが、魔法を披露する技能試験では力を見せられなかった子供に贈られる賞。去年ロミルダが貰った賞だ。
つまりロミルダが使った草木魔法と同様に、アプリちゃんが使った回復魔法も評価されなかったという事だ。
確かに魔法の操作という点では評価しにくいのかもしれない。
派手に活躍していたのは回復魔法で腰の調子を取り戻したディルクさんだし、どっかの誰かさんが無駄に多くの土塊を放ちまくったお蔭で規則とは違った検査になった。その結果、他の子供達と比べ辛くなったのは理解出来る。
回復魔法の事、隠そうとしているのかな。
隠すつもりではないとしてもそう邪推してしまう。
あの時多くの観客が回復魔法を目撃した訳だから、魔力検査の結果を操作するくらいでは情報の拡散を防ぐことは出来ないと思うが。
そして我が村の子供5人衆は、5人纏めて創見賞を贈られた。
これは測定試験の結果は関係無く、技能試験の中で他に類を見ない独創的な魔法を見せた者に贈られる賞だ。まさか5人纏めて受賞するとは思っていなかったから驚いた。
朱雀や麒麟など一つ一つは姉さんが見せた事が有る魔法の模倣だから独創的な魔法だとは言い辛いが、5人で連携して魔法を使ったという点が評価されたんだろうか。
あれを一度見ただけで5人が連携していると検査官が判断出来るとは思えない。
姉さんや父さんの話を聞いたであろうギルドマスターが意見したのかな。
まあ経緯はどうであれ子供達が5人同時受賞を喜んでいるからいいかと納得し、俺も喜ぶことにした。
今後我が村以外でも、子供達が協力して技能試験を受ける事例が出るかもしれない。魔力量が少なかったり、魔法技術が未熟な子供でも、協力することで同時受賞の可能性が出来た事は、きっと喜ばしい事だと思う。
魔力検査の判断基準も気になる所だが、それよりも気になるのは父さんの態度だ。
父さんは昨日の夕方王様に呼ばれてお城へ行った時の話を教えてくれない。
魔力検査の件についてでしょと問いただすと口籠ったから、それについてであることは間違いないと思うが、絶対に口を割らない。
何を話したのか凄く気になる。
今朝もどんよりと重たい空気を身に纏いながら朝食を食べた後、父さんは嫌々王城に向かって家を出た。
その態度は何か大変なことに巻き込まれていると言っている様なものだ。気になるから、せめてポーカーフェイスを貫いてほしい。
魔力検査の日から5日後、未だにいつもの調子を取り戻さない父さんが、村で魔力検査のお祝いをしようと言い出した。
既に検査結果が伝えられた日の夕方、姉さん主動で祝いの会は開催されたけど、もう一度やると?
「今年も子供達は王城で開かれる慰労会には参加しないことになったから、その代わりだ。俺は今日から村に行って2日後に開催する為の準備をする。皆も2日後までには村に来てくれ。リリーもカエデ達と一緒にな」
お祝いの会を開こうとしている人が、なんでそんな顔をしているんだ。
面倒だと思っているならやらなきゃいいのに。
「俺だってやらなくてもいいのならやらないよ。でも、そういう訳にはいかないんだ。じゃあ行って来る。皆も遅れずに来てくれよ」
何を隠しているのか解らないが、泣きたくなるくらい辛いのなら止めてしまえばいいのに。
ストレスを溜めすぎると禿ますよ。
父さんの言葉に従って、俺達は2日後に高速船で村へ向かった。
生後約1歳半になるカエデとサクラは久しぶりの遠出だ。
カエデは発育が早く、数歩ながら歩けるようになっている。更に少しだけ言葉を発せられるようになったカエデは、なんでもかんでも口にして新しい言葉を覚えようとしている。
感情表現も豊かで船着場に並ぶ船を見て喜び、好奇心旺盛に高速船の中を動き回っていた。
しかし船が動き出した途端に母さんの傍を離れなくなり、その速度や揺れが気に入らなかったのか泣き始めた。
笑顔も泣き顔も、偶に怒った顔も見せて表情がコロコロ変わる子だ。
反対にサクラはあまり動こうとしない。カエデと同じくらいに声を出せるんだけど、自分の気に入った事柄以外にはだんまりを決め込む。カエデと違って沢山の船を見てもどこ吹く風で俺に絵本を読めと本を差し出してくる。
船で移動中も全く動じることなく俺に絵本を読ませ、飽きたら眠るという神経の図太さ。
泣く事はあまりなく笑顔も少ないが、自分の気に入らない事に関しては眉間に皺を寄せて怒りを表現する。
双子ってこんなに違うものなの?
双子はよくシンクロすると聞いたことがあるが、まったくその様子は見られない。
寝顔や寝姿は全く同じなんだけどな。
絵本に飽きて眠るサクラと泣き疲れて眠るカエデを見比べながら、2人は魔力検査でどんな魔法を見せるのかと随分先の未来を想像していた。




