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俺は魔法を使いたい  作者: 山宗士心
第6章
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第13話 俺は嫌な予感の正体に気づく

 王城内で王侯貴族関係者の子供達が参加して行われる魔力検査を見学していると、お目当てのアプリちゃんが会場に現れた。


 しかし、アプリちゃんは独りではなく、腰が曲がって杖を突くお爺さんの手を取って一緒に現れた。


 あの人は誰だ?

 どうしてアプリちゃんはあの人と一緒に?


 俺と同じ疑問を持った王子もあの人が誰なのか知らないようで、王子は側に控えていた壮年の男性に確認を取っている。以前から王子の家庭教師的な立場も担っている御付の人だ。


「どうやら以前にお城で働いていた庭師のようですね。庭師になる前は軍の兵士だったとか。僕が産まれる前に腰を悪くして庭師も引退したようです。アプリはどこであの人と」


 王子の言葉にもう一度御付の人が答える。


「なるほど、今お城で雇っている若い庭師のお師匠様で、偶に様子を見に来ていたんですね。最近アプリは温室の外に植えられている植物にも興味を示していましたから、そこで知り合ったんでしょう。でも、どうしてアプリはその人を検査に連れて来たんでしょうか?」


 それに関しては御付の人も答えられないようだ。


 視線を隣の王子から訓練所のアプリちゃんに移す。


 案の定関係無い人を連れて来たアプリちゃんは検査官に注意され、口論となっている。

 庭師のお爺さんは口論には参加せず、杖を突きながらゆっくり歩いて訓練所の中央へ移動する。

 そこは技能試験の開始位置、本来はアプリちゃんが1人で立つ場所だ。


「ほれ、土を動かせ。やらないのなら此方から行くぞ」


 老人とは思えない程に力のある声が、離れた観客のお腹にまで響き渡る。


 土塊の操作を担当する検査官はその言葉を聞いても動かない。

 そりゃそうだ。老人の検査を行う場所じゃない。


「よろしい。では宣言通り、やらせてもらう。怪我をしても恨むなよ」


 老人は言葉を紡ぎ終わると、右手で先端を持っていた杖を地面から離し、左手を杖に添えて一気に右手を引き抜いた。


 し、仕込み杖?


 一瞬で戦闘態勢に移行した老人の右手には、細身の直剣が握られていた。

 それは左右に分かれた杖の内部から現れた直剣。銀色に輝く剣身を皆に見せびらかせ、早く獲物を寄越せと主張している。


 しかし老人はその剣の期待に応えることなく、一歩も足を踏み出せずに地面に膝を付いた。


「あいたたたっ。こ、腰がっ。剣を抜いただけで動けなくなるとは、無念」


 は?


 剣を抜いた事で生まれた緊張感が、老人の言葉によって一瞬で霧散する。

 引き抜かれた剣に反応して土魔法を発動しかけた検査官も、慌てて魔法を解除した。


 観客達から嘲笑と罵倒が痛みを堪えて蹲る老人に向けられる。

 この老人は何がしたかったんだよと俺も思うが、そこまで罵詈雑言を向ける程の事かとも思ってしまう。


「嬢ちゃん、儂はもう動けそうにない。あとは頼んだ」


 力強い言葉を放った老人はすっかりと鳴りを潜め、弱々しい声でアプリちゃんに後事を託す。


 このまま息を引き取ってしまいそうな雰囲気に怒号を発していた観客達にも戸惑いの色が現れる。


 本当に、この老人は何をしたかったんだ?

 場の空気を混乱させただけだよな。


 あまりの出来事にアプリちゃんと口論していた検査官も唖然として動きを止めている。

 その隙を付いたアプリちゃんは老人の傍へ駆け寄って、背中から腰のあたりを摩って優しく声を掛けた。


「大丈夫ですよ、ディルクさん。すぐに良くなりますからね。イタイのイタイの飛んでけ~」


 ん?


 老人の背中を摩っているアプリちゃんの右手から淡い光が放たれる。

 俺だけの見間違い、では無さそうだ。皆がアプリちゃんが放つ穏やかな光に視線を奪われている。


 嫌な予感の正体はこれか。

 手紙に余計な事を書くんじゃなかった。


 柔らかな、優しさを感じる光がゆっくりと収束して消え去ると、先程まで痛みを訴えていた老人がすっくと立ち上がり、屈伸したりジャンプしたりして体の調子を確かめる。


「うんうん、これこれ。体が何十年も前の物に戻ったようだ。何度体験しても止められんな」


 笑いながら準備体操をする老人の姿を見て、誰もが思ったはずだ。


 回復魔法。


 身体の調子を整えて若い肉体を取り戻させたその魔法は、誰もが羨み、自分も恩恵を受けたいと欲する回復魔法。


 あれが有れば不老不死に、なんて思っている人間も、もしかしたらこの中に居るかもしれない。


「あまい」


 そんな皆から羨ましがられる魔法を身に受けた老人は、身軽に翻って剣を振り下ろし、背後から襲って来た土塊を一刀両断にした。


 一撃で沈んだ土塊に続いて、1つ、また1つと土塊が飛来する。

 ニヤリと口角を上げた老人は背中でアプリちゃんを護りながら、飛んでくる土塊を仕込み杖で斬り落とす。


 2つ目、3つ、4、5、6?


 いくら斬り落としても飛来する土塊は止まらない。徐々に速度を上げて、数を増やして、大きさを増して、老人を痛めつけようとやって来る。


 おいおい、何やってんだよ検査官。検査で使う土塊は4つのはずだろ。

 受験者に向かって土塊を飛ばす事すら異常なのに、いったいいつまで攻撃するんだ。


 それから暫く、土塊と老人は動きを止めなかった。

 数えていたというマリーの言葉を信用すると、ちょうど百個目の土塊が動きを止めた時、漸く訓練所内に静けさが戻った。

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