第12話 俺は嫌な予感を再燃させる
我が村の子供達が魔力検査で使った言霊の影響が継続していないことを確認した俺達は、ギルドマスターに呼ばれた姉さんや子供達と別れて冒険者ギルドを出た。
冒険者ギルド周囲の道には受験者や観戦者の購入を期待して多くの屋台が立ち並んでいる。
観戦しながら片手で食べられる軽食が人気で、王都周辺の村から魔力検査にやって来ている人達を対象としたお土産も多く売られていた。
並んでいる屋台にもそれなりに客足が見られるが、一際大きな人だかりが出来ている場所が有る。
去年ロミルダが大きく育てた街路樹の周りだ。
草木魔法で無理矢理成長させた街路樹は枯れることなく1年を過ごした。今は季節的に葉が無く寂しい姿をしているが、去年の夏は青々とした葉っぱを身に纏い元気な姿を見せていた。
その樹木が今年、人気になっているんだ。
魔力検査の成功を祈願する御神木として検査に来た子供達が祈って行くんだ。
今も街路樹の周囲でピシッと直立して礼拝したり、膝を付いたり、樹木に手を当てたりと、思い思いの方法で街路樹に祈りを捧げている。
先程検査が終わった子供達も冒険者ギルドに入る前に街路樹の前で祈った。
それを見たロミルダは何とも言えない表情をしていたけど。
勝手に成長させた街路樹が枯れずに元気でいる事にほっとしている気持ちと、祈られることに対する恥ずかしさが鬩ぎ合っているのかな。
ロミルダが直接祈られている訳じゃないんだから恥ずかしがること無いじゃん。
ロミルダも祈って行けば?
あの街路樹も育ての親が祈ってくれたら喜ぶんじゃない?
街路樹の方を見ないようにして足早に去っていくロミルダの背中を追いながら、ちょっとからかい過ぎたかなと反省する。
実はあの街路樹に祈ると御利益があるという噂を流したのは男爵家だ。大きく伸びた枝を選定したり、急激な成長によって盛り上がってしまった周囲の地面を整地し直したりしたのも、男爵家だ。
ロミルダが頑張った証を残しておこうと思って俺が提案して、男爵家の名が残るのならと父さんも納得して資金を出してくれた。
これからもあの街路樹は生き続け、検査にやって来た子供達を見守ってくれるだろう。
御利益があるかは解らないけどね。
一度も後ろを振り向かずに歩き続けるロミルダの背中を見守りながら王城の南門に到着すると、父さんがあっちにいったりこっちにいったりと落ち着きない様子で門の前に居た。
俺達に気づいた父さんは大きく手を振りながらこちらに走って来た。
「おい、時間ギリギリだぞ。もう1人で中に入ろうかと思っていたところだ。ん?アリーはどうした?」
ちょっと色々有って、姉さんはギルドマスターに呼ばれて冒険者ギルドに残ってる。
「え?あれか?言霊の件でか?」
あっ、父さんも知ってたんだね。うちの村の子供達の後に試験を行ったギルドマスターのお孫さんが火魔法を使って、それに言霊の力が乗っちゃって。お孫さんの試験の邪魔をしちゃったのがまずかったのかも。
「ええっ、そのことは事前に説明しているんだぞ。あ~、俺も行った方がいいのか?」
さあ?
父さんを呼んで来いとは言われなかった。
心配なら行った方が良いんじゃないかと思うけど、行くなら俺達は勝手にお城に入るよ。
「あ~、うん。とりあえず中に入ろう。で、プフラオメ王子かマルティナ様に会ったらお前達を託して俺は冒険者ギルドに行って来る。検査を観終わってもマルティナ様達と一緒に居て勝手に帰るなよ」
はいはい、じゃあそれで。
「そうですか、男爵もアリーさんも冒険者ギルドの方に。僕もその5人の演技を見てみたかったですね」
プフラオメ王子と合流した俺達は、父さんと別れてアプリちゃんが魔力検査を行う軍の訓練場へと向かっている。
王子と会うなり挨拶もそこそこに城を出て行った父さんの事を説明するのがちょっと面倒だった。
魔法に関しては、村に来る事が有ればいつでも見せてあげられると思うけど。
「う~ん、僕も行きたいんですが暫くはゲオルグさんの村へ行くことは出来ませんね。ここ最近は外出の制限が厳しくて、自分が管理している領地にも行けない状況なんです。監視と護衛も沢山ついていて、ちょっと息が詰まる感じで」
それは、アプリちゃんの事件が有ったから?
「そうですね。まあそれは仕方のない処置です。アプリを狙う勢力からその身を護るには僕1人の力では無理ですから」
王子は少し悔しさを滲ませる。
家族の命は重い。その命を護る為には自らの意地やプライドに固執してはいけないんだ。
王子もそれは解っているはずなのに、心のどこかに反発する気持ちが隠れているのかもしれない。
王子になんと言って励まそうかと考えていると、訓練所についたと王子が口にした。
「今はアプリの3人先の子が検査を受けていますね。間に合ってよかった。因みに今のところ測定試験ではアプリが1位でしたよ」
先程とは打って変わって明らかに自慢げな表情。
そりゃよかったね。そんなに自慢されたら、王子の事を心配する気持ちも吹き飛ぶよ。
それから暫く俺達は文通の手紙には書き切れないような世間話をしてアプリちゃんの登場を待った。
約10分後、漸く俺達の前に現れたアプリちゃんは、腰の曲がった老人の手を引いてゆっくりと歩いて来る。
あの時、アプリちゃんと話をした時に感じた嫌な予感が、俺の心の奥底から再び湧き出て来ていた。




